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住宅資産を老後資金に-転居せずに老後資金の不足を補う新たな方法を考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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3――米国フィンテック企業の新たな方法

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6リバースモーゲージの場合、利息を払うだけで、契約期間中収益は発生しない。ここでは、「仮に他人に賃貸した場合に得られる金額の収入を受け取り、同額を消費している」もしくは「他人が保有する同程度の物件に住む場合に負担すべき支払いを免除されている」と解釈している。
契約内容によるが、元利一括返済型リバースモーゲージの借入限度額は不動産価格の50%程度である。つまり、契約時は最大1,000万円の資金を受け取ることが可能だ。これに対して、新しい方法で可能な資金調達額は200万円(不動産価格の10%)と少ない。
契約終了時の支払い金額は契約時に受け取った金額に依存するので、比較のため資金調達額はいずれの方法も200万円に統一する。
元利一括返済型リバースモーゲージの契約終了時支払い金額は借入金利によって決まる。借入金利は商品によって異なるが、現在の低金利下においても、おおよそ3%~4%である。借入金利が3%の場合でも支払額は270万円(元本200万円+利息70万円)に及ぶ。契約期間中に金利が上昇した場合、上昇幅によっては300万円を超える(図表6上段)。
新しい方法の契約終了時支払い金額は、契約終了時の不動産価格によって決まる。不動産価格が3,000万円まで上昇すると460万円も支払う必要があるが、不動産価格が契約時と等しければ260万円7支払えばよい。不動産価格が下落すれば、受け取った金額を下回ることすらある(図表6下段)。

7 新しい手法では、契約時に定めた基準価格と契約終了時の不動産価格の差でキャピタル損益を求める。基準価格は、契約時の不動産価格に市場環境に応じて変化する係数(最低80%)を乗じた値である。今回は係数が85%であると仮定し試算しているが、係数は不動産価格に対する将来見通しが楽観的であるほど高く、金利水準が高いほど低くなると考えられる。
4――高齢層の救世主ではなく、資産形成層の救世主である
だからといって、新たな方法には評価すべき点も新規性もないわけではない。所有する不動産価格が下落するほど契約終了時に支払う金額が減少するので、各世帯の資産全体で見れば不動産価格変動リスクを低減させる機能を持つ。住宅資産を保有する平均的な世帯において資産に占める不動産の割合は高いので、不動産価格変動リスクの低減手段として機能する新しい手法には意義がある。資産形成においてリスクをとることは重要だが、リスクを分散することも重要だ。リバースモーゲージの場合は、調達した資金で有価証券へ投資することが禁じられるが、新しい手法では投資も認められる。このため、調達した資金を株式等に投資しリスク分散を図ることでより効率的な資産形成を図ることも可能だ。新しい方法は相続財産の不動産価格変動リスクを抑制したい高齢者にとっても魅力ある商品ではあるが、資産形成層である働く若い世代が利用するほうがメリットは大きい。
以上から言えることは3つある。まず、所有する住宅資産を活用した老後資金の確保に期待が集まるが過度な期待は禁物であり、やはり若いうちから資産形成を心がけるべきだ。次に、老後資金の不足に悩む高齢者の救世主にはならなくても、日本にも不動産価格変動リスク抑制手段として、米国の例のような新しい方法が提供されることが望ましい。最後に、老後の生活資金に不安を解消する手段として投資は重要だ。しかしながら、大多数を占める充分な資金を用意できずに年齢を重ねた世帯を、投資だけで救うことは難しい。人生100年時代とはいえ、全員が100歳まで生きるわけではないのだから、長生きリスクをシェアする年金商品を活用すれば必要貯蓄額は減るはずだ。退職後の高齢者世帯だけでなく資産形成の時間が残り少ない世帯の中にも、老後資金として2,500万円準備することが難しい世帯もあるだろう。投資一辺倒ではなく、老後資金の準備状況に照らした適切な金融商品選択が重要となるのではないだろうか。
8 リバースモーゲージの場合、通常キャピタル損益は共に相続人に帰属する。しかし、不動産価格が下落した場合、ノンリコース型や相続人が相続を放棄するとキャピタル損は債権者に帰属する。資金提供者の立場から見ると、不動産価格下落によるデメリットを負う可能性があるのに、不動産価格が上昇しても将来受取れる金額が一切上昇しないリバースモーゲージより、不動産価格下落によるデメリットを負うが、不動産価格上昇した場合将来受け取れる金額が上昇する新しい方法の方が、多少住宅資産を活用した老後資金の確保の実現可能性は高まるが限界がある。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年02月12日「基礎研レポート」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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