2019年02月05日

2018年末に生じた長期金利の低下要因について-フォワードガイダンス導入時の政策変更に関する効果測定

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   福本 勇樹

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1――フォワードガイダンス導入時の政策変更を考慮に入れた日本国債金利(10年物)の分析

2018年7月末に日本銀行がフォワードガイダンスを導入して、当分の間きわめて低い金利水準を維持するとしたが、その際に経済・物価情勢等に応じて金利の上下の変動をある程度許容する政策変更なども加えられた。フォワードガイダンス導入以前はYCC(イールドカーブ・コントロール)の下で0%近辺を推移していた日本国債利回り(10年)は、政策変更により一時0.15%を超える水準まで上昇したが、2018年の年末より0%近辺を再び推移している。

本稿では、YCC導入時に日本銀行により公開された線形回帰モデル1を参考にして、物価安定の目標、YCCとフォワードガイダンスの政策効果を考慮に入れた金利モデルの構築を行い、各金融政策の効果測定を試みた。2007年11月から2019年1月までの月末データを用いて、日本国債金利(10年物)について重回帰分析を行うと以下のようになった。
日本国債金利(10年物)についての重回帰分析
:日本国債金利(10年物、%)(財務省)
:米国債金利(10年物、%)(FRS)
:実質GDP成長率予想(IMF WEOおける今後5年間予想の平均値、%)
:期待インフレ率(インフレスワップ市場における日本のブレークイーブンインフレ率:5年後5年間の平均値)(%)(Bloomberg)
:全体に占める日本銀行の国債保有割合(残存1年以上、%)(日本銀行、財務省)
:2016年9月末以降なら1、それ以外のときは0とするダミー変数(YCC&オーバーシュート型コミットメントダミー)
:2018年7月末以降なら1、それ以外のときは0とするダミー変数(フォワードガイダンスダミー)
:2013年1月末以降なら1、それ以外のときは0とするダミー変数(物価安定の目標ダミー)
:2014年4月末以降なら1、それ以外のときは0とするダミー変数2
:2016年1月末以降なら1、それ以外のときは0とするダミー変数(マイナス金利政策ダミー)
注)補正R2は0.981、***は1%有意、**は5%有意、*は10%有意であることを示す
図表1:ダミー変数の設定(矢印の期間において1とする)
第1項は定数項である。第2項は米国債金利(10年物、%)との連動性を示すものである。債券市場のグローバル化に伴い、世界的な連動性が見られており、ここでは代表的な指標として米国債金利を採用している。YCC導入までは、米国債金利(10年物)が1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.248%上昇することを意味している。また、YCC導入後は、米国債金利(10年物)が1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.058%(= 0.248%-0.190%)上昇することを意味している。YCCの導入により、日本国債金利(10年物)と米国債金利(10年物)との間の連動性が低下していることが分かる。フォワードガイダンス導入後については、米国債金利(10年物)が1%上昇すると日本国債金利(10年物)が0.112%(= 0.248%-0.190%+0.054%)上昇することを意味している。つまり、フォワードガイダンスの導入時に金利の上下の変動をある程度許容する政策変更も加えられたことで、日本国債金利(10年物)と米国債金利(10年物)の連動性が僅かであるが回復していることが分かる。ただし、フォワードガイダンス導入後の係数が有意ではない点には注意が必要である。

第3項は、日本のマクロ経済に関する代表的な指標として実質GDP成長率予想()を採用しており、係数は正であることが予想される。YCC導入までは、実質GDP成長率予想が1%上昇すると日本国債金利(10年物)は0.017%上昇することを意味している。また、YCC導入後は、実質GDP成長率予想が1%上昇すると日本国債金利(10年物)は0.447%(= 0.017%+0.430%)上昇することを意味している。よって、YCC導入後は、日本国債金利(10年物)に対する実質GDP成長率予想の寄与度が高まったものと解釈できる。フォワードガイダンス導入後は、実質GDP成長率予想が1%上昇すると日本国債金利(10年物)は0.627%(= 0.017%+0.430%+0.180%)上昇することを意味している。フォワードガイダンスの導入時に「経済・物価情勢等に応じて」金利の上下の変動をある程度許容する政策変更も行われたことで、実質GDP成長率予想の寄与度がさらに高まったものと考えられる。ただし、実質GDP成長率予想の係数が全期間において有意でない点については注意が必要である。

第4項は物価安定の目標の導入効果を示すものである。2013年1月以降の物価目標である2%と期待インフレ率()との差で、金利と金融政策の時間軸との関係について分析することを目的としている。係数がマイナスのとき、2%と期待インフレ率との差が大きくなれば大きくなるほど金利に対して押し下げ効果が働くことを意味している。YCCと同時にオーバーシュート型コミットメントが導入されるまでは、2%と期待インフレ率の差が1%広がると日本国債金利(10年物)が0.110%低下し、導入後は0.197%(= 0.110%+0.087%)低下することを示している。つまり、YCCとオーバーシュート型コミットメント導入によって、日本国債金利(10年物)に対する連動性が強まったと解釈できる。フォワードガイダンス導入後は、2%と期待インフレ率の差が1%広がると日本国債金利(10年物)が0.353%(= 0.110%+0.087%+0.156%)低下することを意味しており、日本国債金利(10年物)に対する連動性がさらに強まったと解釈できる。この点について、実質GDP成長率予想の場合と同様に、物価安定の目標に関する時間軸効果ついても、フォワードガイダンスの導入時に「経済・物価情勢等に応じて」金利の上下の変動をある程度許容する政策変更も行われたことで、期待インフレ率との連動性が強まったものと考えられる。ただし、YCC導入以降、係数が有意ではない点には注意が必要である。

第5項と第6項は、日本銀行による国債買入が日本国債金利(10年物)に与える影響を見ることを目的としている。日本銀行の全体に占める国債保有割合()が1%上昇すると2014年3月までは日本国債金利(10年物)が0.041%低下し、2014年4月以降は0.009%(= 0.041%-0.032%)低下することを意味している。

第7項と第8項と第9項は、2016年1月末以降のマイナス金利政策の導入の効果を見るためのものであり、マイナス金利政策時に日本国債金利(10年物)が0.175%下方シフトし、YCCの導入時に0.354%上方シフトし、フォワードガイダンス導入時に0.105%上方シフトしたことを意味している。ただし、YCC導入時とフォワードガイダンス導入時のシフト幅について有意でない点には注意が必要である。
 
1 「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】」(P.48)のモデルで、本稿の記法を用いると、次式のようになる。日本銀行のモデルでは、実質GDP成長率予想にコンセンサス・フォーキャストを使用しており、係数に差異が生じている。なお、**は5%有意であることを示す。

2 「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】」の中で、「2014年入り後に1単あたりの国債買入れ効果が減少したと考えれば、統計的に良好な結果が得られることが分かった」とあり、本稿でもその結果を踏襲している。
 

2――各金融政策による日本国債金利(10年物)に対する押し下げ効果の測定

2――各金融政策による日本国債金利(10年物)に対する押し下げ効果の測定

2007年11月以降のデータを用いて、上記のモデル設定に基づいて各金融政策が長期金利に与えた影響について計測すると(図表2)、「日銀のバランスシートの拡大」()によって0.68%の押し下げ効果、「物価安定の目標」の導入()で0.21%の押し下げ効果3、「マイナス金利政策」の導入()で0.18%の押し下げ効果、「YCCとオーバーシュート型コミットメント」の導入()で0.07%の押し下げ効果があったことになる。
図表2:本稿のモデルを用いた長期金利に対する各金融政策の効果の推移
一方で、「フォワードガイダンス」導入時()に0.05%の押し上げ効果があった。この結果から、「フォワードガイダンス」導入時の各種政策変更は、僅かではあるものの、金融引き締めの方向に作用していると解釈できる。フォワードガイダンスを導入して「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」としたものの、「経済・物価情勢等に応じて金利が上下にある程度変動しうる」政策や「マイナス金利政策における政策金利残高の平均水準を減少させる」措置も組み合わされたことで、若干ではあるものの金利上昇方向に寄与した可能性が考えられる。
 
3 「物価安定の目標」の導入効果に関して、本モデルにおいて「YCCとオーバーシュート型コミットメント」導入時()や「フォワードガイダンス」導入時()に係数が変化している点ついては、後者の各政策導入による効果に含められていることに注意されたい。
 

3――2018年末以降の日本国債金利(10年物)の低下要因

3――2018年末以降の日本国債金利(10年物)の低下要因

上記のモデルに基づいて、2018年末に生じた金利低下の要因について分析してみたい。2018年11月末と2019年1月末の日本国債金利(10年物)の金利水準を比較すると、0.091%低下している。この期間において、米国債金利(10年物)が0.38%低下し(日本国債金利(10年物)の0.043%の低下に寄与)、期待インフレ率が0.12%低下(日本国債金利(10年物)の0.042%の低下に寄与)しており、これらの要因でおおよそ説明がつくことになる。

つまり、米国債金利(10年物)の低下と連動したこと、フォワードガイダンスの導入後に日本国債金利(10年物)と期待インフレ率の連動性が高まっている中で期待インフレ率が低下して「物価安定の目標に関する時間軸効果」が働いたことが、2018年末より生じた主な日本国債金利(10年物)の低下要因といえるだろう。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

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(2019年02月05日「基礎研レター」)

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