2019年03月27日

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

文字サイズ

5) 外国人労働者の雇用管理
1.外国人労働者の雇用変動等の申告
使用者は、外国人労働者の勤務中の離脱、負傷、死亡、勤労契約の更新等、外国人労働者の雇用と関連した変動事項が発生した場合は、その理由を把握した日から15日以内に雇用センターと法務部の出入国管理事務所に申告をする義務がある。違反した場合には100万ウォン未満の罰金を負担しなければならない。
 
※雇用変動事由(外国人労働者の雇用などに関する法律第17条及び施行令第23条)
― 外国人労働者との勤労契約を解約した場合
― 外国人労働者が死亡した場合
― 外国人労働者が負傷などにより当該事業で勤務を続けるのができない場合
― 外国人労働者が使用者の承認を得るなど正当な手続きをせずに5日以上欠勤した場合と外国人労働者の所在が把握できない場合
― 外国人労働者が伝染病予防法第2条第1項第1号から第4号の規定による伝染病(コレラ、型肝炎、結核、AIDSなど)の患者になった場合と麻薬中毒などで公衆衛生上の問題を及ぼす懸念がある場合
― 外国人労働者の雇用許可期間が満了した場合
― 外国人労働者が滞在期間満了などで出国(一時的な出国を除く)した場合
― 使用者又は勤務先の名称が変更された場合
― 使用者の変更手続きをせずに勤務場所を変更した場合など
 
2.外国人労働者の事業場変更
外国人労働者は最初に働き始めた一つの事業所で勤務を続けるのが原則である。 但し、事業場の休業や廃業、そして賃金未払いなどにより、正常的な労働関係の持続が困難であると認められる場合に限って、外国人労働者の基本的な人権保障のために例外的に事業場の移動を最大4回まで許容している。
 
※事業場の移動(変更)の事由
― 使用者が正当な理由で勤労契約を解約したり、勤労契約の更新を拒絶した場合
― 休⋅廃業など外国人労働者の責任ではない理由で、その事業場で勤労を続けられなくなった場合
― 暴行など人権侵害、賃金未払いや勤労条件の低下などで外国人雇用許可の取消または雇用制限措置が行われた場合
― 傷害などにより該当事業場で働きつづけることは難しく、他の事業場で働くことが可能な場合
― 外国人労働者の事業又は事業場の変更を妨害した者は1年以下の懲役や禁錮または1千万ウォン以下の罰金が賦課される
 
3.外国人労働者の雇用許可の取り消し及び制限
使用者が入国前に労働者と契約した賃金その他の労働条件を違反する場合には雇用許可が取り消される場合がある。また、雇用許可書が発給されていない外国人労働者を雇用した場合には3年間、外国人労働者の雇用が制限される。
 
※外国人雇用許可が取り消されるケース
  • 使用者が入国前に契約した賃金とその他の労働条件を違反した場合
  • 使用者の賃金未払いやその他の労働関係法の違反などで労働契約の維持が困難であると認められる場合
  • 偽りやその他の不正な方法で雇用許可を受けた場合
 
※外国人労働者に対する雇用が制限されるケース
  • 雇用許可書を発給されずに外国人労働者を雇用した者
  • 外国人労働者の雇用許可が取り消された者
  • 帰国の際に必要な金品の清算をしなかったり、外国人労働者の事業場変更を妨害するなど、外国人雇用法を違反したり、出入国管理法を違反した者
  • 雇用許可書が発行された日から6ヶ月以内に内国人労働者を雇用調整により転職させた者
  • 外国人労働者に対して勤労契約に明示された事業、または事業場以外で労働を提供するようにした者
 
4.不法滞在者の雇用禁止
使用者が不法滞在者を雇用した場合、健康保険の未適用による人権侵害問題、安全事故の問題、不法滞在者の取締りの過程で発生し得る事故など様々な問題が発生する恐れがあるので、不法滞在者の雇用を禁止している。使用者が不法滞在者を雇用して摘発された場合、使用者は「出入国管理法」により罰金賦課及び刑事処罰(3年以下の懲役あるいは2千万円以下の罰金)の対象になると共に、合法的な外国人労働者の雇用が制限される。
 
5.外国人労働者の専用保険や公的社会保険
外国人労働者を使用する使用者は外国人労働者のために出国満期保険や保障保険に加入する必要がある(図表14)。また、外国人労働者は帰国費用保険や傷害保険に加入しなければならない。

4大公的社会保険に対しては、健康保険及び労災保険は義務加入が、雇用保険は任意加入が適用される(労働者が加入を希望する場合、雇用センターに「外国人雇用保険加入申請書」を提出)。また、国民年金は相互主義原則に基づいて図表15のように適用される。
図表14 外国人労働者の専用保険
図表15 国別国民年金の適用状況
6.外国人労働者の入国及び就業規則
外国人労働者が雇用許可制を通じて韓国で働くためには、韓国語能力試験を受ける必要がある。韓国産業人力公団は、外国人労働者の選抜過程における公正性や透明性を維持し、国内の早期定着のために、2005年8月から外国人雇用許可制韓国語能力試験(Employment Permit System-Test of Proficiency in Korean, EPS-TOPIK)を実施している。応募者は、満18歳以上~満39歳以下であること、禁錮以上の犯罪経歴がないこと、過去に韓国から強制退去及び出国された経歴がないこと、出国に制限(欠格自由)がないことという条件を満たす必要がある。韓国語能力試験の評価基準は、韓国生活に必要な基本的な意思疎通能力、産業安全に関する基本知識及び韓国文化に対する理解を求めるように設定されており、総得点80点以上の者(200点満点)から高得点者の順で選抜している。合格の有効期限は合格者の発表から2年間である。

非専門就業(E-9)のビザを受けた外国人労働者は、送出国の関係者と共に国内に入国し、入国場(仁川国際空港)で韓国産業人力公団の関係者に引き継がれて確認の手続きをする。その後、各国家別⋅業種別の就職教育機関の引率者と共に、就業教育機関に移動し2泊3日(16時間)間の就業教育を受けることになる。使用者は、外国人労働者が入国後15日以内に外国人就労教育機関で国内活動に必要な就業教育を受けさせる必要があり(外国人雇用法第11条)、就業教育期間は勤労基準法上の労働時間として見なされる。

就職教育は、製造業⋅サービス業の場合は二つのグループに分けて、ベトナム、モンゴル、タイは労使発展財団が、それ以外の国は中小企業中央会が担当している。一方、農畜産業は農協中央会が、漁業は水協中央会が、そして建設業は大韓建設協会が担当することになっている。就職教育にかかる費用は一般外国人労働者の場合は使用者が負担4(製造業・サービス業195,000ウォン、農畜産業・漁業210,000ウォン、建設業224,000ウォン)し、外国国籍の同胞の場合は労働者本人が負担(合宿148,000ウォン、非合宿102,000ウォン)する。就業教育の目的は外国人労働者の早期定着であり、その内容は韓国語、韓国文化の理解、関係法令、産業安全保健、基礎機能等で構成されている。

就職教育期間中に使用者は退職金対策の出国満期保険や賃金未払い対策の保証保険に加入する必要があり、外国人労働者は帰国費用保険や傷害保険に加入することが義務化されている。
 
4 一般外国人労働者の就職教育費用は、雇用保険の能力開発事業から一部金額の支援が受けられる。
6) 外国人労働者(E-9)の労働状況や処遇水準
雇用許可制により働いている外国人労働者の1ヶ月平均労働日数は23.1日(216.6時間)で、内国人労働者の22.8日(208.9時間)より少し長いという結果が出た。一方、外国人労働者の1ヶ月平均基本給は144.0万ウォン、通常手当は1.3万ウォン、その他の手当は0.2万ウォン、時間外手当は43.0万ウォン、特別手当は8.2万ウォン、宿泊施設13.7万ウォン、宿泊施設利用に伴う付帯費用4.4万ウォン、食費20.6万ウォン、その他の現物給付0.8万ウォンであり、時間外労働手当を除いた基本給やその他の手当は内国人労働者より低かった(図表16)。しかしながら、宿泊施設や食費などの現物給付に関する費用は内国人労働者に比べて外国人労働者の方がよりかかることが明らかになった。

一方、内国人労働者の生産性を100%とした場合、外国人労働者の生産性は平均87.5%と調査された。外国人労働者の生産性の平均(%)を企業規模別(内国人労働者の数)に見ると、30人以上が93.2%で最も高く、次いで10~29人(87.6%)、5~9人(87.5%)、1~4人(83.7%)の順で、企業規模が大きいほど生産性が高いという結果が現れた。

内国人労働者と比べた外国人労働者の賃金水準に対する内国人の意識の調査結果によると、「多い」という回答が59.0%(「多い」(41.3%)と「多すぎる」(17.7%)の合計)で半分以上を占め、「適正である」(40.3%)と「少ない」(0.7%)と答えた回答を上回った。
図表16 内国人及び外国人労働者の一人当たり1ヶ月平均の人件費と現物給付
(3) 優秀専門外国人労働者の誘致戦略
1) 電子ビザ制度を導入
優秀人材を誘致する目的で2013年3月から電子ビザ制度を導入した。電子ビザが申請できる在留資格は次の通りである。

・教授(E-1)、研究(E-3)、技術指導(E-4)、専門職業(E-5)と専門人材の配偶者及び未成年の子どもに対して発給する同伴家族(F-3)
・特定活動(E-7):雇用推薦状(GOLD CARD)を受領した先端科学技術人材
・在外の公的機関長が指定した国外の旅行会社がビザの申請を代行する団体観光客に対するビザ(C-3-2)
・電子ビザ代理申請者として指定された優秀外国人患者の誘致機関が招待した外国人患者とその看護人に発行した医療観光(C-3-3)あるいは治療療養(G-1-10)
・韓国企業から招待された者に対する一般商用(C-3-4)

2) 点数(ポイント)移民制を導入
年齢、学歴、所得、韓国語能力などをポイントに換算し、80点以上(満点120点)を取得した外国人に対して自由に経済活動ができる居住資格(F-2)を与えて、3年後には永住(F-5)資格を与える制度で2010年から施行している。2013年5月からは、既存の評価項目に所得税の納付実績を追加した(年間500万ウォン:5点 )。

3) 投資移民
指定された銀行に5億ウォン以上を預金(投資)した場合、F2(居住)ビザが発行される。また、投資額を5年間銀行に預けておいた場合、F5(永住)ビザに変更することも可能である。さらに15億ウォンを預金(投資)した場合には投資と同時に永住権を取得することができる。

4) 外国人熟練技能点数制ビザ
外国人熟練技能点数制ビザは、韓国で非専門就業(E-9)、船員就業(E-10)、訪問就業(H-2)ビザで5年以上働いている外国人が、熟練度など一定条件を満たしている場合に長期間に渡り就業できるように在留資格を変更する制度である。四半期毎に100人を選抜している(高得点者を優的的に選抜)。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―のレポート Topへ