2019年03月01日

【10-12月期米GDP】前期比年率+2.6%、個人消費、在庫投資の伸びが鈍化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は、前期から低下も市場予想を上回る

2月28日、米商務省の経済分析局(BEA)は10-12月期のGDP統計(初期推計1)を政府閉鎖の影響により、およそ1ヵ月遅れで公表した。10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率2で+2.6%となり、前期(同+3.4%)から低下、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の同+2.2%は上回った(図表1・2)。この結果、18年の成長率は前年比+2.9%となり、17年の同+2.2%から上昇した。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
10-12月期の成長率を需要項目別にみると、設備投資が前期比年率+6.2%(前期:+2.5%)と前期から伸びが加速したほか、外需の成長率寄与度が▲0.22%ポイント(前期:▲1.99%ポイント)とマイナス幅が縮小した。

一方、住宅投資は前期比年率▲3.5%(前期:▲3.6%)と4期連続でマイナス成長となった。また、前期に成長率を大幅に押上げた在庫投資は成長率寄与度が+0.13%ポイント(前期:+2.33%ポイント)と、前期に続き成長押上げとなったものの、押上げ幅は大幅に縮小した。

さらに、政府支出が前期比年率+0.4%(前期:+2.6%)と前期から伸びが鈍化したほか、個人消費も+2.8%(前期:+3.5%)と、好調を維持したものの前期から伸びが鈍化した。

当期は前2四半期が高成長率となっていたほか、12月の小売売上高が予想外に減少したことを受けて、個人消費の伸び鈍化が見込まれていたことから、成長率の低下が予想されていた。一方、成長率が市場予想を上回った要因としては、在庫投資が前期の反動にも係わらず、小幅ながら成長率のプラス寄与となったことに加えて、設備投資が堅調な伸びとなったことが大きいとみられる。
 
1 政府閉鎖の影響で速報値と改定値のデータと推計方法の組み合わせにより推計
2 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)耐久財は好調も、全般的に消費の伸びは鈍化
10-12月期の個人消費は、財消費が前期比年率+3.9%(前期:+4.3%)、サービス消費が+2.4%(前期:+3.2%)と、いずれも前期から伸びが鈍化した(図表3)。財消費では、娯楽財・スポーツカーが+7.8%(前期:+8.9%)と前期から高い伸びを維持したほか、自動車・自動車部品が+9.1%(前期:▲1.8%)と前期から大幅な増加に転じたこともあって、耐久財全体では+5.9%(前期:+3.7%)と前期から伸びが加速した。

一方、ガソリン・エネルギーが+1.8%(前期:▲3.4%)と前期から増加に転じたものの、衣料・靴+3.2%(前期:+11.0%)や、食料・飲料+1.3%(前期:+3.4%)などで伸びが鈍化したことから、非耐久財全体では+2.8%(前期:+4.6%)と前期から伸びが鈍化した。

最後にサービス消費は、住宅・公共料金が+1.7%(前期:+1.0%)と前期から小幅ながら伸びが加速したほか、娯楽サービスも+2.1%(前期:▲1.3%)と前期から増加に転じた。しかしながら、医療サービスが+3.3%(前期:+4.7%)と前期から伸びが鈍化したほか、飲食・宿泊が▲3.9%(前期+7.1%)と減少に転じてサービス消費を押下げた。

一方、実質可処分所得は前期比年率+4.2%(前期:+2.6%)と、前期から伸びが加速した(図表4)。また、貯蓄率は6.7%(前期:6.4%)と3期ぶりに上昇に転じた。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(民間投資)建設投資の回復遅れも、知的財産投資が2桁の増加
10-12月期の民間設備投資は、建設投資こそ前期比年率▲4.2%(前期:▲3.4%)と2期連続のマイナス成長となったものの、設備機器投資が+6.7%(前期:+3.4%)と前期から伸びが加速したほか、知的財産投資が+13.1%(前期:+5.6%)と2桁の伸びに加速し、全体を押上げた(図表5)。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、製造業が▲9.0%(前期:+16.1%)とマイナスに転じたほか、電力・通信▲16.7%(前期:▲8.7%)、資源関連▲2.4%(前期:▲10.4%)が2期連続、商業・医療▲4.2%(前期:▲3.4%)が3期連続のマイナスとなった。

設備機器投資では、情報処理関連が▲2.0%(前期:+7.2%)と前期からマイナスに転じたものの、輸送機器が+17.0%(前期:▲3.6%)と前期から2桁の伸びに転じ全体を押上げた。

知的財産投資では、ソフトウエアが+14.5%(前期:+9.1%)、研究・開発も+13.5%(前期:+3.1%)と2桁の伸びとなった。

最後に住宅投資は、集合住宅が前期比年率+26.2%(前期▲8.7%)と4期ぶりに増加に転じたものの、戸建てが▲14.1%(前期:▲5.5%)と2桁の落ち込みとなった。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)非国防支出、州・地方政府支出が減少
10-12月期の政府支出の内訳は、連邦政府支出が前期比年率+1.6%(前期:+3.5%)と、前期から伸びが鈍化したほか、州・地方政府が▲0.3%(前期:+2.0%)と前期からマイナスに転じた(図表6)。

なお、連邦政府支出では、国防関連支出が+6.9%(前期:+4.9%)と前期から伸びが加速した一方、非国防支出が▲5.6%(前期:+1.6%)と、13年10-12月期(同▲7.7%)以来の落ち込みとなった。
(貿易)石油関連輸出が増加する一方、コンピュータ関連や石油関連の輸入が減少
10-12月期の輸出入の内訳をみると、輸出が前期比年率+1.6%(前期:▲4.9%)と前期から増加に転じたほか、輸入が+2.7%(前期:+9.3%)とこちらは前期から伸びが鈍化したため、当期は輸出入ともに貿易収支を改善させる方向に働いた(図表7、8)。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
輸出を仔細にみると、サービス輸出が前期比年率+1.4%(前期:+2.4%)と前期から伸びが鈍化する一方、財輸出が+1.6%(前期:▲8.4%)と前期から増加に転じて全体を押上げた(図表7)。財輸出では、食料・飲料が▲47.9%(前期:▲19.5%)と2期連続の大幅なマイナスとなったほか、自動車関連も▲13.2%(前期:▲14.1%)と3期連続で大幅なマイナスとなった。一方、石油関連が+41.4%(前期:▲5.8%)と大幅な増加に転じたことから、工業用原料が+13.1%(前期:▲4.8%)と前期から増加に転じたほか、民間航空機・部品等が+37.8%(前期:▲11.9%)と大幅な増加となったことから、資本財(自動車関連除く)も+5.5%(前期:▲4.1%)と前期から増加に転じた。

輸入は、サービス輸入が前期比年率+7.5%(前期+4.3%)と前期から伸びが加速したものの、財輸入が+1.6%(前期:+10.5%)と大幅に鈍化した(図表8)。財輸入では自動車関連が+11.6%(前期:+17.7%)、消費財(自動車関連除く)も+13.3%(前期:+12.0)と前期に続き2桁の伸びを維持した。一方、石油関連が▲20.6%(前期:+6.9%)と大幅な減少に転じた。また、コンピュータ関連が▲25.8%(前期:+6.2%)と大幅に落込んだことから、資本財(自動車関連除き)も▲2.8%(前期:+6.7%)とマイナスに転じた。
(物価・名目値)PCE価格指数(前年同期比)は総合、コアともに物価目標を下回る
10-12月期のGDP価格指数は、前期比年率+1.8%(前期:+1.8%)と前期から横這い、市場予想(同+1.7%)は上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+4.6%(前期:同+4.9%)と前期から伸びが鈍化した(図表9)。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数3は、前期比年率+1.5%、前年同期比+1.9%(前期:+1.6%、+2.2%)と前期比、前年同期比ともに前期から伸びが鈍化し、前年同期比はFRBの物価目標(2%)を下回った(図表10)。また、食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は前期比年率+1.7%、前年同期比+1.9%(前期:+1.6%、+2.0%)と、こちらも前期比および前年同期比で伸びが鈍化し、総合指数同様物価目標を下回った。このため、物価上昇圧力は足元で幾分後退していることが確認された。
 
3 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年03月01日「経済・金融フラッシュ」)

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