2018年09月10日

米国経済の見通し-減税、拡張的な財政政策などから当面は堅調見通しも、通商政策や中間選挙動向が不安要因

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)4‐6月期の成長率は、個人消費、外需の好調などに伴い前期から伸びが加速
米国の4-6月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+4.2%(前期:+2.2%)と前期から伸びが大幅に加速したほか、14年7-9月期(+4.9%)以来の高さとなった(図表1、図表4)。

需要項目別では、在庫投資の成長率寄与度が▲1.0%ポイント(前期:+0.3%ポイント)と大幅なマイナス寄与となったほか、住宅投資が前期比年率▲1.6%(前期:▲3.4%)と2期連続でマイナス成長となった。

しかしながら、民間設備投資が前期比年率+8.5%(前期:+11.5%)と高い伸びを維持したほか、政府支出も+2.3%(前期:+1.5%)と前期から伸びが加速した。さらに、成長率が前期から加速した要因としては、個人消費が+3.8%(前期:+0.5%)と不振であった前期から回復したことに加え、外需の成長率寄与度が+1.2%ポイント(前期:横這い)と大幅な成長押上げとなったことが大きい。もっとも、外需は米国産大豆輸出が中国からの制裁関税実施前に駆け込みで増加した面が大きく、成長押上げは一時的とみられる。
(図表2)個人消費支出・可処分所得および貯蓄率 一方、個人消費は所得から税負担などを除いた実質可処分所得(前期比年率)が、18年前半の平均が+3.5%と17年平均の+2.8%から伸びが加速しており、消費に追い風となっている(図表2)。労働需給の逼迫を背景に賃金が上昇しているほか、今年実現した減税の効果とみられ、今後も可処分所得は堅調な伸びを維持しそうだ。

また、先月発表されたGDP統計の包括改定に伴い、過去の所得水準が上方修正された結果、18年1-3月期の貯蓄率は、改定前の3.3%から7.2%に大幅に引き上げられた。このため、所得対比でみた消費余力は、当初想定されていたより高く、消費の腰は強いとみられる。
(図表3)消費者センチメントおよび米株価指数 さらに、雇用不安の後退や堅調な株価を背景に消費者センチメントが高い水準を維持していることも、消費に追い風である。カンファレンスボードの消費者信頼感指数は18年8月が133.4と00年10月以来の水準に増加したほか、ミシガン大学の指数も、足元でやや頭打ちがみられるものの、高水準を維持している(図表3)。

一方、米中貿易戦争の激化に伴い、7月以降、中国からの輸入品500億ドルに対して既に25%の追加関税が賦課されているが、9月内にはさらに2,000億ドルに対して25%の関税賦課がされる可能性が高くなっている。既実施の500億ドルでは、関税対象品が資本財や中間財が9割超と高くなっていたのに対して、今後実施見込みの2,000億ドルでは、家具や旅行用品などの消費財が2割超のシェアになっており、既実施分に比べて金額の増加と併せて、個人消費への影響が大きくなるとみられる。

もっとも、米小売業の業界団体である全米小売業協会(NRF)は家具や旅行用品の追加関税に伴う米消費者の負担増加額は60億ドルと試算しており、現状では4.3兆ドルの財消費全体の0.1%強に留まる程度とみられている。
(経済見通し)成長率は18年+2.9%、19年+2.8%を予想
米国では、引き続き消費を取り巻く環境が良好であるため、予測期間の19年末にかけても個人消費主導の景気回復が持続すると予想される。

また、民間設備投資についても、法人税制改革に伴う法人税率の引き下げや、設備投資に対する税優遇、規制緩和などにより設備投資意欲が強いことから、今後も堅調な伸びを維持するとみられる。

一方、住宅投資は、雇用不安の後退などを背景に住宅需要は強いものの、住宅価格、住宅ローン金利の上昇に伴い購入可能な住宅が減少していることもあって、回復はもたつこう。

政府支出は、18年から実施されている減税に加え、18~19年度予算では歳出拡大が見込まれていることから、19年にかけて成長率を押上げるとみられる。ただし、19年度の歳出法案審議次第では、10月以降に政府機関の一部閉鎖リスクがあるほか、11月の中間選挙の結果次第では財政政策の軌道修正を余儀なくされるため、注目される。

最後に、外需は今後の通商政策動向が不透明なことから、予想は難しくなっているものの、7-9月期に前期の反動で成長率寄与度が大幅なマイナスに転じることが見込まれるほか、米内需の好調から19年にかけてもマイナス寄与が持続すると予想される。

これらの見通しを踏まえ、当研究所は中間選挙後も米国内政治の混乱や、経済政策の大幅な軌道修正が無い前提で、成長率(前年比)を18年が+2.9%、19年が+2.8%と予想する(図表4)。
(図表4)米国経済の見通し
物価は、原油価格が足元の60ドル台後半から19年末に72ドルまで上昇して物価を押上げることや、労働需給のタイト化に伴う賃金上昇などから、消費者物価(前年比)は18年が+2.5%、19年が+2.2%と、17年の+2.1%からの加速を予想する。
 
金融政策は、労働市場の回復持続、インフレ加速から19年にかけて政策金利の引き上げ継続を見込む。当研究所は、9月のFOMC会合で政策金利が引き上げられた後、18年は合計4回、19年は合計2回の利上げを予想する。
 
最後に長期金利は、政策金利の引き上げ継続に加え、財政状況の悪化に伴う期間プレミアムの上昇などから18年末に3.3%、19年末に3.6%までの上昇を予想する。
 
上記見通しに対するリスクは、関税を中心とする保護主義的な通商政策と米国内政治が挙げられる。通商政策については、中国の知的財産権侵害に対する輸入制裁措置として通商法301条に基づく対中制裁措置が強化されている。既に中国からの輸入額のおよそ半分に当る2,500億ドル相当に追加関税の方針が示されているほか、トランプ大統領はさらに関税対象を上乗せする方針も示唆しており、米中貿易戦争の落し所はみえない。

さらに、早ければ今月にも発表される輸入自動車に対する追加関税に関する調査報告書の内容次第では、輸入額全体の12%を占める自動車・自動車部品に大幅な追加関税が賦課される可能性があり、その場合は実体経済への影響は大きくなる。現状では通商政策の変更に伴う実体経済への影響は限定的と考えているが、通商政策に対する不透明感の高まりが、消費者や企業センチメントの悪化を通じて実体経済に影響することが懸念される。
(図表5)大統領および政党支持率 一方、米国内政治では11月6日に予定されている中間選挙が注目される。中間選挙では上院のおよそ3分の1、下院の全議席が改選される。トランプ大統領の醜聞や不規則発言が続いているにも係わらず、同大統領の支持率は依然として4割台を維持している(図表5)。とくに、共和党支持者の間では8割以上の支持を得ているようだ。

また、全国レベルでみた政党支持率は民主党が共和党を上回る状況が続いているものの、選挙に向けて民主党の優位性が強まっている状況とは言えない。

もっとも、各種報道によれば中間選挙の議席予想では、上院では与党共和党が過半数を維持するとみられているものの、下院では野党民主党が過半数を取るとの予想が増えてきている。

仮に、民主党が下院で過半数を獲得すれば、議会で民主党の影響力が拡大することから、トランプ大統領の政策遂行能力は著しく低下する可能性がある。

さらに、トランプ大統領の弾劾裁判が開始される場合には、同大統領の政治資本が益々毀損するほか、世間の目を弾劾裁判から逸らすために、通商政策や安全保障政策で極端な政策を打ち出す可能性があり、実体経済への影響が懸念される。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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