2019年01月07日

【12月米雇用統計】雇用者数は前月比+31.2万人と市場予想(+18.4万人)を上回ったほか、過去数値も上方修正

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:失業率は市場予想に反して上昇も、雇用者数は予想を大幅に上回る伸び

1月4日、米国労働省(BLS)は12月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+31.2万人の増加1(前月改定値:+17.6万人)と、+15.5万人から上方修正された前月改定値、市場予想の+18.4万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:3.7%、市場予想:3.7%)と、こちらは前月から横這いとの予想に反し、前月から+0.2%ポイント上昇した(後掲図表6参照)。労働参加率2は63.1%(前月:62.9%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用増加ペースが加速し、労働市場の順調な回復の持続を示唆

12月の非農業部門雇用増加数が、市場予想を大幅に上回ったほか、後述するように過去2ヵ月分の数値が上方修正された結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは25.4万人増となった。これは、18年通年の同22.0万人増、17年通年の同18.2万人増を大幅に上回っており、雇用者数の連続増加期間が統計開始以来最長となる99ヶ月となる中で驚異的な増加ペースとなっている。

一方、家計調査では失業率が+0.2%ポイント上昇したものの、労働参加率の改善にみられるように、職探しを始めて労働市場に再参入する人数の増加によるものであり、労働需給の悪化を意味しない。むしろ、賃金上昇など雇用環境の改善を反映した結果だろう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 実際、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月値:+0.2%、市場予想:+0.3%)と、前月、市場予想を上回ったほか、前年同月比が+3.2%(前月:+3.1%、市場予想:+3.0%)と、こちらも前月、市場予想を上回っており、賃金上昇の加速が続いている(図表1)。

このようにみると、12月の結果は、失業率こそ、上昇したものの、力強い雇用の増加や賃金上昇率の加速など、労働市場の順調な回復が持続し、労働需給が逼迫していることを示したと言えよう。

3.事業所調査の詳細:サービス、財生産部門ともに前月から雇用の伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+22.7万人(前月:+14.6万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比+2.4万人(前月:+2.9万人)と前月から小幅に伸びが鈍化したものの高水準を維持したほか、専門・ビジネスサービスも+4.3万人(前月:+4.4万人)と前月並みの伸びを維持した。また、医療サービスが+5.0万人(前月:+2.8万人)となったほか、娯楽・宿泊が+5.5万人(前月:+1.8万人)と前月から伸びが加速した。

一方、財生産部門も前月比+7.4万人(前月:+2.7万人)と前月から伸びが加速した。製造業が+3.2万人(前月:+2.7万人)と前月から伸びが加速したほか、建設業が+3.8万人(前月:横這い)と前月から大幅な増加となった。

政府部門は、前月比+1.1万人(前月:+0.3万人)とこちらも前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府では▲0.3万人(前月:+0.6万人)と前月から減少に転じたものの、州・地方政府が+1.4万人(前月:▲0.3万人)と前月から増加に転じ全体を押上げた。
前月(11月)と前々月(10月)の雇用増(改定値)は、前月が+17.6万人(改定前:+15.5万人)と+2.1万人上方修正されたほか、前々月も+27.4万人(改定前:+23.7万人)と、+3.7万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+5.8万人の上方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って1月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+27.1万人(前月改定値:+15.7万人、市場予想:+18.0万人)と、+17.9万人から下方修正された前月改定値、市場予想ともに大幅に上回った。ADP統計は雇用統計とは対照的に前月値が下方修正されたものの、12月に大幅な増加となったことは雇用統計と整合的な動きとなっており、両統計ともに12月の労働市場が順調に回復したことを示す結果であった。
 
12月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.48ドル(前月:27.37ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.4時間)と、こちらも前月から+0.1時間増加した。その結果、週当たり賃金は948.06ドル(前月:941.53ドル)と18年1月以来、10ヵ月ぶりの減少となった前月からは大幅な増加に転じた(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の増加に伴い、労働参加率は改善

家計調査のうち、12月の労働力人口は前月対比で+41.9万人(前月:+12.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳を見ると、就業者数が+14.2万人(前月:+22.1万人)と前月から伸びが鈍化したものの、失業者数が+27.6万人(前月:▲9.4万人)と前月から大幅な増加に転じ、労働力人口を押上げた。

一方、非労働力人口は▲23.7万人(前月:+6.5万人)と、前月から減少に転じており、職探しを再開し、労働市場に再参入した人数が増加したことを示した。

この結果、労働参加率は63.1%と前月から改善した(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も12月が82.3%(前月:82.2%)と、前月から+0.1%ポイント上昇した。男女別では、男性が89.0%(前月:89.0%)と前月から横這いとなったものの、女性が75.9%(前月:75.6%)と前月から+0.3%ポイント上昇したことが大きい。

失業率は前月から上昇に転じたものの、労働力人口の増加を反映したものであり、必ずしも労働需給の悪化を意味しない(図表6)。

なお、今回の公表に併せ、季節調整係数の見直しに伴い14年1月以降の家計調査数値が改定された。この結果、18年では3月(4.1%→4.0%)、8月(3.9%→3.8%)、10月(3.7%→3.8%)で失業率が小幅に改定された。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、12月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、130.6万人(前月:125.9万人)と前月から+4.7万人増加した。また、平均失業期間も21.8週(前月:21.7週)と前月から僅かながら長期化した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.5%(前月:20.7%)と、こちらは前月から▲0.2%ポイント低下した(図表7)。
 
最後に、周辺労働力人口(155.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(465.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、12月は7.6%(前月:7.6%)と前月から横這いとなった(図表8)。また、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.7%ポイント(前月:3.9%ポイント)と、前月から▲0.2%ポイン縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年01月07日「経済・金融フラッシュ」)

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