2018年11月07日

エスカレートする米中貿易戦争-世界経済に漂う暗雲

基礎研REPORT(冊子版)11月号

経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー   櫨(はじ) 浩一

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1―予想を上回る速度

米中間の貿易不均衡を巡る対立は予想をはるかに上回る速度でエスカレートした。米中の対立が世界貿易の縮小に繋がれば、世界中の国々が大きな影響を受けることは避けられない。
 
米国は今年3月下旬に、中国だけでなく日本も含めた国々からの鉄鋼とアルミに対する追加関税措置を発動した。中国に対してはさらに知的財産権の侵害を理由として500億ドルにのぼる輸入品に対して高関税を課す制裁措置を発表し、中国は鉄鋼輸入制限に対する報復関税を発動して反発を示した。米国が中国による知的財産権侵害に対する制裁関税の対象品目の原案を発表すると、中国はこれに対する報復を表明したものの、5月に入ると米中は貿易協議を開始し、追加関税措置を留保することで合意してエスカレートは回避されたかに見えた。
 
しかし、6月半ばになるとトランプ大統領は知的財産権侵害に対する制裁関税を発動すると発表し、事態は急速に深刻化していく。米国は7月には340億ドル分の中国製品に25%の制裁関税を課し、これに対して中国はただちに同規模の米国産大豆や牛肉などに追加関税を課す対抗措置を発動、8月下旬には米中両国が160億ドル相当の輸入品に追加関税を発動した。
 
9月に入ってからも米国が2000億ドル相当の中国製品に10%の制裁関税を発動すると、中国も600億ドル相当の米国製品に5~10%の報復関税を実施して、両国とも一歩も引かない姿勢を示している。

2―米国通商政策の歴史

米国の通商政策で関税は、歳入の確保、輸入制限による産業保護、相互主義実現の手段という3つの目的に使われてきた。南北戦争ころまでは関税が連邦政府歳入の9割をまかなっていたが、その後関税は輸入品との競争から国内産業を守る手段として使われるようになり、1934年の互恵通商協定法で交渉の担い手である政府に通商政策の主導権が移り、米国の関税引き下げと交換に貿易相手国の関税引き下げを求める手段となった。
 
第二次世界大戦後は米国主導で多国間の協調の下で貿易を拡大によって世界経済を発展させ平和的な国際関係を築こうとしたが、2000年代になると米国内では失業問題や製造業の雇用の縮小から輸入制限を求める要求が高まっていた*。
 
トランプ大統領が輸入品への高関税の賦課という手段に訴えていることは、世界経済のリーダーとして自国の利益を犠牲にして世界全体のために振舞う余裕を失った米国が、企業の売り上げや雇用の維持という自国の利益のために米国市場へのアクセスを交渉材料に使っていると理解できるだろう。

3―対応を迫られる日本

日本は原油を輸入に依存しているので、産油国との貿易収支は大幅な赤字になってしまうというように、二国間の貿易で収支が大幅な不均衡になることは避けられないというのは常識だ。しかし世界全体に対して大幅な貿易赤字となっている米国が、手っ取り早く赤字を減らす手段として、二国間で大幅赤字となっている国々との収支を改善しようと考えるのは当然予想される行動だ。
 
2017年の米国の国別貿易収支を見ると、対中国の貿易赤字は3752億ドルにのぼり、第二位である対メキシコ貿易の赤字711億ドルの5倍以上と突出している。米中の貿易摩擦が非常に激しいものとなっていることは、これからみれば当然のことだが、対日貿易も対メキシコ貿易とほぼ同額の688億ドルの赤字となっており、日本も赤字の縮小を強く迫られている。
 
9月末の日米首脳会談では、農産物などの関税を含む二国間の物品貿易協定の交渉に入ることで合意し、ひとまず自動車に対する追加関税は回避できたが、再燃するのは時間の問題だ。いずれ赤字削減の眼に見える成果を求められることになるのは必至である。
 
日本は、米中間の貿易戦争の間接的な影響を受けるというだけではなく、日本自身も米国の大幅な貿易赤字縮小のターゲットとして、実効性のある対応策を示さなくてはならなくなるだろう。
 
* Douglas A. Irwin, “Clashing overCommerce: A History of US Trade Policy",University of Chicago Press(2017)
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経済研究部   専務理事 エグゼクティブ・フェロー

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

(2018年11月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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