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投資信託の信託報酬とリスク・リターンの分析(1)~投資信託の評価基準について整理する~

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志
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1――はじめに
2――個人投資家が金融商品・金融機関選定において重視する基準
こうした状況を踏まえて、金融庁はリスク・リターンとコストに関する指標を「共通KPI」1として定義し、金融機関に対して公表を促している。今後は、金融機関が投資信託を販売するにあたりその商品に関するリスク・リターン及びコストに関する顧客説明が、一層求められることになりそうだ。
1 KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、企業目標の達成度を評価するための主要評価指標のことをいう。金融庁はリスクや手数料等に見合ったリターンがどの程度生じているかを「見える化」するために、比較可能な指標を公表している。詳細は金融庁(2018)「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて」を参照。
3――投資信託のパフォーマンス評価方法
まず、投資信託のリターンについて述べたい。図表3の「ファンドA」と「ファンドB」はともに国内株式を投資対象とした実在の投資信託である。「ファンドA」は市場全体を上回る収益の獲得を目指す投資信託(以下、アクティブファンドという)であり、「ファンドB」は市場全体の値動きに連動した収益の獲得を目指す投資信託(以下、インデックスファンドという)である2。
2016年3月末から2019年3月末(3年間)におけるリターン(信託報酬控除後)は、「ファンドA」が+79.8%(年率+21.6%)、「ファンドB」が+23.2%(年率+7.2%)となっている。また、同期間における市場全体の値動きを表わすTOPIX(以下、ベンチマークという)のリターンは+26.0%(年率+8.0%)であり、両ファンドとベンチマークのリターンの差(以下、超過収益率という)は、「ファンドA」が+53.8%(年率+13.6%)、「ファンドB」が▲2.7%(年率▲0.7%)となっている。
2「アクティブファンド」と「インデックスファンド」の相違点などついては、第2回レポ-トで説明する。
次に、投資信託のリスクについて述べる。リスク3とはリターンのばらつきの度合いのことを表しており、資産運用の世界ではこれを標準偏差という数値で表現することが多い。標準偏差とは、ある期間の投資信託の平均リターンから各リターン(例えば月次リターン、年次リターン等)がどの程度離れているかを示す統計的な数値である。この値が大きい(小さい)ほど、ファンドのリターンのぶれも大きい(小さい)ことを表している。また、リターンが正規分布に従うとした場合、リターン分布の約3分の2が「リターンの平均値±標準偏差」の範囲に収まることになる。
図表4は投資信託のリターンの分布からリスクを算出するイメージを示したものである。リターンの分布が平均値(3%)の近辺にまとまっていれば標準偏差は小さくなり、すなわちリスクは小さくなる(赤線の分布)。これに対して、リターンの平均値が同じ3%であっても、リターンの平均値から分布がちらばっていれば標準偏差は大きくなり、すなわちリスクは大きくなる(青線の分布)。
3 リスクは計測期間の0.5乗に比例して大きくなる。通常、算出したリスクは年率換算で表示する。
具体的には月次リターンから算出した標準偏差に12の平方根を掛けて算出する。
最後に、投資信託のコストについて述べる。投資信託に係わるコストでは信託報酬という手数料が大部分を占めており4、信託報酬は投資信託の目論見書で確認することができる。
投資家の受け取る収益は運用による収益から信託報酬などのコストを控除したものである。仮に運用による収益が同じであれば、信託報酬が低い方が投資家の取り分は大きくなる。特に長期の運用ではコストの差が積み重なり、最終的なリターンに大きな差が生じる。
図表8は運用による収益が年率+3%で同じだが、信託報酬だけが異なる二つのファンド(「ファンドC」:信託報酬0.5%、「ファンドD」:信託報酬1.0%)に100万円を投資した場合の資産額の推移を示したものである。30年後の運用結果は、「ファンドC」が209.8万円、「ファンドD」が181.1万円となり、信託報酬0.5%の差が累積し、28.7万円の差が生じることとなった。信託報酬の差が長期間積み重なることで最終的なリターンに大きな影響を及ぼすことが分かる。
4 信託報酬以外の投資信託に係わるコストとしては、販売手数料などがある。
販売手数料とは、投資家が投資信託を購入する際に証券会社などの販売会社に支払う手数料のことである。
販売手数料が無料の投資信託もあり、このような投資信託をノーロード型投資信託と呼ぶ。
4――まとめ
次回は、実際に運用されている投資信託(国内株式)の運用データをもとに、これらの評価方法を用いて投資信託のリスク・リターンや信託報酬の傾向についてみてみたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年06月06日「基礎研レター」)

03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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