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- 2019年度概算要求-新・財政健全化計画下でのはじめての予算編成に向けて
1――2019年度の概算要求は過去最高の102.8兆円に~新・財政健全化計画下でのはじめての予算編成に向けて
今回の概算要求は、今年の6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針)」で示された新・財政健全化計画下で初めての要求だ。19年度の予算編成は、今後の財政健全化に向けたメルクマールとなるという意味で注目だ。財務省の発言力の低下や、歳出圧力が高まっている中、過去最高の要求額を年末に向けてどう絞り込んでいくのか。骨太方針で明示された消費増税に対する経済対策(駆け込みと反動減の平準化策)がどのような内容になるのかに関心が集まる。
2――予算の約3分の1を占める社会保障費の増加は続く~増加抑制に対する数値目標が削除された影響は
昨年度までの3年間(2016~18年度)は旧・財政健全化計画における集中改革期間であり、「歳出改革の目安」という形で、当初予算にかけて年間5,000億円増にとどめる数値目標が存在した。一方の新・財政健全化計画では、その増加抑制のための数値目標は削除され、「高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる」との表現に変わった。昨年度までと同様に5,000億円増に圧縮するにはそれなりに歳出削減努力が必要となるが、それでも甘いという意見もある。2019年度は社会保障費の自然増の見込みは6,000億円。2016~18年度の自然増の平均が6,500億円であった中、年間の伸びを5,000億円に抑えた実績を踏まえれば、本来であればより切り込まなければならないという見方もあり、年末に向けてどの程度圧縮できるかに注目が集まる。また、2020、2021年度は75歳以上の人口の増加数が一時的に急減する(図表3)。年間5,000億円増という数値目標が削除された中、今後は歳出抑制に向けてより踏み込んだ議論が必要になってくるだろう。
1 財務省「日本の財政関係資料 平成30年3月」
2 厚生労働省のほか、他府省が計上する社会保障に関係する予算も含めた数値。ただし、高齢化などに伴う自然増の大部分は厚生労働省の予算に計上されている
3――防衛関係費は7年連続増加の見込み
今年の6月12日に史上初の米朝首脳会談が行われ、北朝鮮の非核化が進むことが期待されたが、米国と北朝鮮の温度差は大きく、今のところ具体的な解決策は見えていない。不安定な状況が続く中、政府としても引き続き防衛を強化していく必要があると認識している。
また、米政府と直接契約して取得する有償軍事援助(FMS)の新規契約高の増加も続く。23年度に2基の導入を目指す陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入費用として2,352億円を計上。1 機150億円前後の最新鋭ステルス戦闘機「F35A」の取得も続いている。
年末に2019年度からの5年間の防衛関係費の目安を示す中期防衛力整備計画(中期防)が策定される。政府は現在の目安よりも大幅に増やしたい思惑があると見られる。確かに日本のGDPに対する防衛関係費の割合は先進国の中では最低水準だ。しかし、ぎりぎりのところで社会保障費を削ろうとしている中で、国民の納得感の無い不透明な歳出増加は受け入れられない。米国との交渉力を強化するとともに、安全保障に本当に必要な費用かを見極める等、歳出抑制に向けた姿勢が問われている。
3 ただし、SACO関係経費、米軍再編関係経費のうち地元負担軽減分及び新たな政府専用機導入に伴う経費を除いた防衛関係費は、当初予算から3,538億円(7.2%)増の52,926億円。SACOはSpecial Action Committee on Okinawa(沖縄に関する特別行動委員会)の略で、沖縄に所在する米軍施設・区域にかかわる諸課題に関し協議することを目的として、平成7年、日米両国政府によって設置された。
4――国債費は3年ぶりに増加に転じる
しかし、2016年9月に日銀が長短金利操作の導入決定以降、長期金利は低位安定している。金利の下げ止まりを迎えたことで、2019年度の利払費の減少幅は1,630億円(2018年度の減少幅は9,609億円)に縮小し、国債費の増加に繋がった。
また、日銀は今年の7月の金融政策決定会合で長期金利の変動幅を2倍(±0.1%→±0.2%)程度まで認める決定をし、その前後で長期金利は急上昇した。10年国債の足元の金利は約0.1%で推移しており、2017年の平均である0.05%の倍の水準となっている(図表5)。今のところ金利上昇はそれほど大きくなく影響も限定的だが、今後日銀が利上げに踏み切るなど、金利がさらに上昇した場合には、膨大な国債費を払わなければいけなくなる可能性も考えられ、金融政策や金利動向には留意が必要だ。
5――年末の予算策定に向けてのポイント~消費増税の景気対策と歳出圧力をいかに抑えるか
一方で今年は6月の骨太方針で示された消費増税に対する経済対策(駆け込みと反動減の平準化策)の内容も詰めていかなければならない。2014年に消費税を5%→8%へ上げた際に、駆け込み需要、そしてその反動減が予想以上に長期化してしまったことに対する反省を踏まえ、アベノミクス景気が腰折れしないようにするための対策だ。その景気対策費は2019年度、2020年度の当初予算に計上するが、今回の概算要求には入っておらず、当初予算策定時に上乗せする。2019年度の補正予算では2019年10月実施予定の消費増税に間に合わないため、急ぎ具体策を考えなければならない。対策の実効性が検証されないまま大型予算編成を許すことにもなりかねない。
日銀の試算4では、今回の消費増税による家計への実質的な負担は2.2兆円であり、前回の2014年の増税時の8.0兆円と比較し大きくない。上げ幅が2%(前回は3%)と小さいことに加え、既に軽減税率などの対策や教育無償化による負担減があるためだ。但し、軽減税率の財源が見つかっていないこと、教育無償化の対象は子育て世帯に限られていることなどの問題点は残る。いずれにしても消費増税を通じた実質所得の低下による消費減少は避けられない。必要以上の景気対策は悪影響を先延ばしにし、財政赤字を拡大させる恐れがある。
また、景気対策にかかる歳出は、例年の当初予算の基準とは別枠で上乗せすることが出来る。経済対策という名目で景気対策には関連がない予算が計上され、財政規律が緩む懸念もある。
上記の景気対策に加え、歳出圧力が高まっていることにも注意が必要だ。
1点目は、国土強靭化対策だ。6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、そして9月の台風21号、北海道胆振東部地震と災害が続いている。石破氏は総裁選の公約で防災省の創設を掲げている。安倍首相続投の場合も、国民の防災に関する関心の高まりを背景に、2019年の参院選のアピール材料として国土強靭化を謳う可能性は高い。国土強靭化への予算を投資と捉え、財政規律の枠外に位置づけるべきとの提言もあり、そうなった場合、歳出額は一層大規模になることも考えられる。
2点目は、税収が過去最高水準に達しており、更なる歳出拡大を招く恐れがあることだ。7月4日に公表された2017年度の一般会計税収は昨年末の見込みから1.1兆円上振れし58.8兆円となっている。所得税、消費税、法人税の基幹3税がいずれも前年度を上回った。2018年度の税収は更に伸び、過去最高の1990年の60.1兆円を超える可能性も出てきた。安倍首相は「経済成長なくして財政再建なし」と、成長重視の色合いを強めてきた。今後税収がバブル期を越し最大になるなどの実績が伴ってくれば、世間がその考えに一層傾き、歳出の拡大に繋がる恐れもある。
4 日本銀行「経済・物価情勢の展望 2018 年 4 月」
6――おわりに
今回の予算編成は、新・財政健全化計画下での第1回目。これを基準に次年度以降の予算が組まれていく。一度歳出を増やしてしまうと、その分野を削ることは難しくなるだろう。今後の財政再建を占う意味で注目の今年の概算要求とその後の予算編成、これから進む財務省と各省庁の折衝に注視したい。
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清水 仁志
研究・専門分野
(2018年09月07日「基礎研レター」)
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