- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 介護保険制度 >
- 診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフト
診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフト

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――診療時間外にかかる加算と、診療時間内にかかる加算がある
2 時間内に受付を済ませていれば、混み具合で実際の診察が時間外になったとしても、時間外加算はかからない
2――時間外、休日、深夜加算は子ども、夜間・早朝等加算は就労年代
厚生労働省による2016年度NDBオープンデータは、当該年度における国内すべての保険診療に関するレセプトの集計である3。このデータによると、外来の初診料・再診料の算定回数に対する各加算算定回数の割合は、夜間・早朝等加算で2.9%、次いで時間外加算4と休日加算がともに0.6%、深夜加算が0.1%となっていた。このうち、診療時間外の加算である時間外、休日、深夜分を合計すると、全初診・再診の1.3%を占めた。いずれの加算も、初診の方が算定されている割合が高く、初診で合計5.0%、再診で合計1.6%だった。再診時は診療時間内に行くことが増えるようだ。
年齢別にみると、休日加算、深夜加算、時間外加算の算定割合は、年齢が低いほど高い傾向があり、夜間・早朝等加算は就労年代で高い傾向がある(図表3)。
性別にみると、男性の夜間・早朝等加算が30~60歳代で、時間外、休日、深夜加算が10~40歳代で、それぞれ女性を上回っていた。

子どもは、大人と比べて急に体調を崩したり、自分の体調を表現できないこと等によって、診療時間外や休日にも受診が必要となることが多いと考えられる。
一方、夜間・早朝等加算は、軽症者の地域の診療所利用を促進するために導入されており、時間外等加算より割増分は小さい。軽症者も休日や夜間の診療を利用してしまうことで、急病人や重症者を受け入れる病院の医師等への負担が大きくなることを避けるためだ。
性・年代・地域の分布を踏まえると、サラリーマン等が仕事の時間を避けて、朝早くから、または夕方遅くまで開いている診療所を受診していると考えられる。
3 公費負担分、および紙レセプトについては集計の対象外となっている。
4 「時間外」には、「乳幼児夜間加算」「時間外特例加算」を含む
3――時間外、休日、深夜加算は減少傾向、夜間・早朝等加算は増加傾向

加算の種類別にみると、いずれの年代も、全受診のうち、時間外加算、休日加算、深夜加算が算定されている割合は低下傾向にあり、夜間・早朝等加算は増加していた。軽症者が地域の診療所を利用するようになっている可能性がある。
また、近年、各自治体では、「乳幼児医療費助成制度」を拡充しており、半数以上の自治体で15歳年度末まで医療費の自己負担分が無料、またはかなりの低額となっている。医療費の自己負担分がかからないことで、安易な時間外の受診が増える可能性があると懸念されているが、今回の比較では、子どもも他の年代層と同じように時間外、休日、深夜加算の算定割合が減少しており、夜間・早朝等加算が増加していた5(図表6)。
5 ただし、厚生労働省「患者調査」によると、子どもの外来受療率は上昇傾向にある。
4――診療時間外から夜間や早朝の診療時間内へシフト
の診療時間外の受診が減り、早朝や夜間の診療時間内の受診が、就労年代を中心に増えていた。厚生労働省「医療施設静態調査」によると、夕方遅くも開いている診療所が増加傾向にあり、外来の機能分化が進んでいるようだ。
医師等の負担について考えると、比較的施設数が多い、内科や外科よりも、施設が少なく夜間や休日の患者が多い、小児科等で問題とされることが多い。小児科の医療体制に関する厚生労働省の「子どもの医療費制度の在り方に関する検討会(2016年に報告書公表)」によれば、小児科医は増加しているが、小児科を持つ医療機関は減っているうえ、地域で偏りがちであり、小児医療体制が不十分な地域では、一部の医療機関で負担が重くなっているとされる。共働き世帯が増え、子どもの診療時間内に受診させられない世帯が増えている可能性がある。また、子どもを持つ人が減少していることで、子どもの健康状態の判断について相談できる友人が身近にいない等によって、医療機関を受診するしかない可能性もある。
医療費についてみると、2016年度の外来の時間外等加算(時間外、休日、夜間)による割増分は、初診・再診あわせると、およそ490億円だった6。外来の医療費が全部で14.4兆円7、初診・再診料(加算は除外)が全部で1.6兆円8であるため、その影響は小さくはない。このうちどの程度が、急病や、患者側で判断がつかない等、時間外に病院に相談したり、診療を受けるのが望ましいものなのかはわからない。しかし、図表3のとおり、就労年代の男性で、時間外、休日、深夜加算の算定割合が女性を上回っており、仕事の都合等による時間外診療もあると想像された。
子どもの健康状態に対して、電話による相談窓口を設置した結果、電話相談が増えて、救急搬送が減った事例がある9。こういった事例を踏まえ、近年、日常での「健康教室」や「小児救急電話相談(♯8000)」を各地で充実させる等、夜間や休日の診療をさらに減らすための政策が実施されている。
また、就労者も日中病院に行くことができれば、または子どもを病院に連れて行くことができれば、時間外受診の問題は多少解消できる。医療体制の整備による課題解決だけでなく、子育て支援や働き方改革の面でも課題解決を図っていく必要があるだろう。
6 第3回NDBデータより筆者計算
7 厚生労働省「国民医療費」より
8 第3回NDBデータより筆者計算
9 第3回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会資料(2016年1月)
(2018年11月29日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのか | 村松 容子 | 保険・年金フォーカス |
2025/03/28 | 就労世代の熱中症リスクと生活習慣~レセプトデータと健診データを使った分析 | 村松 容子 | 基礎研レポート |
2025/03/27 | 「早食いは太る」は本当か~食べる速さは、肥満リスクをどの程度予測できるか | 村松 容子 | 基礎研レポート |
2025/03/25 | ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表 | 村松 容子 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフト】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフトのレポート Topへ