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資産が枯渇しない生活水準を考える-適正支出に対するアドバイス力強化に期待する
![](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71_ext_01_0.jpeg?v=1488874069)
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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3――よくあるシミュレーションでは不十分な理由
![【図表6】モデル夫婦の生存確率](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/62119_ext_15_11.jpg?v=1564033231)
最も一般的なのが、夫婦共に平均余命まで生存することを前提としたシミュレーションである。年金受給額、消費額などの見込み額を基に保有資産額の推移を確認する事ができる。妻の生存中に保有資産額がマイナスに転じる場合、生活水準を落とす必要がある。例えば、モデル夫婦の貯蓄高が1,600万円2なら、モデル妻の生存中に保有資産額がマイナスに転じるかどうかの分岐点は、月額消費支出30万8千円程度(モデル夫死亡後は21万8千円程度)である。ゆとりのある老後生活費34万9千円(生命保険文化センター『生活保障に関する調査(平成28年度)』)には及ばないが、それなりにゆとりはありそうだ。
しかし、平均余命までマイナスに転じないだけでは不十分である。平均余命以上に長生きした場合は、マイナスに転じる。夫死亡後の妻の収入が不十分である事から、夫が平均余命より短命に終わった場合も、同様のリスクがある。このようなリスクを考えると、月額消費支出30万8千円程度は使いすぎだ。平均余命を前提としたシミュレーションは、適正な消費支出額を示さない。
2 平成29年版高齢社会白書によると、世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄現在高の中央値は1,592万円である。
生活資金が枯渇するリスクを最大限避ける為、妻が最高齢まで生きることを前提にシミュレーションする事も可能である。ギネス世界記録によると、世界最高齢の記録は女性117歳だ。なお、男性は115歳だが、このデータはシミュレーションには必要ない。夫死亡後の妻の収入が不十分である事から、生活資金が枯渇するリスクを避けるには、妻が長生きするが、夫は早世するパターンでシミュレーションする必要がある。先ほどと同じくモデル夫婦の貯蓄現在高は1,600万円、モデル妻が117歳まで生き、モデル夫が翌月亡くなることを前提にすると、モデル妻の生存中に保有資産額がマイナスに転じるかどうかの分岐点は、24万6千円程度(モデル夫死亡後は17万4千円程度)になる。かろうじて老後の最低日常生活費22万円(生命保険文化センター『生活保障に関する調査(平成28年度)』)を上回る程度で、ゆとりのある老後生活費34万9千円に遠く及ばず、ゆとりはない。
しかし実際には、妻がギネス世界記録に並ぶまで生きる可能性はほぼない。夫が翌月亡くなるということもあまりないし、なによりこのような設定はあまりにも切ない。ここまで保守的な前提を置く必要性はない。
なお、毎月、年金受給額に保有資産残高の一定割合(例えば1%)を合算した額を消費する方法もある。保有資産残高の一定割合を消費していくのだから、理論的には、保有資産は枯渇しない。ただ、消費できる金額が次第に低下するだけでなく、夫の死亡後の妻の生活水準が急激に下がる。
4――資産が枯渇する確率を前提に適正支出を求めてはどうですか?
![【図表8】残余資産額の分布](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/62119_ext_15_15.jpg?v=1564033232)
5――情報提供力やアドバイス技術の向上に期待する
なお、適切な情報やアドバイスの提供・普及には、顧客の資産状況等を踏まえた適正支出の提案機能を有し、かつ操作が容易なロボ・アドバイザーの役割が大きい。その理由は、大きく3つある。まず、人による情報提供やアドバイスは安くない。一部の富裕層に限らず、幅広く情報やアドバイスを行き渡らせるには、ロボットの方が適している。次に、適正支出を導出する際、最も困難な部分は、何%までなら、資産が枯渇する確率を許容できるかの設定である。実は、ロボ・アドバイザーが、最適な資産配分を提案する際は、その前提として様々な情報から、各人のリスク許容度を把握している。適正支出における、何%までなら資産が枯渇する確率を許容できるかというリスク許容度と、最適な資産配分提案におけるリスク許容度はほぼ同じ概念だ。このため、ロボ・アドバイザーが最適な資産配分だけでなく、金融技術的には算出が容易な適切支出額も併せて提案する方が効率的だ。最後に、ロボ・アドバイザーなら家計簿アプリ等個人資産管理サービスとの連携も期待できるからだ。
本稿では、資産取り崩し段階の標準的な夫婦に焦点を当てたが、適正支出額の算出方法は資産形成段階の人が、貯蓄や投資に回す金額を考える上でも役立つ。漠とした質問だけでなく、具体的な生活水準も明示されるほうが、顧客が自身の投資余力を把握することに役立つ。結果として、金融商品選択時の顧客の納得感の一層の向上が期待できる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年07月26日「ニッセイ基礎研所報」)
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- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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