2018年12月06日

豪州の7-9月期GDPは前期比0.3%増~民間消費は低い伸びが続く見通し~

神戸 雄堂

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12月5日、オーストラリア統計局(ABS)は、2018年7-9月期のGDP統計を公表した。7-9月期の実質GDP成長率は前期比0.3%増(季節調整済系列)と、前期の同0.9%増から大きく減速した。前2四半期は高い伸びを示していただけに予想外の落ち込みとなった。民間消費の落ち込みや8月に東部で発生した大規模な干ばつが成長率を押下げたと見られる。

四半期GDPの概況

需要項目別に見ると、外需の寄与度は引き続きプラスであったが、内需の寄与度は民間部門の減速によってゼロ近くまで低下した(図表1)。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 最終消費支出は前期比0.3%増と前期の同0.9%増から減速した。GDPの約6割を占める民間消費は前期比0.3%増(前期:同0.9%増)、政府消費は同0.5%増(前期:同0.9%増)とともに減速した。

民間消費の減速は、政治の混乱や主要銀行による住宅ローン金利の引上げによって消費者の景況感が悪化したことが影響したと見られる。

総固定資本形成は前期比0.1%増と前期の同0.1%増から横ばいであった。民間部門は悪化したが、公的部門が押上げた。

民間部門は、同0.8%減と前期の0.1%増から悪化した。住宅投資が同1.0%増(前期:同1.9%増)と減速したことに加えて、企業の設備投資は同1.2%減(前期:同0.8%減)と2四半期連続のマイナス成長となった。公的部門は18/19年度(18年7月‐19年6月)に予定されている大規模なインフラ投資が開始されたため、同3.4%増(前期:同0.4%増)と予想通り高い伸びとなった。

純輸出は輸出が同0.1%増、輸入が同1.5%減となった結果、成長率寄与度が0.3%ポイント(前期:同 0.2%ポイント)と成長率をさらに押し上げた。輸出は低い伸びに留まったが、中国向けの液化天然ガスなど鉱物・燃料を中心に依然として好調を維持している。
 
供給項目別に見ると、GDPの約7割を占める第三次産業は、前期比0.8%増と前期(同0.9%増)からわずかな減速に留まったが、第一次産業及び第二次産業が前期比マイナス成長となった。8月に東部で発生した大規模な干ばつが第一次産業の成長率を押下げた。

先行きのポイント

オーストラリア経済は、2018年に入ると外需寄与度の改善によって、2四半期連続で年率3%を越える高い成長となった。しかし、7-9月期は内需寄与度が大きく低下し、予想外の低い伸びとなった。今後も、民間消費の伸び悩みによって当面は成長率が押下げられるだろう。
 
GDPの約6割を占める民間消費は、前期から大きく減速し、内需寄与度低下の主因となったが、消費を支える労働市場環境は決して悪くない。労働市場では依然としてフルタイム労働者の就業を中心に失業率の低下傾向が続いており、足元では2012年以来の5.0%まで低下した(図表2)。また、7-9月期の賃金上昇率は水準自体は依然として低いものの、最低賃金の引上げもあって3年ぶりの2.3%となったうえ、インフレ率を再び上回った(図表3)。
(図表2)失業率と就業者数の推移/(図表3)インフレ率(費目別寄与度)と賃金上昇率の推移
したがって、景況感の悪化が消費に悪影響を与えたと考えられる。家計の景況感を示す消費者信頼感指数は7月から9月にかけて大きく悪化した。8月の悪化は前月の大幅な上昇の反動であるが、9月の悪化は8月に政治の混乱によって首相がターンブル氏からモリソン氏に代わったことや主要銀行が相次いで住宅ローン金利を引上げたことが影響した。また、7-9月期のインフレ率の伸び自体は前期から低下したものの、飲食料品や交通(ガソリン代等)など身近な物の価格が上昇したことやシドニーやメルボルンなどの都市部で住宅価格が下落したこと(保有資産価値の低下)が景況感に悪影響を与えたと見られる。
(図表4)住宅ローン承認額と家計債務の推移 今後の民間消費は、低い伸びが続くと予想する。足元の消費者信頼感指数は9月から2ヵ月連続で上昇したが、高水準の家計債務が引き続き民間消費の重石となるだろう。オーストラリアでは、ここ数年にわたって中国マネーが流入し、住宅価格が高騰し、高額な住宅ローンの増加によって家計債務残高が増加してきた。これに対して、政府は警戒を強め、融資規制や海外投資家への規制強化を行ってきた結果、投資用だけでなく居住用の住宅ローン承認額についても減少基調にある(図表4)。しかし、家計債務残高の可処分所得比は依然として上昇しており、4-6月期には190%を上回った。主要銀行による住宅ローン金利の引上げはさらなる上昇要因となり、家計に重くのしかかるだろう。また、都市部の住宅価格の下落傾向は今後も続くと見られ、住宅ローンを抱えている世帯の消費性向の低下や、最悪の場合、銀行危機や金融危機を招く懸念もあるだろう。
(図表5)インフレ率、政策金利、為替レートの推移 インフレ率は、豪ドル安に伴う輸入物価の上昇が上昇要因となるも、国際原油価格の下落の影響が波及することや賃金上昇の鈍さもあり、2%程度の低インフレが続くだろう。

政策金利も当面の間、据え置かれるだろう。オーストラリア連邦準備銀行(NAB)は、12月4日の金融政策決定会合において、政策金利を過去最低水準の1.5%に据え置くことを決定し、据え置き期間は2年以上にも及んでいる(図表5)。米国の利上げ観測の高まりによって為替は豪ドル安が進行しているが、7-9月期のGDP成長率が予想外に低かったことや利上げが家計負担の上昇につながりかねないことから、当面は据え置かれると予想する。
 
 

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神戸 雄堂

研究・専門分野

(2018年12月06日「経済・金融フラッシュ」)

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