2019年08月07日

現代消費文化を覗く-あなたの知らないオタクの世界

基礎研REPORT(冊子版)8月号

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1―きっとあなたは

ブランド品を買った後に“見せびらかしたい”と思うだろう。流行に遅れたくない、とトレンドをチェックすることも欠かさないだろう。

一方で、誰の目も気にせず、自己満足のために消費を繰り返しているものもきっとあるはず。現代消費文化の多様性により、我々の消費は他人の目を気にせず、自身の「精神的価値」を持続的に追求するような「第三の消費文化」*1としての側面が強くなってきている。その顕著な例として、筆者はオタクの存在を無視できないと考えている。彼らの「好きなもの」に対する情熱や、過度に消費を行う消費行動こそ、第三の消費文化論の象徴であるといえるだろう。
 
*1 間々田孝夫(2011)「『第三の消費文化』の概念とその意義」『立教大学 応用社会学研究』, 53, 21-33.

2―オタクって誰の事?

オタクときいてあなたは何を思い浮かべるだろう。何かに没頭して、消費を繰り返すマニアや、コレクターなどを思い浮かべるかもしれない。もしくは根暗で引きこもりがちな人や、バンダナにネルシャツ、ケミカルウォッシュのジーンズにポスターのはみ出たリュックサックを身に着けているような容姿に気を配らない人を連想したのではないだろうか。

3―「マニア」と「レッテル」

我々がオタクの話をすると、ポジティブなイメージを持つ「マニア」と言う文脈でのオタクと、ステレオタイプやネガティブなイメージとして「レッテル」の文脈でのオタクが混在しあう。

経済学の文脈で話せばオタクは「過度にお金や時間の消費を繰り返す消費者群」*2であり、まさにマニアとしての側面が大きくなる。オタクは自らの趣味のためにコンテンツを多く消費することが知られており、非オタクに比べて趣味に対する支出が多いことが分かっている*3。例えば2018年のアニメ関連全体市場規模は、2兆1,527億円であったという(デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書2018」)。もちろんこの売上すべてがオタクの消費によるものとは言えないが、オタクという存在が消費に対するポテンシャルが高く、これらの売り上げを牽引している可能性があることは否定できないだろう。

ポジティブな文脈で使われる「マニア」としてのオタクが存在する一方で、我々のオタクに対するネガティブなイメージにより構築された「レッテル」としてのオタクが存在する。彼らが、例え無趣味でマニアのような収集癖を持っていなくても、他人からオタクであると認識された瞬間にそこにオタクは生まれる。この背景には、大ヒットした映画「電車男」を始めとして、メディアがこぞって秋葉原を特集し、アキバやオタクの存在をステレオタイプなイメージ像にもとづいて世の中に提示したからであると考えられる。
 
*2 野村総合研究所 オタク市場予測チーム(2005)『オタク市場の研究』東洋経済新報社
*3 折原由梨(2009)「おたくの消費行動の先進性について」跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 8,pp.19-46

4―オタクの生みの親は「GHQ」?

オタクの聖地といえば「秋葉原」通称「アキバ」である。アキバがオタクの街として産声を上げた背景にはGHQによる、戦後復興の一環として主要道路の敷設を目的に施行された「露店撤廃令」(1949年)が影響している。露天撤廃令により神田須田町界隈の露店商は、秋葉原駅のガード下で商いをはじめた*4。一方1951年に民間ラジオ放送が開始されたことがきっかけで、ラジオの需要が高まっていった。同時期に闇市では、電機学校(現東京電機大学)の生徒がアルバイトでラジオを組み立てており、そのために販売していた真空管やラジオ部品の店舗が秋葉原駅のガード下に集まっていった。1953年テレビ放送開始以降の電化製品ブームの中、ラジオから始まった秋葉原は、電化製品の街としてのアイデンティティを確立する。1975年以降はパソコン周辺機器がメイン商品となり、その後、現在のアキバを象徴するアニメやゲームのキャラクターに対する「萌え」の需要が大きくなっていった。時代の流れに伴いオタクのニーズは変化していったがアキバは常にそれを受け入れてきた。受け入れてきた結果、街自体が継ぎ足し文化のような特徴を持ち、過去に秋葉原を色づけしてきた文化、もしくは秋葉原のアイデンティティは、今もなお、アキバという世界観を構築し、息づいている。
 
*4 アキバ経済新聞編(2007)『アキバが地球を飲み 込む日 秋葉原カルチャー進化論』 東洋経済新報社
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2019年08月07日「基礎研マンスリー」)

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