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- 中小の小売店におけるキャッシュレス化のポイント
2018年12月07日
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事業者サイドから見たキャッシュレス化のメリット*として、消費者の購買履歴データを分析することでマーケティングを高度化できること、現金取扱にかかる人件費の効率化と人手不足対策、従業員による現金紛失や盗難等のトラブルの解消、インバウンド(訪日外国人)需要を取り込めることなどが挙げられる。特に大手の流通・小売業者では、無人レジなどの業務効率化によって、人件費削減だけではなく人手不足対策も目的とした実験店舗に関する話題が増えている。
しかしながら、特に中小の小売店においてキャッシュレス化を阻んでいる理由としてしばしば指摘されているのが「キャッシュレス決済にはコストがかかる」という問題である。例えば、一般的なクレジットカード決済のインフラを導入する場合、決済端末費用として10万円程度、決済手数料として2~8%のコストがかかり、カード会社からの入金に15日~30日を要する。キャッシュレス決済手段も多種多様化しており、キャッシュレス決済の従業員教育にも時間がかかる。
その一方で、現金決済であればこれらのコストは必要なく、コンバージョンサイクル(仕入れから販売に伴う現金回収までにかかる日数)も短期化して資金効率が高まるというメリットがある。それゆえ、大手の流通・小売業者とは異なり、現金の取扱いにかかる人件費をビッグデータ分析によるマーケティングの高度化の費用に充てるよりも、キャッシュレス決済の導入にかかる端末費用や決済手数料を負担せずに、人件費をかけて現金決済で対応することで資金効率を高めた方が、中小の小売店にとってメリットが大きかったものと考えられる。特に、薄利多売のビジネスや生鮮食品を取り扱うような飲食店の場合、現金決済で対応するインセンティブが極めて高い。
しかしながら、特に中小の小売店においてキャッシュレス化を阻んでいる理由としてしばしば指摘されているのが「キャッシュレス決済にはコストがかかる」という問題である。例えば、一般的なクレジットカード決済のインフラを導入する場合、決済端末費用として10万円程度、決済手数料として2~8%のコストがかかり、カード会社からの入金に15日~30日を要する。キャッシュレス決済手段も多種多様化しており、キャッシュレス決済の従業員教育にも時間がかかる。
その一方で、現金決済であればこれらのコストは必要なく、コンバージョンサイクル(仕入れから販売に伴う現金回収までにかかる日数)も短期化して資金効率が高まるというメリットがある。それゆえ、大手の流通・小売業者とは異なり、現金の取扱いにかかる人件費をビッグデータ分析によるマーケティングの高度化の費用に充てるよりも、キャッシュレス決済の導入にかかる端末費用や決済手数料を負担せずに、人件費をかけて現金決済で対応することで資金効率を高めた方が、中小の小売店にとってメリットが大きかったものと考えられる。特に、薄利多売のビジネスや生鮮食品を取り扱うような飲食店の場合、現金決済で対応するインセンティブが極めて高い。
海外と比較して日本のキャッシュレス化が進展していない主な理由として、事業者サイドに十分にキャッシュレス決済のインフラが整っていないためだと政府は考えているようである。その対策として、キャッシュレス決済を導入する事業者に補助金を供与し、中小の小売店には決済額に応じた時限的な税制優遇などを検討しているとの報道もある。
決済サービス事業者もキャッシュレス決済のコスト削減に繋がるような解決策を提供し始めている。特にQRコードを用いたモバイル決済は、これまでボトルネックだったキャッシュレス決済のコストの逓減策として期待が寄せられている。QRコード決済では端末の導入費用が他のキャッシュレス決済手段と比べて安価になるが、それに加えて、決済サービス事業者の中には決済手数料を数年間0%で提供することで決済ビジネスの拡大を企図しているところも出てきている。
金融機関においても加盟店向けのサービスの充実化が見られる。すでにいくつかの金融機関においてスマホ決済アプリや地域通貨のサービスを展開しているが、今後も、端末の導入費用無償での提供や資金繰り負担の大幅な軽減を企図したサービスの開始を予定しているところがある。
決済サービス事業者もキャッシュレス決済のコスト削減に繋がるような解決策を提供し始めている。特にQRコードを用いたモバイル決済は、これまでボトルネックだったキャッシュレス決済のコストの逓減策として期待が寄せられている。QRコード決済では端末の導入費用が他のキャッシュレス決済手段と比べて安価になるが、それに加えて、決済サービス事業者の中には決済手数料を数年間0%で提供することで決済ビジネスの拡大を企図しているところも出てきている。
金融機関においても加盟店向けのサービスの充実化が見られる。すでにいくつかの金融機関においてスマホ決済アプリや地域通貨のサービスを展開しているが、今後も、端末の導入費用無償での提供や資金繰り負担の大幅な軽減を企図したサービスの開始を予定しているところがある。
決済手段間の競争が高まることで、このようなキャッシュレス決済のコストを逓減し、資金効率も高まるような加盟店向けサービスが広く普及していけば、中小の小売店においても人件費削減や人手不足対策を意図したキャッシュレス化を進めるインセンティブが高まることになり、インバウンド需要への対応も含めて、今まで以上に顧客対応に時間を充てることもできる。さらに、クレジットカード等にかかる支払手数料に対しても低下圧力がかかるかもしれない。
人件費削減や人手不足の解消といったメリットを直接的に享受できる金融機関や大手の流通・小売業者を中心にキャッシュレス化を進展させていくものと予想している。政府によるポイント2%還元策は、中小の小売店だけではなく、大手流通・小売業者を巻き込んだ消費税還元セールも含めたポイント還元競争に発展する可能性もある。ただし、各事業者にとって長期的にメリットのある形で制度設計されなければ、一時的な導入に終わってしまい、特にメリットの少ない中小の小売店については最終的に現金決済へ回帰してしまう恐れも十分にありうる。
また、高齢者への対策も無視できない。一般的にクレジットカードの審査に通りにくい、モバイル決済にはITリテラシーが求められるなど、ハードルが高い側面もある。日本が高齢化社会にあることを考慮すると、解決策として日本のキャッシュレス化にはデビットカード・アプリや電子マネーのような「前払い式」の決済手段の普及が求められるが、現金決済への対応についても一定程度必要な環境が継続するのではないか。
*キャッシュレス化のメリットに関する議論ついては、「日本のキャッシュレス化について考える」(ニッセイ基礎研究所、2018年7月10日)なども参照されたい。
人件費削減や人手不足の解消といったメリットを直接的に享受できる金融機関や大手の流通・小売業者を中心にキャッシュレス化を進展させていくものと予想している。政府によるポイント2%還元策は、中小の小売店だけではなく、大手流通・小売業者を巻き込んだ消費税還元セールも含めたポイント還元競争に発展する可能性もある。ただし、各事業者にとって長期的にメリットのある形で制度設計されなければ、一時的な導入に終わってしまい、特にメリットの少ない中小の小売店については最終的に現金決済へ回帰してしまう恐れも十分にありうる。
また、高齢者への対策も無視できない。一般的にクレジットカードの審査に通りにくい、モバイル決済にはITリテラシーが求められるなど、ハードルが高い側面もある。日本が高齢化社会にあることを考慮すると、解決策として日本のキャッシュレス化にはデビットカード・アプリや電子マネーのような「前払い式」の決済手段の普及が求められるが、現金決済への対応についても一定程度必要な環境が継続するのではないか。
*キャッシュレス化のメリットに関する議論ついては、「日本のキャッシュレス化について考える」(ニッセイ基礎研究所、2018年7月10日)なども参照されたい。
(2018年12月07日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
福本 勇樹のレポート
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