2019年01月31日

【1月米FOMC】予想通り、政策金利を据え置き。霧が晴れるまで当分様子見姿勢

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き、当面の金融政策は様子見姿勢を強調

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月29-30日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を据え置いた。また、バランスシート政策に変更はないものの、バランスシート正常化に関する声明を発表し、バランスシート縮小休止時期が当初想定より前倒しになる可能性を示唆した。

今回発表された声明文で、景気の現状認識については、一部物価に関する表現が下方修正されたものの大幅な変更はなし。一方、景気見通しについては、「短期的なリスクは概ねバランスしている」との表現を削除したほか、金融政策のガイダンス部分についても「いくらかの更なる漸進的な政策金利引き上げが整合的」との表現も削除されるなど、大幅に表現が変更され、全般にハト派的な内容となった。今回の金融政策変更は全会一致で決定された。

なお、今回から従前の四半期に一度から全ての会合後に記者会見が行われる運営に変更された。

2.金融政策の評価:当面様子見も、資本市場への配慮から追加利上げのハードルは上がった

政策金利の据え置きは予想通り。一方、声明文のガイダンスで追加利上げに関する表現が削除されたのは、先月のFOMCで表現変更されたばかりであったことから、やや予想外であった。

FOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は堅調な米経済見通しに変更がないことを示した上で、英国のEU離脱問題を含む海外経済の動向や、政府閉鎖や通商政策に絡む国内政治の不透明感、金融市場の引き締り、消費者や企業のセンチメントの悪化傾向などを指摘し、米経済見通しに対する不透明感が強まっていることを認めた。また、同議長は足元で物価上昇圧力が後退していることも踏まえて、金融政策変更はこれらの不透明感が払拭された後で判断できるとした。

一方、今回の会合では経済指標の著しい悪化がみられない中で、ガイダンス変更を行ったことから、FRBは昨年12月にみられた株式市場の大幅下落などの資本市場の不安定化を非常に懸念していることが伺われる。このため、今後はFOMC会合前に株式市場が下落する催促相場になるだろう。

当研究所は元々3月のFOMC会合では英国のEU離脱や米中貿易戦争の交渉期限などのイベントが多いことから、仮に今後の経済指標が強くても追加利上げを見送ると考えていた。FRBは経済指標の動向に加え、追加利上げが資本市場に及ぼす影響に配慮しながらの金融政策運営を与儀なくされるとみられる。FRBの追加利上げのハードルはこれまで以上に上がったと言えよう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • (雇用の最大化と物価の安定の政策)目標の達成を支援するために、委員会はFF金利の目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した(政策金利の据え置きを反映)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は、FF金利の目標レンジのいくらかの更なる漸進的な引き上げが、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、中期的に委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率、と整合すると判断している(今回削除)
  • 世界経済・金融情勢、抑制されたインフレ圧力の観点から、これらの結果を支援するのに適切となる将来のFF金利の目標レンジ調整を委員会は忍耐強く判断する(今回追加)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化目標と対称的な2%物価目標に照らして判断する(今回削除)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調なペースで拡大した(経済活動について「力強い」”strong”から「堅調な」”solid“に表現変更)
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は強く、失業率は低位に留まった(変更なし)
  • 家計消費は引き続き力強く成長した一方、民間設備投資の伸びは昨年前半にみられた急速な伸びからは緩やかになった(民間設備投資について、「年前半」”earlier in the year”から「昨年前半」”earlier last year”に表現変更)
  • 前年比でみた総合および食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は、2%近辺に留まっている(変更なし)
  • 市場が織り込む物価見通しはこの数ヵ月低下したものの、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(市場が織り込む物価見通しに関する表現を追加)
 
(景気見通し)
  • 委員会は、経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしていると判断している(今回削除)
  • 委員会は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%で対照的な委員会の目標近辺でのインフレ率の推移、が最も蓋然性の高い結果であると引き続き判断している(今回追加)
  • しかしながら、世界経済および金融の動向を引き続きモニターし、経済見通しへの影響を評価する(今回削除)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 非常に堅調であった18年からは低下も、19年の米国経済は堅調な成長が持続する見込み。ただし、過去数ヵ月にこの見通しに反する兆候がみられた。中国、欧州などの成長鈍化、ブレグジットや、米国の一部政府閉鎖の影響など内外の政治的不透明感が高まったこと、金融環境が18年後半に顕著に引き締ったこと、企業や消費者センチメントが幾分悪化したことは懸念材料。
    • FOMCは、過去数ヵ月の状況から、将来の政策変更について忍耐強く、様子見することが妥当であると判断した。この変化は基本的な経済見通しの変更から生じたものではない。ただし、これらの懸念材料は、経済見通しに対してあまり良くないリスクであることを示している。
    • さらに、政策金利の引き上げを正当化する理由が幾分弱まった。伝統的な利上げの正当化は、政策金利を長期間低位に維持することでインフレが昂進することを防いで、経済を守ることである。過去数ヵ月、これらのリスクは後退している。物価指標は弱まっており、最近の原油価格の下落は、インフレ総合指数が今後数ヵ間は低位に留まることを示している。
    • 過去3回の会合でバランスシートの正常化を議論した。委員会は、バランスシート政策に関する声明で、FF金利がアクティブな金融政策調節手段であること、バランスシート政策はアクティブな手段ではなく、一時的な手段であること、FF金利政策が十分でない状況が生じた場合にバランスシートを含む全ての金融政策手段を使う準備がある、ことを確認した。
    • バランスシートの最終的な残高水準は、金融機関の準備預金額が流動性確保の必要性もあって、従前より高水準となっているほか、FRBがバッファーを確保するために、これまで想定されたより高くなる。このため、バランスシート縮小の終了時期は前倒しになる可能性。
 
  • 主な質疑応答
    • (金融政策スタンスは依然として緩和的であるかとの質問に対して)現在の政策が妥当と判断している、現在の政策金利水準は中立金利のレンジ内である。
    • (次の金融政策の方向性について)データ次第である。個人的には追加利上げを判断する上での重要な部分はインフレだろう。
    • (金融政策判断を据え置く期間について)後知恵でしか分からない。
    • (通商政策の影響)企業は通商政策の動向を懸念している。通商交渉の長期化は企業センチメントを悪化させる。米中貿易戦争に関連する現在の関税の水準ではGDPへの影響は限定的。
    • (バランスシートの縮小スピードの見直し、ポートフォリオの構成について)現状では決まっていない。ただし、今後早いタイミングで結論を出す。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年01月31日「経済・金融フラッシュ」)

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