2019年03月11日

オーストラリア経済の見通し-減速する豪州経済。選挙後の政策効果による下支えに期待。

神戸 雄堂

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2――実体経済の動向

(民間消費) 住宅価格下落による逆資産効果が懸念材料も、労働市場の改善が下支え
 
民間消費は、成長率がやや鈍化しているものの、依然として堅調に推移している。さらに住宅価格の下落が進行すると、逆資産効果を通じて民間消費に悪影響を与える懸念はあるが、労働市場の改善によって底堅く推移するだろう。
(図表8)雇用と賃金の推移 労働市場では、2017年半ば以降、雇用・賃金ともに改善傾向が見られる。失業率は、就業者の安定的な増加によって低下傾向にあり、2019年1月には5.0%となっている(図表8)。また、フルタイム労働者の増加によって、名目賃金も上昇しており、2018年10-12月期の名目賃金の伸び率(前年比)は、3年ぶりに2.3%に達した。当面の間、低インフレ、低金利環境が継続すると予想されるため、労働市場の改善によって民間消費は堅調に推移するだろう。
(総固定資本形成) 弱含んでいる民間部門の投資。公的部門による下支えに期待。
 
総固定資本形成は、民間固定資本形成が重石となるも、堅調な公的資本形成によって底堅く推移するだろう。

住宅投資の落ち込みによって、民間固定資本形成は弱含んでいる。10-12月期の住宅投資は4四半期ぶりのマイナス成長であったが、住宅の先行指標である住宅着工許可件数は2018年半ばから減少傾向が続き、未だに下げ止まっていないため、住宅投資の落ち込みは当面の間、継続するだろう。また、設備投資についても、企業の短期景況見通しを示す企業信頼感指数の悪化傾向が継続しており、設備投資意欲が低下していると予想される。一方で、公的固定資本形成については、2018/19年度(18年7月1日)から大規模なインフラ投資計画6が開始されており、下支えすることが期待される。
 
6 移民流入等による人口増加によってインフラ需要が高まっており、2018/19年度から10年間で総額750億豪ドルの投資を行うという計画。
(純輸出) 中国向け輸出が減少し、寄与度は低下と予想。

純輸出は、輸出の減少によって直近2四半期連続で成長率寄与度がマイナスとなっている。今後も、最大の輸出先7である中国経済の減速と中国による米国からの輸入拡大によって輸出の減少が見込まれるため、純輸出を押下げるだろう8
(図表9)輸出額(通関ベース)の推移(原系列) 通関ベースで見ると、貿易収支の黒字額は、輸出増額の増加を背景に拡大傾向が続いており、2019年1月の黒字額は史上2番目の水準に達している(図表9)。しかし、輸出総額の増加要因として、米中貿易摩擦によるオーストラリア産品目の代替需要が高まったことが考えられ、その反動によって輸出は減少するだろう。また、中国との関係悪化に伴う貿易への悪影響が懸念される。2月下旬には、オーストラリア産石炭の無期限の輸入禁止の報道がなされ、中国当局はこれを否定しているが、両国間の関係悪化9に対する中国の報復という可能性も意識されている。
 
7 2018年の中国向け輸出の割合は34.2%であった。
8 米中貿易摩擦の激化によって、米国産に代わって需要が高まり、中国向け輸出が増加しているオーストラリア産の牛肉やLNGなどの中国向け輸出が減少すると予想される。
9 中国資金流入による住宅価格の高騰や、中国人からの政治献金による内政干渉疑惑が生じたことで、オーストラリア国内では中国への警戒感が高まったため、政府は、中国の影響力拡大の抑止を念頭に、外国人の政治献金の禁止や諜報活動への監視強化等を進めてきた。また、中国企業のファーウェイやZTEに対して、国内の5G市場参入を禁止した。
 

3――為替・物価・金融政策の動向

3――為替・物価・金融政策の動向

(為替・物価・金融政策)短期的に大きな動きはないと予想
(図表10)為替レート、インフレ率、政策金利の推移 為替は、2018年以降、豪ドル安が進行した。これは、米国の利上げに伴い、両国の10年国債利回りが逆転し、米豪金利差が拡大していること10によるものである。足元の為替は、米国の利上げ観測の後退によって下げ止まったものの、その後は再び弱含んでいる (図表10)。今後は、オーストラリア経済の減速懸念や利下げ観測の高まりが豪ドル安材料となり、豪ドルは上値の重い展開が続くだろう。
 
インフレ率(前年比、以下同様)は、2014年10-12月期以降、鈍化傾向が続いており、一部期間を除いて、インフレ目標下限の2.0%を下回っている。足元では原油価格下落によるガソリン価格等の下落によって、2018年10-12月期のインフレ率は1.8%まで低下している。今後は、原油価格の持ち直しや賃金上昇率の高まりを受けて緩やかに上昇していくが、当面の間は2.0%程度の低インフレが継続するだろう。
 
オーストラリア連邦準備銀行(RBA)は、3月5日の金融政策決定会合において、政策金利を28会合連続で過去最低水準の1.5%に据え置いた。市場では、2月の会合の声明等11や住宅価格の下落や景気の減速を踏まえ、利下げ観測も浮上しているが、利下げは家計債務のさらなる拡大につながりかねないため、基本路線は、当面の間、据え置きを継続すると予想する。
 
10 米国の度重なる利上げによって2018年3月以降、短期金利は逆転し、長期金利(10年国債利回り)も逆転、金利差拡大が見られる。
11 ロウ総裁は、2月会合の声明で2019年成長率の見通しを引下げた他、翌日には金融政策を引締めから中立へ転換する旨の発言を行った。
 
 

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(2019年03月11日「基礎研レター」)

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