2019年02月04日

【1月米雇用統計】雇用者数は前月比+30.4万人と大幅な増加となった一方、失業率は政府閉鎖の影響もあって上昇

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は予想を大幅に上回る一方、失業率は横這い予想に反して上昇

2月1日、米国労働省(BLS)は1月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+30.4万人の増加1(前月改定値:+22.2万人)と、+31.2万人から大幅に下方修正された前月改定値、市場予想の+16.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.0%(前月:3.9%、市場予想:3.9%)と、こちらは前月から横這いとの予想に反し、+0.1%ポイント上昇した(後掲図表6参照)。労働参加率2は63.2%(前月:63.1%、市場予想:63.0%)と、前月から低下するとの市場予想に反し、前月から+0.1%ポイント上昇した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:失業率上昇、賃金の伸び鈍化も、労働市場の堅調な回復は持続

1月の非農業部門雇用増加数が市場予想を大幅に上回ったのは、後述するように12月分が▲9万人の大幅な下方修正となった影響はあるものの、これらを考慮しても過去3ヵ月の月間平均増加ペースは24.1万人増と、20万人を大幅に上回っているほか、18年通年の同22.3万人増も上回っていることから、19年に入っても順調な雇用増加が持続していることを示す結果と言えよう。

また、失業率が市場予想に反して前月から上昇したものの、BLSは連邦政府機関の一部閉鎖の影響により、一時帰休の政府職員が、一時解雇が理由の失業者に反映されるため、失業者数を押上げたとしており、それらの影響を割り引く必要がある。さらに、労働参加率は改善していることから、今月の失業率上昇は懸念材料ではない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比では+0.1%(前月値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と、前月、市場予想を下回ったものの、前年同月比では+3.2%(前月改定値:+3.3%、市場予想:+3.2%)と、+3.2%から上方修正された前月改定値は下回ったものの、市場予想に一致するなど、堅調な伸びを維持した(図表1)。

このようにみると、1月の結果は失業率上昇、賃金上昇率の前月比での鈍化などはみられるものの、力強い雇用の増加や労働参加率の改善持続など、19年入り後も労働市場の堅調な回復基調が続いていることを示した。

3.事業所調査の詳細:サービス、財生産部門ともに前月から伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+22.4万人(前月:+15.3万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、医療サービスが前月比+4.2万人(前月:+4.9万人)と前月から伸びが鈍化した一方、専門・ビジネスサービスが+3.0万人(前月:+2.9万人)と前月並みの伸びを維持した。さらに、娯楽・宿泊が+7.4万人(前月:+5.5万人)と前月から伸びが加速したほか、小売業が+2.1万人(前月:▲1.2万人)と前月から増加に転じた。

一方、財生産部門は前月比+7.2万人(前月:+5.3万人)と、こちらも前月から伸びが加速した。製造業が+1.3万人(前月:+2.0万人)と前月から伸びが鈍化したものの、建設業が+5.2万人(前月:+2.8万人)と前月から伸びが加速し、全体を押上げた。

政府部門は、前月比+0.8万人(前月:+1.6万人)とこちらは前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府では+0.1万人(前月:▲0.5万人)と前月から増加に転じたものの、州・地方政府が+0.7万人(前月:+2.1万人)と前月から伸びが鈍化したことが大きい。
前月(12月)と前々月(11月)の雇用増(改定値)は、前月が+22.2万人(改定前:+31.2万人)と▲9.0万人下方修正された一方、前々月は+19.6万人(改定前:+17.6万人)と、こちらは+2.0万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲7.0万人の下方修正となった(図表3)。また、今月は昨年の年次改定値も発表され、昨年の雇用増加数が月平均で+0.3万人上方修正された。
 
なお、BLSの公表に先立って1月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+21.3万人(前月改定値:+26.3万人、市場予想:+18.1万人)と、+27.1万人から下方修正された前月改定値を下回ったものの、市場予想を上回った。この結果、ADP統計も雇用統計と同様、18年12月から20万人超の堅調な雇用の伸びが持続していることを示した。
 
1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.56ドル(前月:27.53ドル)となり、前月から+3セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は950.82ドル(前月:949.79ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)2018年改定の結果/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:失業率は上昇も連邦政府機関の閉鎖が影響

家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で+49.5万人(前月:+41.9万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した3。内訳を見ると、失業者数が+25.9万人(前月:+27.6万人)と伸びが鈍化したものの、就業者数が+23.7万人(前月:+14.2万人)と伸びが加速して労働力人口を押上げた。一方、非労働力人口は▲34.5万人(前月:▲23.7万人)と、2ヵ月連続で減少した。

この結果、労働参加率は63.2%と2ヵ月連続の改善となった(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も1月は82.6%(前月:82.3%)となったほか、男女別でも男性が89.4%(前月:89.0%)、女性が76.0%(前月:75.9%)といずれも前月から改善しており、労働需給の逼迫が持続していることを示した。

一方、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇したものの、前述したようにBLSは連邦政府機関の一部閉鎖の影響を指摘している。BLSは19年1月の連邦政府職員の一時解雇者数(未季調)が10.4万人と例年を8万人程度上回ったと指摘しており、これらが失業者数の増加を通じて失業率の押上げ要因となったようだ。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
また、BLSは連邦政府職員で「就業しているがその他の理由で休んだ」と回答した人数が15万人超いたことも指摘しており、一時帰休となった連邦政府職員の一定数が本来「一時解雇」と回答すべき所を、誤って「就業者」と回答したことも指摘している。BLSはこれらの影響により失業率が+0.1%ポイント程度過大評価された可能性も指摘しているため、回答が正当にされていれば、1月の失業率はさらに高い数値となっていたようだ。もっとも、これらは一時的な要因であり、労働参加率の改善が続いていることから、失業率の上昇を懸念する必要はないだろう。
 
次に、1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は125.2万人(前月:130.6万人)となったほか、平均失業期間は20.5週(前月:21.8週)となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.3%(前月:20.5%)となった(図表7)。
 
最後に、周辺労働力人口(161.4万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(514.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5をみると、1月は8.1%(前月:7.6%)と前月から+0.5ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.1%ポイント(前月:3.7%ポイント)と、前月から+0.4%ポイン拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 2019年から人口推計を変更しているため、2018年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年02月04日「経済・金融フラッシュ」)

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