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利回り確保が困難になったヘッジ付き外国債券

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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1 為替スワップで3ヶ月間ヘッジする想定で計算している。本稿のヘッジコストは全て同様の方法で計算している。詳しくは「為替スワップ取引を用いた時のヘッジコストの考え方」(年金ストラテジー、2016年4月)などを参照されたい。
国内債券の利回り低下に悩む日本の機関投資家は、その代替手段としてヘッジ付き外国債券を活用するなどして利回り確保に努めてきた。しかしながら、今やヘッジ付き米国債の利回りは日本国債よりもかなり低位の水準で推移する環境に変わっている。今後も米中貿易問題や英EU離脱問題などの影響で世界経済の下振れリスクが意識されることで、米国債イールドカーブの長短金利差が縮小した状態が長期化する可能性もある。もはやヘッジ付き米国債は魅力的な運用資産ではなくなっている。
米国債以外の英国、カナダやオセアニア諸国(オーストラリアやニュージーランド)のソブリン債であっても、ヘッジ付き外国債券の10年利回りはマイナス圏を推移している。その一方で、為替変動リスクを回避することで逆に利回りの向上が期待できるヘッジ付き欧州ソブリン債への投資であればプラスの利回りが享受できるものがある。例えば、格付けが高いもので、ヘッジ付きの10年利回りを計算すると、オランダ国債(0.18%)、スイス国債(0.30%)、フランス国債(0.40%)やベルギー国債(0.48%)などが候補として挙げられる。これらの欧州ソブリン債は米国債と比べてイールドカーブが右肩上がりであり、ロールダウン効果も相対的に期待できる。そのため、ヘッジ付き欧州ソブリン債への投資が加速する可能性が高い。
しかしながら、これらの欧州ソブリン債利回り間の相関係数を計算すると、地理的に近いこともあって1に近い(図表2)。残念ながら、これらの債券のみでは利回りの連動性が高いため分散効果は得られない。リスクを分散させつつ利回り確保を求めていくには、ユーロやスイスフランの為替変動リスクをヘッジして利回りを高めるだけではなく、デュレーションを長期化してタームプレミアムをとる、信用リスクをとってクレジットリスクプレミアムをとるなどの手法も併せて検討することになる。例えば、日本の超長期国債利回り(20年や30年)と欧州ソブリン債利回り(10年)との相関係数を計算すると相対的にゼロに近く、いくらかの分散効果が見込まれる。このように、利回り確保が難しい市場環境の中で、少しでも高い利回りを求めていくには、運用手法を多様化してリスクをできる限り分散させていく必要があるだろう。
(2019年07月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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