2018年09月06日

【豪州GDP】4-6月期は前期比0.9%増~18年の成長率は3%を上回る見通し~

神戸 雄堂

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9月5日、オーストラリア統計局(ABS)は、2018年4-6月期のGDP統計を公表した。4-6月期の実質GDP成長率は前期比0.9%増(季節調整済系列)と、前期の同1.1%増からは減速したものの、全体的に堅調に推移しており、1991年から続いている景気拡大の世界最長記録1をさらに更新した。
 
1 108四半期連続でリセッション(2四半期以上連続のマイナス成長)を回避しての景気拡大となった。

1.経済概況

需要項目別に見ると、公的固定資本形成と在庫変動を除くすべての項目で、前期比プラス成長となった。内需・外需ともに寄与度はプラスで、全体的に堅調に推移している(図表1)。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 最終消費支出は前期比0.7%増と前期の同0.8%増から若干減速した。GDPの約6割を占める民間消費は前期比0.7%増と前期の同0.5%増から加速した。政府消費は同1.0%増と前期の同1.6%増から減速したものの、比較的高い伸びが続いている。

総固定資本形成は前期比0.0%増と前期の同1.4%増から減速した。民間部門、公的部門ともに前期からほぼ横ばいであった。民間部門は、同0.0%増と前期の2.4%増から減速した。住宅投資が同1.7%増(前期:同3.6%増)と堅調であったが、企業の設備投資は同0.7%減(前期:同2.0%増)と悪化した。公的部門は同0.0%減と前期の2.3%減から改善した。

純輸出は輸出が同1.1%増、輸入が同0.4%増となった結果、成長率寄与度が0.1%ポイント(前期:同 0.2%ポイント)と成長率を押し上げた。通関ベースで見ると、4-6月の輸出は中国向けの液化天然ガスを中心に鉱物・燃料が好調であった。4-6月の貿易収支は黒字であったものの、1-3月からは貿易黒字が若干縮小した。
(図表2)【供給項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 また、供給項目別に見ると、サービス業を牽引役として全項目の寄与度がプラスであった(図表2)。

GDPの約7割を占める第三次産業は、前期比0.9%増と前期から横ばいながら、引き続き牽引役となった。専門・科学・技術サービスや医療・福祉業を中心に全体的に堅調であった。また、第一次産業では農業、第二次産業では建設業が堅調であった。

2.先行きのポイント

オーストラリア経済は、堅調に推移しており、18年の成長率は前年比3%を超えると予想する(17年:同2.3%)。民間消費が引き続き堅調に推移する他、インフラ投資の拡大が追い風となるだろう。
 
民間消費は、低インフレ・低金利環境の中で堅調に推移しているが、賃金上昇は依然として鈍い。これは、2017年以降フルタイム労働者を中心に就業者数が増加し、失業率の低下傾向が続いているものの(図表3)、不完全就業率2が高止まりしており、実際には需給がそれほど引き締まっていないためだと考えられる。7月の最低賃金の引上げが上昇要因となるも、その影響は限定的で、当面の間賃金上昇は緩やかなペースに留まるだろう。

インフレ率は、4-6月期が前年同期比2.1%と、17年1-3月期以来5四半期ぶりにインフレ目標下限の2.0%を上回った(図表4)。国際原油価格の上昇や豪ドル安に伴う輸入物価の上昇が寄与したと見られるが、賃金上昇の鈍さが重石となり、当面の間、2%程度の低インフレが続くだろう。
(図表3)失業率と就業者数の推移/(図表4)インフレ率(費目別寄与度)と賃金上昇率の推移
(図表5)インフレ率、政策金利、為替レートの推移 政策金利も当面の間、据え置かれるだろう。オーストラリア連邦準備銀行(NAB)は、9月4日の金融政策決定会合において、政策金利を過去最低水準の1.5%に据え置くことを決定し、据え置き期間は2年にも及んでいる(図表5)。同行は、19年以降にインフレ率が上昇していくとの見解を示しつつも、18年のインフレ率の見通しを下方修正しているため、年内の利上げの可能性は極めて低いだろう。
 
景気の押上げ要因としては、5月に示された減税3とインフラ投資が挙げられる。

所得税減税は、18/19年度4から24/25年度にかけて3段階の改正が行われる。18/19年度における改正の影響は一部の層に限定されるが、6月の消費者信頼感指数が13年以来の高水準にまで上昇していることから、消費マインドにも好影響を与えていると推測される。また、インフラ投資の投資規模は10年間で総額750億豪ドルにも及び、そのうち245億豪ドルが18/19年度に拠出される予定となっている。これは17/18年度の公的資本形成の約4割にも及ぶため、7-9月期以降、公的資本形成は高い伸びが期待される。
(図表6)住宅ローン承認額と家計債務の推移 一方で、先行きの懸念材料としては、住宅市場における高水準の住宅ローン残高と住宅価格の下落が挙げられる。

オーストラリアでは、ここ数年にわたって中国マネーが流入し、住宅価格が高騰してきた。高額な住宅ローンの増加によって家計債務残高は増加し、18年1-3月期における家計債務残高の可処分所得比は190%を上回った(図表6)。高水準の家計債務残高は、民間消費の重石となるとともに、銀行危機や金融危機のリスク要因でもあるため、政府は警戒を強め、融資規制や海外投資家への規制強化を行ってきた。その結果、海外投資家の需要が縮小し、足元では都市部を中心に住宅価格が下落している。住宅価格の下落は、これから住宅を購入しようとする世帯にとっては朗報であるが、既に購入している世帯にとっては保有資産の減少を意味し、消費性向の低下につながる懸念がある。また、貸出を行っている金融機関にとっても、住宅ローンが不良債権化するリスクが高まる。特にオーストラリアの4大銀行は、住宅ローンが貸出全体の約3分の2を占めており、不良債権化した場合の影響は大きくなると予測される。住宅価格の下落は当面の間続くと見られるため、今後も住宅市場の動向を注視したい。
 
なお、8月下旬に、与党内の退陣圧力の高まりによって、ターンブル首相が辞任し、後任として元財務相のモリソン氏が新首相に就任した。しかし、モリソン首相はターンブル政権が打ち出していた減税やインフラ投資などの政策を大きく変更することはないと見られるため、経済への影響はあまりないだろう。
 
2 不完全就業とは労働者自身の意思に反して所得や就業時間が不十分な状態であり、潜在的な失業状態とみなされる。オーストラリアにおける不完全就業者の定義は、より多くの時間働くことを希望し、それが可能であるパートタイム労働者(労働時間が週35時間未満の労働者)、もしくは雇用主の事情によって特定の期間の労働時間が週35時間に満たないフルタイム労働者を指す。オーストラリアの不完全就業率は先進国の中でも高い水準となっている。
3 法人税の減税については、年商5,000万豪ドル以下の中小企業の法人税率を、26/27年度までに27.5%から25%に引き下げることは既に閣議決定しているが、大企業向けの減税法案は未だに成立していない。
4 オーストラリアの会計年度は7月から翌年6月までである。
 
 

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(2018年09月06日「経済・金融フラッシュ」)

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