2019年03月27日

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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3) 雇用許可制の手続き
1.使用者
雇用許可制により外国人労働者を雇用することを希望する使用者は、まず管轄雇用センターに求人申請をする必要がある。つまり、雇用許可制は、内国人の雇用機会を保護するために、外国人労働者の雇用を希望する使用者に一定期間、内国人の求人努力を義務化 (農畜産業、水産業:7日、製造業、建設業、サービス業:14日)しており、このような努力(市場テスト)をしたにもかかわらず、雇用ができなかった事業場に限定して、単純技能外国人労働者の雇用を許可している。雇用許可制を利用するために事業場は次の条件を満たす必要がある。
 
・外国人労働者の許容業種及び雇用可能な事業(事業場)であること。
  許容業種:製造業、建設業、サービス業、農畜産業、漁業
・一定期間(7日∼14日)の間、内国人労働者を雇用するために求人活動(労働市場テスト)3を行っていたにも関わらず、内国人労働者(全員あるいは一部)が雇用できなかった事業場であること。
・内国人に対する求人申請をした前日の2ヶ月前から雇用許可書の発給日まで雇用調整により内国人労働者を離職させないこと。
・求人申請をした日の5ヶ月前から雇用許可書の発給日まで賃金の未払いがないこと。
・申請日現在、雇用保険及び労災保険に加入していること。
 
また、一般外国人に対する求人手続きと一般外国人の就業手続きは図表9と図表10の通りである。
 
3 例外的に新聞・放送・生活情報誌等を通じた求人活動をした場合は7日(製造業、建設業、サービス業)と3日(農畜産業、漁業)に短縮
図表9一般外国人に対する求人手続き
図表10 一般外国人の就業手続き
一方、特例外国人の使用を申し込む使用者は、まず雇用労働部の雇用センター(Work-Net)に求人申請をする必要がある。一般事業者の場合は、on-line申請が可能であり、家政婦や看護人等の使用を希望する個人は、訪問及びファクス手続きによる申請のみ可能である。申請期限は、内国人の求人努力(7日~14日、労働市場テスト)をしてから3ヶ月以内であり、特例として雇用できる外国人の数は内国人の求人を申請した際の不足人員のうち、特例雇用可能確認書の発給申請日まで採用できなかった人員に制限している。申請時には、特例雇用可能確認発給申請書、事業者登録証(家庭の場合には住民登録謄本)及びその他の書類(業種別)の提出が必要である(図表11)。
図表11 業種別必要書類
個人における看護人の雇用は、認知症などにより、身動きが不便な患者がいる場合や80歳以上の高齢者がいる場合に制限している。また、病院に入院中の者の看護のために外国国籍の同胞を雇用することも可能である。

家政婦の雇用は、一人以上の子どもがいる共稼ぎ夫婦であることを証明できた世帯や6ヶ月以上の身動きが不便な長期患者がいる場合にのみ許容される。但し、3ヶ月未満の短期滞留者、研修就業(E-8)、非専門就業(E-9)、訪問就業(H-2)の滞留資格を持つ外国人の雇用は許可していない。

使用者と特例外国人労働者は標準勤労契約書を使用し、勤労契約を締結すべきであり、勤労契約の内容には勤労契約期間、就業場所、業務内容、始業及び終業時間、休日、休憩時間、賃金、賃金の支給時期等を記載するようにしている。図表12と図表13は、特別外国人に対する求人手続きと就業手続きを示しており、一般外国人に対する手続き(図表9と図表10)に比べるとかなりシンプルであることが分かる。
図表12 特例外国人の求人手続き
図表13 一般外国人の就業手続き
4) 点数制の実施
韓国政府は、農畜産業など一部の使用者が雇用許可書の発給を受けるために、雇用センターの前で長時間待機するという申請者の不便を解消するために、従来の先着順方式を点数制に変更し、2013年度の新規人財の配置からすべての業種に対して点数制を実施している。

雇用センターでは事業場に対して雇用許可書の発給要件及び欠格事由を検討し、発給要件を満たし、欠格事由がない事業場に対しては電算プログラムにより点数を算定し、点数が高い事業場から雇用許可書を発給している(雇用センターに訪問する日時を通知)。点数制評価指標は基本項目、加点項目、減点項目に区分される。以下は2018年度における点数制評価指標の内容である。
 
※2018年度点数制評価指標

1.基本項目
  • 外国人雇用の許容人員に対する実際の外国人雇用人員の比率
     最高30点~最低22.4点
     比率が低いほど高い点数を付与
  • 外国人雇用人員に占める再雇用満了者の割合
     最高30点~最低22.4点
     比率が低いほど高い点数を付与
  • 新規雇用申請人員(最高20点~最低15点)
     製造業:最高20点~最低19点(偏差0.2点)
     製造業以外:最高20点~最低15点(偏差1点)
     申請人員が少ないほど高い点数を付与
  • 内国人の求人努力により採用した人員(最高20点~最低18点)
     製造業:最高20点~最低14点(偏差2点)
     製造業以外:最高20点~最低18点(偏差0.5点)
     内国人の求人努力期間中に、雇用センターで斡旋した内国人を多く雇用した事業場ほど高い点数を付与


2.加点項目
  • 帰国費用保険や傷害保険に全員が加入し、保険料を完納した事業場(1点)
  • 建設業soc事業場(2点)
  • 新環境農畜水産物認証事業場(0.2点)
  • 優秀寮設置及び運営事業場(製造業:0.5点、製造業以外:3点)
  • 使用者教育履修事業場(製造業:0.2点、製造業以外:2点)
  • 5年連続無災害外国人雇用事業場(1点)
  • 使用者の積極的産業災害予防努力(各1点)
     産業安全保健法上「危険性評価認定」または「安全保健経営システム(kosha 18001)認証」を受けた事業場に各1点付与
  • 標準勤労契約書作成ガイドライン適用事業場(農畜産業:0.1~0.5点)
     以下の基準をすべて適用した契約書1件当たり0.1点の加算点付与(最大0.5点)
     - 労働時間:月234時間未満
     - 休憩:1日60分(1時間)以上
     - 休日:週1回
     - 住居タイプ別寝食費控除上限の順守
  • 農畜産業住居環境改善事業場(0.2点~2点)
     マンション、一戸建て住宅、集合・多世帯住宅及びこれに準ずる施設(寮、考試院、オフィステルなど):2点
    火災予防、電気安全措置をすべて実施し、証明書を提出した場合は加点付与:0.2点
    - 設置した消防施設:単独警報型感知器、消火器設置
    - 電気安全措置:電気安全診断の実施
    優秀寮として認められ、加点を受けた場合、重複して加点は付与しない


3.減点項目
  • 外国人雇用事業場への指導点検時に指摘事項があると減点
    (是正指示:-0.1点、罰金賦課:-0.2点、告発:-0.3点、雇用許可の取り消し/制限:-0.2点、関係機関通知:-0.2点)
  • 出国満期保険料の未払い事業場(未払い回数により-0.5点~-2点)
  • 使用者の帰責事由により事業場を変更した外国人労働者がいる事業場
    (暴行や暴言、セクハラ:-2点/性的暴行:-5点/賃金未払いや勤労条件違反、その他の使用者帰責事由:-3点)
  • 死亡災害が2年連続発生した事業場(-1点~-2点)
    最近、2年間の死亡災害が1人発生:-1点
    最近、2年間の死亡災害が2人以上発生:-2点
    ・農畜産業の標準勤労契約書ガイドラインを遵守していない事業場:-0.1点~-0.5点
    標準勤労契約書ガイドライン未遵守1件当たり-0.1点(最大-0.5点)
  • 賃金未払いなどの勤労条件違反事業場(-0.2~-3点)
    是正指示:1件当たり-0.2点(減点上限:-2点)
    司法処理:1件当たり-0.5点(減点上限:-3点)
  • 労災を隠蔽したことが摘発された事業場(-1点)
    雇用許可を申請した時点以前2年間の労災隠蔽がある事業場
  • 住居環境加点を虚偽に申請した事業場(-1点)
  • AI発生の事業場(-0.5点~-2点)
    最近、2年間のAI発生件数1件当たり-0.5点(最大-2点)
    2017年1月1日以降、AIが発生した事業場
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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