コラム
2019年04月03日

潜在成長率を高める、真の働き方改革を進めよう~働き方改革関連法施行に寄せて~

総合政策研究部 研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任   矢嶋 康次

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1――日本の潜在成長率は低位安定

5月に迫った改元をはじめ、今年は重要イベントがいくつか控えている。その1つが、7月の参議院選挙だ。今後、2012年末からスタートしたアベノミクスの評価について、与野党の論戦が繰り広げられていくだろう。

アベノミクスは、金融政策、財政政策、成長戦略というシンプルな3本の矢から始まった。スタートからしばらくは金融政策中心にスポットライトが当たっていた。当初から、構造改革や規制緩和などを通じた成長戦略は、金融政策や財政政策に比べて時間がかかるとの見方があった。

しかし、アベノミクスがスタートしてはや6年超が過ぎた。今、改めて問わねばならないのは、「成長戦略の実現」、つまり日本の潜在成長率が高まったのか否かだ。

図表1は日銀が公表している潜在成長率の推移である。アベノミクス開始から今に至るまで、潜在成長率が上昇しているとはいえない。その水準は足もと0.7%程度である。この点において、アベノミクスはまだまだ不十分である、と見ることも出来る。
(図表1)潜在成長率
一方で、潜在成長率を、就業者数、労働時間、資本ストック、全要素生産性(TFP)の寄与度で分解してみると別の姿も見えてくる。第二次安倍政権以降、労働市場は改善しているのだ。女性の社会進出や高齢者の就業増加で、就業者数は400万人近く増えた。少子高齢化による生産年齢人口の減少で、労働投入の寄与がマイナスになるとの予想もあったが、ここ数年はプラスの寄与が続いている。

その一方で、イノベーションや業務改善などを表すものとされるTFPについては、それほど落ちないと見る向きもあったが、実際には大幅低下となった。TFPはここ6年で0.7ポイント低下している。この改善なくして、潜在成長率の引き上げはない。

2――「削る」視点での生産性向上は限界、求められるのは「真の働き方改革」

なぜ生産性の伸びがここまで減速したのだろうか。更新投資が中心で、攻めの設備投資が足りなかった。生産性の低い、低賃金の分野の労働が増加している。デジタル化の潮流に乗り遅れ、巨大デジタル・プラットフォーマーの一人勝ちを許している。いろいろと、考えられるものは多い。そうした原因分析、評価がなされ、早期に次の政策を打たなければならない状況だ。民間企業でも、危機感を持ってイノベーション創出に取り組む姿が見られるが、この4月からスタートした残業規制でより一層待ったなしの状況に置かれることになる。

これまで、日本企業の生産性向上はコストカットが中心であった。しかし、コストカットにも限界がある。今後はより高い付加価値を創出して、生産性を向上させていくことを中心にするしかない。

昨今の「働き方改革」は、残業規制など労働時間の短縮による実質的な時間当たり賃金の上昇を狙っている。現在の「日本型」の組織体制、雇用制度の延長線では、高い生産性を誇る世界のトップ企業に立ち向かうのが難しくなってきている。残業時間等、労働時間を減らしていくことは、働く人の健康や、子育て・介護の問題などの点から必要なのは間違いない。しかしながら、ただ労働時間を減らすだけなく、働く人がより専門性や生産性を高めて、高い付加価値を実現出来る仕組みづくりこそ重要ではないだろうか。時間当たりの生産性向上を評価し、賃金として還元する仕組みを作らないと、結局は日本全体の潜在成長率は高まらず、ジリ貧に陥る。今まで当たり前だった体制・制度の見直しを行い、今まで以上に生産性の高い働き方を実現する職場を作らなければならない。

新元号発表に日本中が沸いた4月1日、残業時間の上限規制等を盛り込んだ働き方改革関連法がスタートした。日本の潜在成長率を高めるためには、構造改革や規制緩和などまだまだ政府が取り組まなければならないことも多い。しかし、働き方改革を通じた生産性向上にかかる期待も非常に大きい。そして、その成否は民間企業の創意工夫にかかっていると言っても過言ではない。

新元号「令和」は、万葉集巻五、梅花の歌三十二首の序文から引用されたという。そこでうたわれる梅の花のごとく、日本企業の真の働き方改革が花開き、日本の潜在成長率が高まることを切に願う。
(図表2)働き方改革関連法における主な見通し事項
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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総合政策研究部   研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融、日本経済

(2019年04月03日「研究員の眼」)

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