2018年11月08日

【米中間選挙結果】事前の予想通り、下院で民主党が過半数を獲得。今後議会は機能不全状態となる可能性

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要

11月6日に米国で中間選挙が実施され、上院(100議席)のおよそ3分の1、下院(435議席)の全議席が改選された。11月8日(日本時間9時)時点で判明している結果は、概ね事前の予想通り、上院は共和党が51議席以上を確保し、過半数(51議席)を維持した一方、下院では民主党が223議席以上を獲得し、8年ぶりに過半数(218議席)を共和党から奪い返した(図表1、図表2)。このため、19年初からの116議会では上院と下院の多数党が異なる「ねじれ」議会となることが確定した。

なお、州知事選挙については、今回改選された36州のうち、ジョージア州では僅差となり結果が判明していないものの、その他の州では、共和党が改選26州のうち、勝利した州が19州に留まっており、民主党に7州で敗北した。このため、中間選挙は上院では共和党が議席数を伸ばす一方、下院と州知事選では議席数を減らす結果となった。
(図表1)上院政党別議席数(過半数51)/(図表2)下院政党別議席数(過半数218)
一方、トランプ大統領が中間選挙を自身の信任投票と位置付け、自身が積極的に遊説活動を行ったことや、民主党を中心に女性候補者の増加や、有名芸能人が若者に投票を呼びかけたこともあって、中間選挙の投票率(United States Elections Project推計)は、48.1%と大統領選挙が行われた16年(同60.1%)を下回ったものの、前回14年の中間選挙(同36.7%)を大幅に上回っており、中間選挙に対する有権者の関心が高かったことが分かる。

2.結果の評価

トランプ大統領が率いる与党共和党は、連邦議会では上院で勝利、下院で敗北と結果が分かれたが、もともと上院では改選35議席のうち、民主党が26議席と多くなっていたことを考慮すると、州知事選の結果と併せて、同大統領が自身の信任投票と位置づけた中間選挙で有権者がトランプ大統領の2年間の政権運営に対して信任を与えたとは言い難い。

一方、新議会が「ねじれ」議会となったことで、トランプ大統領が目指す経済政策の実現は相当程度困難になったとみられる。米国連邦議会では、法案を成立させるためには両院で法案を通過させる必要がある。「ねじれ」では両党の利害対立から、上下両院で法案を通過させることが非常に困難となるほか、その調整の場となる両院協議会もあまり機能しないことが見込まれる。実際、今回の中間選挙結果はオバマ前大統領が迎えた最初の中間選挙で、下院を共和党に奪われたのと状況が似ているが、「ねじれ」議会となった112議会では法案成立数が284本に留まり、90年代半ば以降の各議会期(2年間)における法案成立数400~500本程度を大幅に下回ったほか、法案成立率も2%と最低水準となった。このため、同議会は「最も生産性の低い議会」と非難されていた。

新議会でトランプ大統領は、政策実現のために民主党の意向を一定程度反映させる必要があるが、インフラ投資などの一部の政策を除いて同大統領が民主党と妥協して政策を遂行する可能性は低く、寧ろ20年の大統領選挙での再選を目指し、民主党との対立姿勢を強める可能性が高いと判断される。今後、トランプ大統領が野党民主党と対立姿勢を強める場合には、112議会でみられたように議会が機能不全となろう。また、最悪なケースとして機能不全となった議会を迂回し、トランプ大統領が自身の権限で実行できる安全保障や通商政策などで極端な政策を実施する可能性も否定できない。

3.今後の注目点

当面は、12月7日を期限とする暫定予算の扱いに注目される。19年度予算審議ではトランプ大統領が求める「国境の壁」建設予算の計上額を巡って移民政策の動向も絡んで与野党で折り合うことが困難となっていたために、中間選挙後に審議を先送りにしていた。下院で民主党が勝利したために、来年からの新議会での審議も睨んで安易に妥協する可能性は低下した。このため、暫定予算の期限切れまでに審議がまとまらず、期限切れで一部政府閉鎖が発生する可能性が高まったと言えよう。

また、来年3月には新規の国債発行額を縛る法定債務上限を定めた法律の期限が到来するため、新議会にはその対応が求められる。債務上限問題の対応を誤ると最悪の場合には米国債のデフォルトが発生することから注目される。

一方、既にトランプ大統領からセッションズ司法長官の事実上の更迭が発表されたが、上院で共和党が過半数を維持したことで、同大統領は閣僚人事で一定程度フリーハンドを得ているため、閣僚人事の交代を積極的に進めることが見込まれ、今後の政策を占う新しい人事が注目される。

さらに、上院で共和党が過半数を確保しており、民主党が弾劾に必要な議席数を確保することは難しいことから、トランプ大統領の弾劾の可能性は低い。しかしながら、中間選挙が終了したことでロシア疑惑を巡るモラー特別検察官の報告書が発表されることが予定されており、報告書の内容次第では、トランプ大統領の政治資本の一層の毀損を狙って下院でトランプ大統領の弾劾裁判が開始されるか注目される。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年11月08日「経済・金融フラッシュ」)

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