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資産が枯渇しない生活水準を考える-適正支出に対するアドバイス力強化に期待する
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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1――資産取り崩し段階にある人の要は適正支出
しかし、資産運用に関する情報やサービスに比べて、支出に関する情報やサービスは質・量ともに不十分だ。もちろん、インターネット上に出回る、年齢別平均支出額や節約術などの情報にも価値はある。しかし制御可能な要素が支出に限られている人にとっては、現在の保有資産や年金受給額に照らして、適正な支出の水準やその算出方法の方が重要だ。保有資産が少なければ、同年代の平均支出額と同じ支出を続けると、いずれ資産が底をつく可能性が高い。適正な水準が分からなければ、どれほど節約すれば良いかも分からない。
そこで、今回は、老後の生活資金に不安がある標準的な夫婦を前提に、資産が枯渇する可能性を抑えた上で、ゆとりのある生活を送るための適正支出金額を算出する方法を検討する。
2――夫に先立たれると、妻の生活水準が落ちる
そこで、夫が70歳(1948年生まれ)の夫婦(以下、モデル夫又はモデル夫婦)をモデルとして、妻が夫よりどれくらい長く生きるのか、そして、夫の死亡後の妻の生活水準について確認する。
公的年金は、日本国内の全居住者を対象とした国民年金と、被雇用者を対象とした厚生年金からなる。公的年金のほかに、企業によっては従業員を対象とした企業年金や、個人が任意で入る個人年金もあるが、本稿では公的年金のみ受給する場合を考える。
次に、『平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』をベースにモデル夫婦の年金月額を考える。モデル夫が被雇用者であるなら夫の年金月額は17万7千円程度である(厚生年金保険受給者(男子、65歳以上)の平均年金月額)。国民年金受給者の平均年金月額は、5万5千円程度であるから、12万2千円程度が厚生年金月額である。脱退手当金を受け取っていれば、モデル妻の年金受給額は、国民年金のみの5万5千円程度である。脱退手当金を受け取っていなくても、加入期間の短さ(夫の6分の1と仮定)と、標準報酬額の男女差(女性は男性の65%)を勘案すると、厚生年金月額は高々1万3千円程度で、国民年金と合わせて6万8千円程度に過ぎない。以上から、モデル夫婦の年金月額は、これらを合算した23万2千円~24万5千円となる。モデル夫が亡くなった後は、妻自身の国民年金と厚生年金に加え、遺族厚生年金を受給できる。しかし、遺族厚生年金の受給額は、夫の厚生年金月額の75%から自身の厚生年金月額を控除した額である1。このため、脱退手当金を受け取ったか否かに関わらず、年金受給額は14万7千円程度(12万2千円×75%+5万5千円)になる。これは、モデル夫生存中の夫婦の受給額合計の60%程度に相当する。なお、妻に先立たれた夫の年金受給額は3万円程度高い17万7千円程度で、妻生存中の夫婦の受給額合計の70%を超える。
1 妻の厚生年金月額が夫の厚生年金月額の半分以下の場合
総務省『家計調査結果(平成29年)』によると、65歳以上女性の単身世帯の1ヶ月間の消費支出は14万7千円程度である。モデル夫が亡くなった後に、モデル妻が受け取る年金月額と一致する。しかし、これをもって、夫が亡くなった後も収入は十分であると判断すべきではない。
また、65歳以上女性の単身世帯の1ヶ月間の消費支出は14万7千円程度に対し、年齢や性別を限定しない単身世帯全体の1ヶ月間の消費支出は16万1千円程度である。夫の死亡後の収入減少に合わせて、妻が支出を抑えていると解釈する方が適切ではないだろうか。もちろん、年金受給額に合わせて支出を抑えているのは、夫の死亡後に限った話ではない。しかし、内閣府『高齢者の経済・生活環境に関する調査(平成28年)』によると、夫婦のみ世帯の女性より単身世帯の女性の方が、ゆとりがないと感じている割合が高い(図表5)。
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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