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潜在成長率を高める、真の働き方改革を進めよう~働き方改革関連法施行に寄せて~
総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
1――日本の潜在成長率は低位安定
アベノミクスは、金融政策、財政政策、成長戦略というシンプルな3本の矢から始まった。スタートからしばらくは金融政策中心にスポットライトが当たっていた。当初から、構造改革や規制緩和などを通じた成長戦略は、金融政策や財政政策に比べて時間がかかるとの見方があった。
しかし、アベノミクスがスタートしてはや6年超が過ぎた。今、改めて問わねばならないのは、「成長戦略の実現」、つまり日本の潜在成長率が高まったのか否かだ。
図表1は日銀が公表している潜在成長率の推移である。アベノミクス開始から今に至るまで、潜在成長率が上昇しているとはいえない。その水準は足もと0.7%程度である。この点において、アベノミクスはまだまだ不十分である、と見ることも出来る。
その一方で、イノベーションや業務改善などを表すものとされるTFPについては、それほど落ちないと見る向きもあったが、実際には大幅低下となった。TFPはここ6年で0.7ポイント低下している。この改善なくして、潜在成長率の引き上げはない。
2――「削る」視点での生産性向上は限界、求められるのは「真の働き方改革」
これまで、日本企業の生産性向上はコストカットが中心であった。しかし、コストカットにも限界がある。今後はより高い付加価値を創出して、生産性を向上させていくことを中心にするしかない。
昨今の「働き方改革」は、残業規制など労働時間の短縮による実質的な時間当たり賃金の上昇を狙っている。現在の「日本型」の組織体制、雇用制度の延長線では、高い生産性を誇る世界のトップ企業に立ち向かうのが難しくなってきている。残業時間等、労働時間を減らしていくことは、働く人の健康や、子育て・介護の問題などの点から必要なのは間違いない。しかしながら、ただ労働時間を減らすだけなく、働く人がより専門性や生産性を高めて、高い付加価値を実現出来る仕組みづくりこそ重要ではないだろうか。時間当たりの生産性向上を評価し、賃金として還元する仕組みを作らないと、結局は日本全体の潜在成長率は高まらず、ジリ貧に陥る。今まで当たり前だった体制・制度の見直しを行い、今まで以上に生産性の高い働き方を実現する職場を作らなければならない。
新元号発表に日本中が沸いた4月1日、残業時間の上限規制等を盛り込んだ働き方改革関連法がスタートした。日本の潜在成長率を高めるためには、構造改革や規制緩和などまだまだ政府が取り組まなければならないことも多い。しかし、働き方改革を通じた生産性向上にかかる期待も非常に大きい。そして、その成否は民間企業の創意工夫にかかっていると言っても過言ではない。
新元号「令和」は、万葉集巻五、梅花の歌三十二首の序文から引用されたという。そこでうたわれる梅の花のごとく、日本企業の真の働き方改革が花開き、日本の潜在成長率が高まることを切に願う。
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03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
(2019年04月03日「研究員の眼」)
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