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- 高齢者による運転免許返納率の都道府県差
2019年03月22日
1――75歳以上で死亡事故、車両単独事故が多い
75歳以上の死亡事故にはいくつかの特徴がみられる。75歳未満では車両単独事故は2割程度であるのに対し、75歳以上は4割近くと、車両(原付を含む)単独事故が多い。また、死亡事故の要因も75歳未満では「安全不確認」要因が最大であるのに対し、75歳以上は「操作不適」が要因とされるケースが多い。特に、ハンドルの操作不適、ブレーキとアクセルの踏み間違いが多いとされる。死亡事故をおこした75歳以上は、認知機能検査において、認知機能の低下(認知症のおそれがある、または認知機能が低下しているおそれがある)が指摘される割合が49%と、75歳以上全体の32%より高くなっている1。
こういったことから、加齢による身体機能や認知機能、判断の速さの衰えによる事故の発生が指摘されている。
1 警察庁交通局「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」より。全受検者525万人、死亡事故を起こした受検者352人が対象(2015~2017年実施分)。
こういったことから、加齢による身体機能や認知機能、判断の速さの衰えによる事故の発生が指摘されている。
1 警察庁交通局「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」より。全受検者525万人、死亡事故を起こした受検者352人が対象(2015~2017年実施分)。
2――運転免許自主返納は増加するも、地域差が大きい
1|自主返納制度とは
運転免許の自主返納制度(正式には「申請による免許取消」という。)は、運転免許が不要になった人や、加齢に伴う身体機能低下等によって運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーが自主的に運転免許の取り消し(全部取消または一部取消)を申請する制度で、1998年に始まった。運転免許証は身分証明書として用いることが定着していることから、自主返納者のうち希望者に、本人確認書類として利用可能な「運転経歴証明書2」の発行を2002年に始め、それ以降定着してきた。現在、各自治体では運転経歴証明書を提示することで、バスやタクシーなどの公共交通機関の運賃割引が受けられる等の施策を設けて、運転に替わる移動手段を提供している。
自主返納以外の高齢ドライバー対策としては、71歳以上は免許の有効期限が短縮されるほか、70歳以上の免許更新時の高齢者講習受講、75歳以上の認知機能検査受検が義務付けられている。年齢が高いほど「自分の運転テクニックなら充分危険回避できる」と考える傾向があるとの報告もあることから3、講習等によって加齢の身体機能や判断力への影響を知ることは重要と考えられる。また、認知機能検査の結果、必要があれば専門医の診察を受け、認知症と診断されれば、免許の停止・取消となる。道路交通法改正で検査が厳格化された2017年には、専門医の診察を受けた75歳以上の1割程度が停止・取消となった。
2 当初、本人確認書類として利用が認められる期間は、発行後6か月以内とされていたが、2012年に制度が改正されてからは、無期限の使用が認められるようになった。また、2012年以降発行の運転経歴証明書は、紛失時には再発行することができ、記載事項に変更があった場合は届け出る必要がある。
3 所正文「超高齢社会と自動車交通」(国民生活センター『国民生活』2016年11月)によると、「自分の運転テクニックなら充分危険回避できる」と考える割合は64歳以下では2割に満たないが、65~69歳で29%、70~74歳で46%、75歳以上で53%と年齢が高いほど高い。ただし、2001年のやや古い報告である。
運転免許の自主返納制度(正式には「申請による免許取消」という。)は、運転免許が不要になった人や、加齢に伴う身体機能低下等によって運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーが自主的に運転免許の取り消し(全部取消または一部取消)を申請する制度で、1998年に始まった。運転免許証は身分証明書として用いることが定着していることから、自主返納者のうち希望者に、本人確認書類として利用可能な「運転経歴証明書2」の発行を2002年に始め、それ以降定着してきた。現在、各自治体では運転経歴証明書を提示することで、バスやタクシーなどの公共交通機関の運賃割引が受けられる等の施策を設けて、運転に替わる移動手段を提供している。
自主返納以外の高齢ドライバー対策としては、71歳以上は免許の有効期限が短縮されるほか、70歳以上の免許更新時の高齢者講習受講、75歳以上の認知機能検査受検が義務付けられている。年齢が高いほど「自分の運転テクニックなら充分危険回避できる」と考える傾向があるとの報告もあることから3、講習等によって加齢の身体機能や判断力への影響を知ることは重要と考えられる。また、認知機能検査の結果、必要があれば専門医の診察を受け、認知症と診断されれば、免許の停止・取消となる。道路交通法改正で検査が厳格化された2017年には、専門医の診察を受けた75歳以上の1割程度が停止・取消となった。
2 当初、本人確認書類として利用が認められる期間は、発行後6か月以内とされていたが、2012年に制度が改正されてからは、無期限の使用が認められるようになった。また、2012年以降発行の運転経歴証明書は、紛失時には再発行することができ、記載事項に変更があった場合は届け出る必要がある。
3 所正文「超高齢社会と自動車交通」(国民生活センター『国民生活』2016年11月)によると、「自分の運転テクニックなら充分危険回避できる」と考える割合は64歳以下では2割に満たないが、65~69歳で29%、70~74歳で46%、75歳以上で53%と年齢が高いほど高い。ただし、2001年のやや古い報告である。
3|返納率には地域差がある~都道府県間の差は最大で2.27倍。自動車保有率と逆相関。
返納率は上昇しているものの地域差がある。図表3は、都道府県別の75歳以上の免許保有人口あたり返納率である。最高が東京都の7.25%、最低が茨城県の3.19 %と2.27倍の差があった。
図表3から、公共交通機関が充実した大都市圏で返納率が高い傾向がある。日々の生活における車の利用状況が地域によって異なることが、返納率の地域差の一因となっていると想像がつく。そこで、人口あたりの自動車保有率と免許返納率の相関関係をみると、△0.67と比較的強い逆相関がみられ、一人当たりの乗用車台数が多い都道府県ほど免許返納率が低い(図表4)。都道府県別の車通勤・通学率や免許保有率でも同様の関係がみられた。
返納率は上昇しているものの地域差がある。図表3は、都道府県別の75歳以上の免許保有人口あたり返納率である。最高が東京都の7.25%、最低が茨城県の3.19 %と2.27倍の差があった。
図表3から、公共交通機関が充実した大都市圏で返納率が高い傾向がある。日々の生活における車の利用状況が地域によって異なることが、返納率の地域差の一因となっていると想像がつく。そこで、人口あたりの自動車保有率と免許返納率の相関関係をみると、△0.67と比較的強い逆相関がみられ、一人当たりの乗用車台数が多い都道府県ほど免許返納率が低い(図表4)。都道府県別の車通勤・通学率や免許保有率でも同様の関係がみられた。
3――これから急激に高齢ドライバーは増える
日本においては、近く、これまでよりも免許保有率が高く、人口の多い団塊の世代が75歳を迎え始める。自動運転技術やウエアラブルデバイスによる健康状態のモニタリングが、高齢ドライバーによる事故の低減に効果があると考えられているが、そもそも身体の状態が万全でなくなれば運転を止めるのが望ましいだろう。一方、運転を止めることで、歩行や自転車など高齢者にとってより危険な手段で移動せざるを得なくなることも今後克服すべき課題とされる4。
日本より高齢者が車に乗ることが多い諸外国でもさまざまな対策がとられている5。運転免許の定年制は中国で採用されているが、これは珍しい例で、多くの国や地域では高齢者の自立した生活を確保するために、安全に運転できる環境整備や健康状態の検査を実施している。日本でも導入されている高齢ドライバーの免許の有効期限の短縮化、更新時や違反時の認知機能検査、更新時等の講習や実車試験等のほか、日本にはない制度として、一般の病院6や家族・友人から認知機能以外の点においても健康状態に関する情報を得たり、運転可能な地域や時間帯を限定する限定免許を採用する国や地域もある。しかし、一方で、諸外国でもこういった対策の中には、高齢ドライバーの事故を減らしているとは限らない対策もあるといった報告があるなど、試行錯誤が続いているようだ。
4 岡村和子「各国における運転適性と安全に運転できる能力の評価方法」(国際交通安全学会 IATSS Review Vol42、No3、2017年)によると、日本で、高齢者の歩行中死亡率が高い理由の1つが、運転をする高齢者が少ないことだと考えられている。
5 警察庁「外国の高齢者に対する運転免許制度の概要」(『第5回 高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議』、2017/5)、川西晶大「諸外国における⾼齢者の運転免許制度」(国会図書館『調査と情報』2017/11)等。
6 図表4で、静岡県が一人当たり乗用車保有台数の割に返納率が高い。産経新聞「高齢者の免許の自主返納 静岡県が1位に かかりつけ医の活用が奏功」(2018/2/13)によると、普段からその人の生活環境をよく知るかかりつけ医が免許証の返納を促すことで、認知症と診断される前に免許を自主返納してもらおうという試みが効果的であるとの見方があるようだ。
日本より高齢者が車に乗ることが多い諸外国でもさまざまな対策がとられている5。運転免許の定年制は中国で採用されているが、これは珍しい例で、多くの国や地域では高齢者の自立した生活を確保するために、安全に運転できる環境整備や健康状態の検査を実施している。日本でも導入されている高齢ドライバーの免許の有効期限の短縮化、更新時や違反時の認知機能検査、更新時等の講習や実車試験等のほか、日本にはない制度として、一般の病院6や家族・友人から認知機能以外の点においても健康状態に関する情報を得たり、運転可能な地域や時間帯を限定する限定免許を採用する国や地域もある。しかし、一方で、諸外国でもこういった対策の中には、高齢ドライバーの事故を減らしているとは限らない対策もあるといった報告があるなど、試行錯誤が続いているようだ。
4 岡村和子「各国における運転適性と安全に運転できる能力の評価方法」(国際交通安全学会 IATSS Review Vol42、No3、2017年)によると、日本で、高齢者の歩行中死亡率が高い理由の1つが、運転をする高齢者が少ないことだと考えられている。
5 警察庁「外国の高齢者に対する運転免許制度の概要」(『第5回 高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議』、2017/5)、川西晶大「諸外国における⾼齢者の運転免許制度」(国会図書館『調査と情報』2017/11)等。
6 図表4で、静岡県が一人当たり乗用車保有台数の割に返納率が高い。産経新聞「高齢者の免許の自主返納 静岡県が1位に かかりつけ医の活用が奏功」(2018/2/13)によると、普段からその人の生活環境をよく知るかかりつけ医が免許証の返納を促すことで、認知症と診断される前に免許を自主返納してもらおうという試みが効果的であるとの見方があるようだ。
(2019年03月22日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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