コラム
2019年06月03日

北朝鮮:近くて遠い国の物語(1)-北朝鮮という呼称はいつから?、北朝鮮でも少子化が進行しているって、本当?-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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最近、北朝鮮という言葉をマスコミから耳にする機会が多い。しかしながら、実際、北朝鮮の人口や経済状況などについて詳しい人はそれほど多くないだろう。筆者も韓国出身であるものの、北朝鮮に関する知識はそれほど豊かではない。北朝鮮は外に情報を流さないので分かるはずがないのではないかと言い訳をしたいところだが、最近マスコミに流されている北朝鮮の情報量を見ると、筆者の勉強不足が無知に繋がっていることを認めざるを得ない。そこで、反省もかねて今後北朝鮮のことを勉強し、北朝鮮の基本知識や最近の話題について読者の皆さんに説明することにした。これから近くて遠い国、北朝鮮の物語が始まる。

北朝鮮という呼称はいつから?

北朝鮮の正式名称は、朝鮮民主主義人民共和国で、英語ではDemocratic People's Republic of Korea(略称はD.P.R. KoreaあるいはDPRK)で表記されている。国名が長いので、北朝鮮では「朝鮮」、「共和国」、「人民共和国」のような略称がよく使われている。
 
日本では現在、「北朝鮮」という呼称が一般化されているものの、昔は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という形で両方を並べて使うことが多かった。では、いつから日本では「北朝鮮」という呼称が一般化されたのだろうか。過去の新聞などを調べてみると、単に「北朝鮮」という呼称が使われ始めたのは、拉致問題を本格的に議論し始めた小泉政権時代の2002年9月の日朝首脳会談以後であることが分かる。北海道新聞が2002年9月から呼称を北朝鮮に一本化することを検討してから、2002年の年末年始に各マスコミが正式国名を「北朝鮮」だけに統一した。変更の主な理由としては、「日朝首脳会談以後、報道量が急増したので、限られた時間内に簡潔に伝えるために」を挙げるマスコミが多かった。
 
但し、北朝鮮では日本のマスコミが朝鮮民主主義人民共和国という正式名称を使わず、「北朝鮮」という呼称を使うことについて不満を漏らしているそうだ。例えば、北朝鮮の労働党機関紙「労働新聞」は2003年1月29日の論評で、朝日新聞が2002年末から、ほとんどの記事で「北朝鮮」という呼称を使っていることについて、「直ちに誤った決定を取り消し、反共和国悪宣伝を中止すべきである」1と非難した。
 
韓国では北朝鮮を国家として認めていないので、朝鮮民主主義人民共和国という正式名称を使わず「北韓」という呼称を使っている。しかしながら、韓国の人が韓国のことを「南朝鮮」と呼ばれることに対して違和感を感じている如く、北朝鮮の人も北朝鮮のことを「北韓」と呼ばれたら機嫌が悪くなる。それは「北韓」という言葉には朝鮮半島の軍事境界線の北の部分も韓国の領土であるという意味が含まれているからである。従って、韓国政府は民間企業等が北朝鮮と交流する際には「北側」という中立的な表現を使うように奨励している。
 
北朝鮮の行政区域は、一つの直轄市(平壌直轄市2)と二つの特別市(羅先特別市、南浦特別市)、そして九つの道3(咸鏡北道、咸鏡南道、平安北道、平安南道、黄海北道、黄海南道、江原道、慈江道、両江道)になっている。但し、江原道は韓国にもつながっている(軍事境界線を基準に江原道の北側は北朝鮮、南側は韓国)ので、韓国と北朝鮮両方で行政区域の一部になっている。
 
1 朝日新聞2003年1月30日朝刊「北朝鮮「労働新聞」、呼称巡り朝日新聞社を非難」から引用。
2 北朝鮮の首都。
3 日本の都道府県に当たる。

北朝鮮でも少子化が?

では、北朝鮮の人口はどのぐらいなのか。北朝鮮の人口統計は、北朝鮮が自主的に実施した公民登録統計と国連の支援を受けて2回(1993年、2008年)行われた国勢調査に区分することができる。公民登録統計は、北朝鮮の公民登録制度に基づいた時系列統計であり、1980年代末に北朝鮮が国連に1947年から1987年までの統計を提出したことにより、初めてその存在が知られた。公民登録統計は、国連の人口基金の財政支援を受ける過程で公開されており、以降も、断続的に(1989年、1996年、1999年、2000年)データが公開されている。一方、人口センサス(日本の国勢調査に当たる)は、横断面の統計であり、出生率、死亡率、年齢別人口構造に加えて、産業別、年齢別雇用状況など公民登録統計と比較して、より多くの資料が含まれているのが特徴である。特に2008年の人口センサスの場合、地域別の人口移動、教育程度、経済活動に関する調査も行われた。
 
韓国統計庁と国連が発表している北朝鮮の人口推計は、北朝鮮が発表した公民登録統計と人口センサスに基づいて推計されたものである。本稿では韓国統計庁が発表した資料を基準に北朝鮮の人口を説明したい。韓国統計庁が推計した北朝鮮の推計人口は2018年現在2,513万人で、同時点における韓国の推計人口5,163万人の約半分程度に過ぎない4。北朝鮮の面積は2017年現在123,138km2で、韓国の100,364 km2と比べて約2.3万km2弱広いので、単位面積1 km2当たりに居住する人の数である人口密度は203.1人で韓国の512.6人を大きく下回っている。
韓国と北朝鮮の人口推計
韓国統計庁の人口推計によると、北朝鮮の人口は2037年にピークを迎え、その後は減少することになる。つまり、北朝鮮でも少子高齢化が進んでいるのだ。1960年に5.12であった北朝鮮の出生率はその後低下し始め、2015年には1.95まで低下したと推計されている5。人口の置き換え水準を下回っていることが分かる。一方、韓国の統一研究院では北朝鮮の高齢化率が2004年に7%を超え、2030年になると12.9%になり、2034年には高齢化率が14%を超える高齢社会に進入すると予想しているる。
 
韓国では北朝鮮と統一されると、経済規模が大きくなり、さらに少子高齢化の問題も解決されると期待しているものの、そう簡単にはいかないようだ。
 
4 人口データの出所 ⇒ 統計庁人口総調査課「北韓人口推計」2010年11月推計値、韓国:統計庁人口動向課「将来人口推計」2016年2月推計値。
5 1960年の合計特殊出生率は1955年から1960年までの平均推計値(中位)、2015年の合計特殊出生率は2010年から2015年までの平均推計値(中位)である。出所は、UN「World Population Prospects: The 2017 Revision」。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2019年06月03日「研究員の眼」)

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