2018年10月09日

EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-カバード・アグリーメント署名後のNAICにおける検討状況-

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4―NAICの6月21日の公開草案とそれに対するコメントの概要

1|NAICの再保険モデル改正案(621日公開草案)の概要
改正案の主な内容は、日本損害保険協会による資料「EU・米国カバード・アグリーメント締結を受けた 全米保険長官会議(NAIC)による再保険担保の撤廃に向けた検討について」1によれば、以下の通りである。

・新たに、相互管轄区域(Reciprocal Jurisdiction:RJ)という区分を設け、RJに所在しかつ一定の要件(最低資本・ソルベンシー要件、報告要件、再保険金の迅速な支払いの励行等)を満たす再保険者(assuming reinsurer)への出再にcredit(出再効果)を認める(つまり、再保険担保撤廃を認める)。

・(1)米国と条約又は国際合意(カバード・アグリーメント等を想定)を結んだ非米国管轄区域及び(2)一定の追加要件(米国の再保険者に対し担保要件、拠点設置要件を設けないこと、米国本拠の保険グループはQJのグループ監督には服さないこと等)を満たしたQJがRJに該当する。
NAICに寄せられたコメントの概要
州規制当局はNAICの6月21日の公開草案に対しては、8月初めにNAICのボストンで開催された夏季全国大会までに、規制当局、業界団体、保険/再保険会社及びその他の利害関係者から、公開草案に関して18のコメント・レターが提出された。なお、今回の一連のNAICの検討プロセスにおいては、日本損害保険協会もコメントを提出しており6、「積極的に再保険担保撤廃・減額を訴えている」。

寄せられたコメントの内容については、米国の法律事務所のCarlton Fields社による記事7に基づくと、以下の通りとなっている。

全体的に、書面によるコメントには、モデル改定版に対する重要な反対は含まれていなかったが、概念上及び詳細な用語レベルでの公開草案の変更、さらにはカバード・アグリーメントの実施における統一性やEUとEU以外の再保険者との間の同等取扱いに対する要望のような、いくつかの建設的な提案が含まれていた、とのことである。

書面によるコメントの主なテーマは次の通りであった。
1.一貫性の欲求
最も多いコメントは、カバード・アグリーメントの実施における一貫性の欲求であり、この原則は、次の3つのトピックで表現されていた。

(1)モデル法の優位性 
いくつかのコメンテーターは、州毎の実質的な差異を最小限に抑えつつ、全体的な要件が均一である可能性を高めるために、モデル規則ではなくモデル法にかなりの実質的要件が含まれるべきであると示唆した。

(2)規制裁量
いくつかのコメンテーターは、個々の州の保険監督官にモデルのカスタマイズやその他の変更を行う裁量を留保するのが通例であるが、このような個々の裁量は、取扱の一貫性が重要な目標である状況においては望ましくないと提案した。とりわけ、コメントは、各州のコミッショナーの裁量が、州が相互の管轄区域としての資格を得るための追加の要件や、非EUの再保険業者の特定の要件を決定する裁量を課すことを呼びかけた。

(3)認定再保険者
あるコメンテーターは、認定再保険者のステータスの将来の使用と、その概念と新しい相互管轄権概念との間の潜在的な相互作用に、暗黙の疑問を呈した。この領域に統一性がない場合、そのような相違は、より広い再保険市場に重大な影響を及ぼす可能性がある。

2.同等の扱い
米国に所在する再保険会社を含むEU及び非EU在住の再保険業者に対して同等の扱いが必要であるとの懸念が表明された。いくつかの意見提出者は、現行の公開草案が、異なる住所を持つ再保険業者のための異なる取扱を可能にすると示唆した。あるコメンテーターは、特定のNAIC認定要件を満たす米国の州を相互の管轄区域として認めるよう提案した。

3.ソルベンシー(Solvency
公開草案は、再建又は清算手続の対象となる再保険業者に関する追加的な担保問題に対処するために、州のコミッショナーに権限を与えている。適用可能であれば、州のコミッショナーの代わりに適切な再建又は破産手続の裁判所によってそのような検討が行なわれるべきであるとの数々の意見が示唆された。

4.発効日
いくつかのコメンテーターは、改定モデルの発効日の規定における曖昧さ、及びモデル改定の有効日を、カバード・アグリーメントの再保険担保条項の発効日と調整する願望を述べた。

とりわけ特定の管轄区域を相互の管轄区域とみなすための要件を決定する際に、改定されたモデルの実施における個々の州のコミッショナーの裁量を許可するかどうかとその範囲が焦点となる。モデル法とモデル規則の実施において個々の州コミッショナーの裁量権を与えることは、州に基づく保険規則制度が所与のものとした場合に、慣習的であるが、必要でないならば、カバード・アグリーメントの履行及びより広範な市場における再保険活動の規制において、より厳格な整合性に対する強い要望があるようにみえる。これらのやや競合する利害がどのように解決されるかが興味深いテーマとなっている、としている。
3|NAICの検討状況と今後の検討スケジュール
NAICの再保険タスクフォースは、8月の会議において、限定された口頭発表を聞き、モデル公開草案を次のステップに移行させた。

この会議のサマリーによると、9月中旬に改定草案が公開されて、さらなるコメント期間を経て、11月のNAICの秋季全国大会で最終的に検討される予定となっていた。

これを受けて、再保険タスクフォースは、9月25日に改定草案8を公開し、パブリックコメントの期間を10月16日までとしている。

NAICの検討プロセスについては、今年初めに述べられたNAICの予想通りに、順調に進んでいるようであり、現行のモデル改正案に対しては、先に述べたように基本的には大きな反対意見が見られないことから、スケジュール通りに最終決着することが期待されているようである。  

5―まとめ

5―まとめ

以上、NAICにおける再保険担保規制の撤廃等の改正に関する最近の検討状況について報告してきた。

EUは、2018年4月4日に、理事会での決議を経て、今回の米国との合意の内容が正式に発効したことを公表している。協定のいくつかの条項については、2017年9月に署名されて以来、暫定的に適用されてきている。協定は署名後60ヶ月間に適用され、今後はEUと米国の合同委員会がその実施状況を監視していくことになる。

今後は、11月のNAICの秋季全国大会におけるモデルの最終改正案の内容に加えて、それを踏まえた各州保険監督当局の対応やEU及びEU以外の各国の保険会社の対応等が気になるところである。

さらには、今回のレポートでは、再保険規制の見直しに関する動きについてのみ述べてきたが、カバード・アグリーメントは米国におけるグループ資本規制の策定についても触れている。これについても現在NAICが検討を進めているところである。

今後は、これらの動向について、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年10月09日「保険・年金フォーカス」)

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