2018年12月10日

【11月米雇用統計】雇用者数は前月比+15.5万人と、前月(+23.7万人)、市場予想(+19.8万人)を下回り、雇用増加ペースは鈍化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を下回るも、失業率は前月、市場予想に一致

12月7日、米国労働省(BLS)は11月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+15.5万人の増加1(前月改定値:+23.7万人)と、+25.0万人から下方修正された前月改定値、市場予想の+19.8万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.7%、市場予想:3.7%)と、こちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.9%(前月:62.9%)と、前月から横這いとなった(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用増加ペースは鈍化も、労働市場の回復持続は持続

11月の非農業部門雇用増加数が、9月に続き20万人を下回った結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは17.0万人増と、6月~8月の3ヵ月平均(同22.0万人増)から大幅な鈍化となった。一方、年初からの平均は20.6万人増と、20万人超のペースを維持した。

雇用者数が10年10月から統計開始以来最長となる98ヶ月連続で増加する中、11月の鈍化が、景気がピークアウトしたことによる採用抑制の動きなのか、労働力不足によるものか、来月以降の統計で見極める必要があるだろう。

また、家計調査は失業率、労働参加率が前月から横這いとなり、労働需給の逼迫状態が持続していることを示したものの、後述するようにプライムエイジの労働参加率が低下したほか、広義の失業率は上昇しており、家計調査の改善は足踏みと言えよう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比では+0.2%(前月改定値:+0.1%、市場予想:+0.3%)と、+0.2%から下方修正された前月改定値を上回った一方、市場予想は下回った。前年同月比では、+3.1%(前月:+3.1%、市場予想:+3.1%)と、こちらは前月、市場予想に一致し、09年4月(同+3.4%)以来の伸びを維持した(図表1)。

このようにみると、11月の結果は、雇用増加ベースが鈍化したほか、家計調査の改善が足踏みとなるなど、冴えない結果となったが、雇用統計以外の雇用関連指標などと併せて判断すると、依然として労働市場の回復は持続していると判断できよう。このため、今月下旬のFOMC会合での追加利上げ決定に今回の雇用統計の結果は影響しないだろう。

3.事業所調査の詳細:サービス、財生産部門ともに雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+13.2万人(前月:+19.8万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比+1.8万人(前月:▲0.7万人)と前月から増加に転じたほか、医療サービスが+3.2万人(前月:+3.3万人)と前月並みの伸びを維持した。

一方、専門・ビジネスサービスが前月比+3.2万人(前月:+5.8万人)となったほか、娯楽・宿泊業が+1.5万人(前月:+5.6万人)と、前月から伸びが鈍化した。

また、財生産部門は前月比+2.9万人(前月:+5.3万人)と、こちらも前月から伸びが鈍化した。製造業が+2.7万人(前月:+2.6万人)と前月並みの伸びを維持した一方、建設業では+0.5万人(前月:+2.4万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は、前月比▲0.6万人(前月:▲1.4万人)とマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続の減少となった。内訳をみると、連邦政府が+0.3万人(前月:+0.2万人)と前月並みの伸びを維持した一方、州・地方政府が▲0.9万人(前月:▲1.6万人)と前月に続き減少した。
前月(10月)と前々月(9月)の雇用増(改定値)は、前月が+23.7万人(改定前:+25.0万人)と▲1.3万人下方修正された一方、前々月は+11.9万人(改定前:+11.8万人)と、こちらは+0.1万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲1.2万人の下方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って12月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+17.9万人(前月改定値:+22.5万人、市場予想:+19.5万人)と、+22.7万人から下方修正された前月改定値、市場予想ともに下回った。一方、ADP統計の過去3ヵ月月間平均増加数は20.4万人増とその前3ヵ月の平均18.4万人増を上回っており、雇用統計のような鈍化はみられていない。
 
11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.35ドル(前月:27.29ドル)となり、前月から+6セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から▲0.1時間の減少となった。その結果、週当たり賃金は940.84ドル(前月:941.51ドル)と18年1月以来、10ヵ月ぶりに前月から減少した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:全体の労働参加率は横這いもプライムエイジのみでは低下

家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で+13.3万人(前月:+71.1万人)と2ヵ月連続で増加したものの、前月から伸びが鈍化した。内訳を見ると、就業者数が+23.3万人(前月:+60.0万人)と前月から伸びが鈍化したほか、失業者数が▲10.0万人(前月:+11.1万人)と前月から減少に転じた。一方、非労働力人口は+0.6万人(前月:▲48.7万人)と、僅かながら前月から増加に転じた。

この結果、労働参加率は62.9%と前月から横這いとなった(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は11月が82.2%(前月:82.3%)と、こちらは前月から▲0.1%ポイント低下した。男女別では、男性が89.0%(前月:89.0%)と前月から横這いとなったものの、女性が75.6%(前月:75.8%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。

なお、失業率は前月から横這いとなったものの、小数第2位までとると11月が3.67%(前月:3.74%)と▲0.07%ポイント低下となった(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、125.3万人(前月:137.3万人)と前月から▲12万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも21.7%(前月:22.5%)となったほか、平均失業期間も20.8週(前月:22.5週)と、いずれも前月から改善した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(167.8万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(480.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、11月は7.6%(前月:7.4%)と前月から+0.2%ポイントの増加となった(図表8)。

また、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差も3.9%ポイント(前月:3.7%ポイント)と、前月から+0.2%ポイン拡大小しており、家計調査の改善は足踏みとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年12月10日「経済・金融フラッシュ」)

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