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2019年06月05日
年金資産のポートフォリオを決定する際、まず政策アセット・ミックスを策定し、次に投資対象資産毎に具体的な委託先を選定するのが定石である。政策アセット・ミックスの策定で必要となる投資対象資産のリスク・リターンの見積もりは、市場を代表するマーケット・インデックスを前提に行うことが多い。次段階の委託先の選定においては市場を代表するマーケット・インデックスだけでなく、運用スタイル分析などの必要性から投資スタイル別インデックスなど様々なインデックスを利用する。このように、年金資産のポートフォリオ決定においてインデックスが果たす役割は大きい。
年金積立金管理運用独立行政法人の平成31年度計画の中に、インデックスに関する情報収集・分析を行うため、新たな制度の導入についての検討が挙がっている。その背景には、インデックス開発の進展とそれに伴うインデックスの多様化がある。インデックス算出ルールによっては、過去に遡って値を算出・公表することが可能である。このため、定量データ分析に十分な期間の過去データが入手可能なインデックスも多い(図表1)。そこで、インデックスの多様化を踏まえ、年金資産のポートフォリオ決定プロセスを再考したい。
年金積立金管理運用独立行政法人の平成31年度計画の中に、インデックスに関する情報収集・分析を行うため、新たな制度の導入についての検討が挙がっている。その背景には、インデックス開発の進展とそれに伴うインデックスの多様化がある。インデックス算出ルールによっては、過去に遡って値を算出・公表することが可能である。このため、定量データ分析に十分な期間の過去データが入手可能なインデックスも多い(図表1)。そこで、インデックスの多様化を踏まえ、年金資産のポートフォリオ決定プロセスを再考したい。
冒頭に記した通り、通常、ポートフォリオは段階的に決定される。政策アセット・ミックスの策定では投資対象資産間のリスク・リターン特性を考慮しつつ最適な資産配分を決定する。この際着目するのは、投資対象資産から生じる市場平均的なリターン(ベータ)のみである。これに対し委託先の選定では、市場平均的なリターンを上回るリターン(アルファ)に着目している。インデックスの多様化に伴い商品も多様化しており、ベータが1と大きく乖離する商品も少なくない。理論上、投資対象資産全体のベータが1から乖離すれば、資産配分の最適性を失う。
この問題の回避策の一つとして、委託先選定の際、投資対象資産全体のベータが1から大きく乖離しないよう配慮する方法が考えられるが、これはベータのみに着目した資産配分の最適性維持を優先して、アルファ獲得の可能性を制限することになる。このような制限は、今に始まったことではない。アルファの取りやすさは市場の非効率性などに依存し、投資対象資産によって異なる。しかし、資産配分の決定においてはアルファの取りやすさは加味しない。このため、アルファの取りやすさは資産配分比率の上乗せにつながらず、アルファ獲得の可能性が制限されていると考えられる。ベータに着目した資産配分の最適性とアルファ追求の両立が困難な理由は、委託先配分まで一気に最適化せず、ポートフォリオの最適化を2段階に分けて実施することにある。
委託先配分まで一気に最適化しない理由は、平均・分散アプローチの性質にある。期待リターンの見積もりは難しく誤差が避けられないにも関わらず、期待リターンの僅かな違いで配分が大きく変わることが多い。その事象は資産間のリスク・リターンが類似しかつ相関が高いほど生じやすい。インデックスの多様化に伴い利用可能なデータが増えても、リターンの予測誤差がある以上、平均・分散アプローチを用いて委託先配分まで最適化するべきではない。
平均・分散アプローチの代わりに、リスクを重視するリスク・バジェッティングを用いるという選択肢もあるが、数理的手法には限界がある。リスクの配分が最適であればリターンは問わないといった覚悟がある場合を除き、リターンの予測誤差により同様の問題が生じうる。では、豊富なインデックス・データは、委託先評価における多面的に定量分析でしか活用できないのだろうか。定性評価及び定量分析結果から、アルファが期待できるがベータが1と大きく乖離する運用手法の採用が望ましい場合でも、従来型インデックスを基準としたベータに着目した資産配分の最適性を優先するしかないのだろうか。
アルファよりベータを優先する根拠は、「リスクはベータの方が圧倒的に大きい」、「アルファは基本的にはゼロ・サム・ゲームなので確実性に劣る」などである。インデックスも商品も多様化が進んだ今、こうした根拠は弱まってはいないだろうか。
以上、年金資産のポートフォリオ決定を、政策アセット・ミックスの策定と、委託先の選定の2段階を前提として進めてきたが、実際は政策アセット・ミックスを策定する前に、投資対象資産の検討を行っている。しかし、投資対象資産の検討は、不動産やヘッジファンドといったオルタナティブ投資の採否に集中しがちである。新たな投資対象を検討することも重要であるが、これまで当然のように投資してきた伝統的4資産(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式)の投資意義を再評価することも重要だ。
今一度、年金制度の成熟度、積立状況やキャッシュ・フローといった観点から投資対象資産を見直し、従来型インデックスを基準としたベータと大きく乖離する運用手法の採用が適切だと判断できるなら、その運用手法と整合的なインデックス、もしくは運用手法への投資割合に応じた複合インデックスを前提に、政策アセット・ミックスを策定するといった選択肢もあるのではないか。
この問題の回避策の一つとして、委託先選定の際、投資対象資産全体のベータが1から大きく乖離しないよう配慮する方法が考えられるが、これはベータのみに着目した資産配分の最適性維持を優先して、アルファ獲得の可能性を制限することになる。このような制限は、今に始まったことではない。アルファの取りやすさは市場の非効率性などに依存し、投資対象資産によって異なる。しかし、資産配分の決定においてはアルファの取りやすさは加味しない。このため、アルファの取りやすさは資産配分比率の上乗せにつながらず、アルファ獲得の可能性が制限されていると考えられる。ベータに着目した資産配分の最適性とアルファ追求の両立が困難な理由は、委託先配分まで一気に最適化せず、ポートフォリオの最適化を2段階に分けて実施することにある。
委託先配分まで一気に最適化しない理由は、平均・分散アプローチの性質にある。期待リターンの見積もりは難しく誤差が避けられないにも関わらず、期待リターンの僅かな違いで配分が大きく変わることが多い。その事象は資産間のリスク・リターンが類似しかつ相関が高いほど生じやすい。インデックスの多様化に伴い利用可能なデータが増えても、リターンの予測誤差がある以上、平均・分散アプローチを用いて委託先配分まで最適化するべきではない。
平均・分散アプローチの代わりに、リスクを重視するリスク・バジェッティングを用いるという選択肢もあるが、数理的手法には限界がある。リスクの配分が最適であればリターンは問わないといった覚悟がある場合を除き、リターンの予測誤差により同様の問題が生じうる。では、豊富なインデックス・データは、委託先評価における多面的に定量分析でしか活用できないのだろうか。定性評価及び定量分析結果から、アルファが期待できるがベータが1と大きく乖離する運用手法の採用が望ましい場合でも、従来型インデックスを基準としたベータに着目した資産配分の最適性を優先するしかないのだろうか。
アルファよりベータを優先する根拠は、「リスクはベータの方が圧倒的に大きい」、「アルファは基本的にはゼロ・サム・ゲームなので確実性に劣る」などである。インデックスも商品も多様化が進んだ今、こうした根拠は弱まってはいないだろうか。
以上、年金資産のポートフォリオ決定を、政策アセット・ミックスの策定と、委託先の選定の2段階を前提として進めてきたが、実際は政策アセット・ミックスを策定する前に、投資対象資産の検討を行っている。しかし、投資対象資産の検討は、不動産やヘッジファンドといったオルタナティブ投資の採否に集中しがちである。新たな投資対象を検討することも重要であるが、これまで当然のように投資してきた伝統的4資産(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式)の投資意義を再評価することも重要だ。
今一度、年金制度の成熟度、積立状況やキャッシュ・フローといった観点から投資対象資産を見直し、従来型インデックスを基準としたベータと大きく乖離する運用手法の採用が適切だと判断できるなら、その運用手法と整合的なインデックス、もしくは運用手法への投資割合に応じた複合インデックスを前提に、政策アセット・ミックスを策定するといった選択肢もあるのではないか。
(2019年06月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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