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公的年金財政検証の復習と予習 ~2019年財政検証結果の主な注目点は…

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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4 ―― 注目点3=在職老齢年金の見直し:費用をどう賄うかが議論のポイント
そもそも在職老齢年金制度は、老後の年金(老齢厚生年金)の支給要件に退職が含まれていた時代に始まり、当時は在職者にも特別に年金を支給する制度だった8。その後、支給要件から退職が除かれた際に、現在のように年金額の一部もしくは全部を減額する仕組みとなっている。在職老齢年金制度は、高齢者の就業を阻害しない観点と現役世代の負担を配慮する観点の両面のバランスをとりながら、これまで何度も改正されてきた。
支給開始年齢が65歳に引き上げられることは決まっているため、制度改正の焦点は65歳以上への減額の廃止や緩和とみられる9。在職老齢年金制度によって減額されている年金額は、現在、60~64歳で年間約0.7兆円、65歳以上で年間約0.4兆円とされる。0.4兆円は、近年の厚生年金の給付費(約30兆円程度)の1%強に相当する。前回のオプション試算でも、在職老齢年金制度を廃止した場合に厚生年金の給付費が当面0.6~0.9%程度増加する試算となっている10。この傾向が将来も続くならば、在職老齢年金制度を廃止した場合、マクロ経済スライドによる給付削減を1年程度延長する必要が出てくる11。給付削減を延長させないためには、その代わりに保険料などの収入を増やす必要がある。
この在職老齢年金制度の見直しに必要な財源をどのようにして賄うかが、大きな課題である。厚生年金財政の枠内の見直しでは、当面の保険料の引上げで賄うにしても、保険料を引き上げずに将来の給付水準の低下で賄うにしても、これまでの改正と同様に世代間のバランスの問題となる。視野を広げれば、高所得高齢者の基礎年金を減額したり年金等への課税を強化して、その財源を回す方策も考えられる。しかし、これらは(高所得)高齢者の就労を促進するという在職老齢年金見直しの主旨と逆行する。今後の議論が注目される。
8 その背景は、当時の高齢就業者は低賃金の場合が多く賃金だけでは生活が困難だった、とされている。
9 65歳以上の在職老齢年金制度では、厚生年金と給与の合計が47万円(2019年度)を超えた場合に、厚生年金額から47万円を差し引いた残額の半分が減額される。受給開始を繰り下げている場合にも適用される。基礎年金には影響しない。
10 経済ケースGのマクロ経済スライドの停止前(2030年度まで)における、現行制度ベースとオプション3での見通しの差。
11 財政検証では、約100年後の積立度合がちょうど1になるように、停止年度のマクロ経済スライド調整率が加減される。しかし、実際の制度運営において停止年度の判断基準や停止年度の調整率をどのように加減するか(数ヶ月だけ適用するか等)は、2004年改正以降きちんと議論されておらず、今後の大きな検討課題として残っている(詳細は拙稿「実はブレーキがない年金削減!?~マクロ経済スライド終了手順の議論、決定、周知を」参照)。
5 ―― 他の注目点:マクロ経済スライドのフル適用等も課題だが、「年内の結論」には時間不足か
12 詳細は、拙稿(共著)「2014年年金財政検証と改革の選択肢」(および訂正稿)を参照。なお両案は、前回の財政検証後の審議会の議論では有力な案だったが、財務省や与党との調整の過程で法案化が見送られた。
(2019年08月22日「基礎研レター」)

03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
中嶋 邦夫のレポート
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