- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- アジアの社会保障制度 >
- 韓国における無償保育の現状や日本に与えるインプリケーション
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――はじめに
韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。しかしながら、韓国政府の少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、そして教育インフラの構築など主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っている傾向が強い。
本稿では、韓国における無償保育の現状や課題を論ずるとともに、今後日本が推進すべき幼児教育・保育の無償化の在り方について考察したい。
2――2000年以降の主な保育政策の動向
参与政府(盧武鉉政権)1は、より積極的に育児支援政策を推進し、子育て世帯を支援するために、2004年6月には第1次育児支援政策を、そして2005年5月には第2次育児支援政策を発表した。第1次育児支援政策では、未来の人材を育成すると共に女性の経済活動参加を奨励するために、出生率の引き上げ、優秀な児童の育成、育児費用に対する負担緩和、女性の就業率引き上げ、雇用創出等を目標として設定した。第1次育児支援政策の特徴は政策の内容を児童の年齢別に設定したことである。例えば、満0歳の児童を養育している子育て世帯に対しては、家庭で子育てができるように育児環境の整備を支援する政策と養育能力が十分ではない親のための支援システムを構築する政策を主に実施した。一方、満1~5歳の児童を養育している子育て世帯に対しては保育と幼児教育の充実とサービス利用機会の拡大を主な政策目標として設定した。また、小学校の遊休施設を活用し、放課後教室(日本の学童保育に当たる)を拡大するという基本プランを提示した。
第2次育児支援政策では、第1次育児支援政策の内容をより具体化し、育児支援施設の利用機会の拡大、育児費用に対する家計の負担軽減、育児サービスの質向上を目指し、政策を推進した。特に、2004年に初めて実施した全国保育実態調査により、地域別の保育に対する需要と供給の実態が把握されることになったので、その情報に基づき保育施設を追加的に供給する必要がある地域を選定すると共に、民間の保育施設のサービス向上のための支援対策を実施した。その代表的な政策が2006年5月に実施された「セサック2・プラン」である。セサック・プランは韓国政府や女性家族部が実施した保育に対する初めての中長期計画という点で意義がある。
1 2003年2月25日 ~ 2008年2月24日.
2 セサックとは、日本語で「若葉」という意味である。
3 「セロマジ」とは、「新しさ(セロウム)」と「最後(マジマック)」という韓国語を合成した新造語であり、「新しく希望に満ちる出産から老後生活の最後まで美しく幸せに住む社会」という意味がある。
第17代大統領選挙の結果、野党であったハンナラ党の李明博候補が2008年2月から新しい大統領になったことにより、既存の民主党政権で実施されたセサック・プランは、アイサラン・プランという名称に変更され、2009年から実施されることになった。アイサラン4・プランでは基本的には保育に対する国の責任を強化すると共に、需要者中心の保育政策を実施することを目標にしており、子どもと親が幸せな国を作るための3大推進戦略と6大課題を挙げた。3大推進戦略としては、嬰幼児保育、国家責任制の拡大、信頼回復を、そして、6大課題としては、親の費用負担軽減、需要者に合わせたサービスの提供、サービスの質向上、保育を担当する人材の専門性向上、指示伝達体系の効率化、保育事業の支援体制確立を設定した。
既存のセサック・プランでは、利用児童の30%が国公立保育施設が利用できるように国公立保育施設を拡大することを政策の主な目標にしたものの、アイサラン・プランではその数値目標を削除し、民間保育施設のサービスの質を国公立保育施設の水準まで引き上げるように目標を修正した。また、需要者中心の保育政策に基づき、保育事業を推進し、政策の対象を施設を利用している児童からすべての児童に拡大した。2008年12月には嬰幼児保育法を改正した結果、2009年からは養育手当制度が導入され、2011年には養育手当制度の対象がすべての子どもに拡大された。さらに、2012年3月からは幼稚園と保育施設を利用する 満5 歳児に対する保育費・教育費を支援する 「5 歳ヌリ課程」が施行された。ヌリとは「世の中」を意味する韓国語で、ヌリ課程の実施により、オリニジップ5と幼稚園に分かれていた保育と教育課程が統合され、満5歳のすべての子供は同じ教育サービスを受けることになった。
4 子どもを愛するという意味。
5 オリニジップは韓国語で子どもの家という意味。日本の保育所に近い施設。
2013年からは第2次中長期保育計画が実施された。第2次中長期保育計画の実施により、2013年3月から満0~5歳のすべての児童に対して養育手当が支給され無償保育が実現された。また、満5歳の児童を対象に実施していた「ヌリ課程」を、満 3 ~4 歳の児童まで拡大し、その結果満3~5歳の児童には、オリニジップと幼稚園の区別なく同じ教育課程による教育が実施されることになった。3大戦略としては、児童の健康な成長と発達、保育に対する国家責任の実現、信頼できる保育環境の構築が、また、6大推進課題としては、親の保育・養育負担の軽減、需要者に合わせた保育サービスの提供、公共性の拡大とサービス質に対する管理強化、良質で安心できる保育環境の助成、信頼できる保育環境の構築、保育財政及び指導伝達体系の改善が挙げられ、推進された。
3――保育料支援の現状
(2019年03月29日「基礎研レポート」)
このレポートの関連カテゴリ

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/15 | 韓国は少子化とどう闘うのか-自治体と企業の挑戦- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/03/31 | 日本における在職老齢年金に関する考察-在職老齢年金制度の制度変化と今後のあり方- | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/28 | 韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【韓国における無償保育の現状や日本に与えるインプリケーション】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
韓国における無償保育の現状や日本に与えるインプリケーションのレポート Topへ