2018年09月10日

米国経済の見通し-減税、拡張的な財政政策などから当面は堅調見通しも、通商政策や中間選挙動向が不安要因

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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2.実体経済の動向

(労働市場)労働市場の回復が持続。労働需給の逼迫から賃金上昇率が加速
非農業部門雇用者数(対前月増減)は、10年10月から18年8月まで統計開始以来最長となる95ヵ月連続の増加となっているほか、18年の月間平均増加数が20.7万人と、好調とされる20万人を上回る堅調な増加ペースを維持している。また、失業率も3.9%と00年4月以来18年ぶりの水準に低下しており、労働市場は順調に回復している(図表6)。また、先行きについても、大企業、中小企業ともに採用意欲が依然として強いため、労働市場の回復は持続が見込まれる(図表7)。
(図表6)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表7)大企業、中小企業の採用計画
(図表8)賃金上昇率および労働参加率(25-54歳) 一方、賃金上昇率についても、時間当たり賃金(前年同月比)が8月は+2.9%と09年6月以来の水準に加速してきた(図表8)。これまで雇用者数や失業率などに比べて、賃金の回復が遅れていたが、漸く回復に拍車がかかる可能性を示唆していると言えよう。

建設業界や製造業などで労働力不足が深刻化しているほか、働き盛りでプライムエイジと呼ばれる25-54歳の労働参加率も15年後半以降は上昇基調が明確となるなど、労働需給は逼迫している(図表8)。このため、労働需給の逼迫を反映して賃金上昇率はさらに加速することが見込まれる。
(設備投資)17年以降、堅調な伸びが持続。法人税制改革などを追い風に好調を持続する見込み
民間設備投資は、17年初から堅調な伸びが持続しているが、とくに18年入り後は伸びが加速している(図表9)。また、設備投資の先行指標である国防、航空除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、18年7月が年率+11.5%と2桁の伸びとなっており、7-9月期も民間設備投資は堅調な伸びを維持しているとみられる。

さらに、全米製造業協会(NAM)による調査では、製造業企業の18年4-6月期の景況感指数が63.8と97年の統計以来最高となったほか、今後1年間の設備投資計画(前年比)も+4.1%と統計開始以来最高となるなど、設備投資意欲が非常に強いことが示されている(図表10)。

同調査では製造業者が、トランプ大統領が実現した税制改革法に伴う法人税率の引き下げや、設備投資に対する税制優遇措置、規制緩和を高く評価し、設備投資意欲が強まっていることが示されている。もっとも、NAMはトランプ政権の通商政策について、中国の知的財産権侵害に対する対応を評価しているものの、制裁措置として関税手段を活用することについては効果的ではないと明確に反対の立場を表明している。このため、追加関税を多用する保護主義的な通商政策が良好な製造業の景況感や設備投資計画に悪影響を及ぼす可能性が懸念される。
(図表9)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表10)製造業センチメント、設備投資計画(NAM調査)
(住宅投資)住宅価格や住宅ローン金利上昇が回復に水を差す可能性
GDPにおける住宅投資は、好調な民間設備投資とは対照的に、17年以降の6四半期中4四半期でマイナス成長となるなど、停滞が続いている(図表11)。また、住宅着工件数や先行指標である着工許可件数の伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、18年7月が▲22.3%、▲15.5%と、いずれも2桁の落ち込みとなっていることから、7-9月期の住宅投資も弱い可能性を示唆している。

一方、住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数は、足元で130台と依然として所得が住宅ローン返済額を3割程度上回っているものの、13年以降低下基調が持続しており、とくに18年に入ってからは低下スピードが加速している(図表12)。これは、住宅価格が上昇していることに加え、住宅ローン金利の上昇が住宅ローン返済額を増加させている影響が大きいと考えられる。

住宅価格や住宅ローン金利は今後も上昇が見込まれるため、住宅取得能力の低下基調は持続する可能性が高い。雇用不安の後退などを背景に住宅需要は強いとみられるものの、住宅取得能力の低下にみられるように、購入可能な住宅の減少が住宅市場の回復に与える影響が注目される。
(図表11)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表12)住宅取得能力指数
(政府支出、債務残高)19年度歳出法案審議が佳境。来年以降は中間選挙結果が左右
今後10年間で1.5兆ドル規模の減税が実現したことに加え、2018年超党派予算法で18年度(17年10月~18年9月)と19年度(18年10月~19年9月)の裁量的経費の上限が2年間の合計で0.3兆ドル引き上げられたことから、財政政策は18年と19年の成長率を+0.6~+0.8%ポイント押上げることが見込まれている。

一方、19年度予算の編成作業は前述の超党派予算法によって予算の大枠は決まっているものの、具体的に資金配分を決める歳出法案は成立しておらず、10月からの新年度開始を直前に控えて政治的な駆け引きが激しくなっている。

議会共和党は通常12本に分かれる歳出法案のうち、移民政策などで審議が難航しそうな「商務・司法・科学・その他関係機関」、「国土安全保障」、「国務・外交活動・その他関係機関」の3本については、中間選挙後まで暫定予算で凌ぐ一方、「国防」などを含む残り9本については3本の包括歳出法案にまとめて今月中の成立を目指している。これに対し、トランプ大統領は議会が見込んでいない「国境の壁」建設のための予算230億ドルを盛り込むことを要求しており、歳出法案に署名しないことで10月からの政府機関の一部閉鎖も辞さない姿勢を示しているため、政府閉鎖のリスクが燻っている。

一方、来年以降の財政政策を占う上で中間選挙の結果が注目される。トランプ大統領は現在25年末までの暫定措置となっている個人向け減税措置の恒久化を目指す税制改革第2弾や、今後10年間で1.5兆ドルのインフラ投資の実現を目指している。仮に、中間選挙で野党民主党が上下院のどちらかでも過半数を確保する場合には、民主党が反対する政策の実現はこれまで以上に困難になる。とくに、民主党は個人向け減税を富裕層優遇であると批判していることから、減税の恒久化などは軌道修正を与儀なくされよう。
(図表13)債務残高見通し また、中間選挙結果に係わらず米国の財政拡大余地は乏しくなっている。議会予算局(CBO)による連邦債務残高(GDP比)見通しは、減税や歳出拡大の影響もあって、17年度の77%から28年度には96%に増加することが見込まれている(図表13)。

さらに、裁量的経費の歳出上限の引き上げ継続や、税制改革第2弾を実施する場合には、さらに105%への悪化が見込まれている。

このため、なんらかの財源を確保しない限り、トランプ大統領が目指す財政政策は、債務残高抑制の面からも軌道修正を余儀なくされよう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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