2018年08月13日

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年8月)-オフィス市況のピークアウトは2019年後半に後ずれ

  佐久間 誠

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1. 東京オフィス市況 後退するピークアウト懸念

ニッセイ基礎研究所では、東京オフィス市況は2018年のオフィスビルの大量供給により、ピークアウトに向かうと見ていた1 。三幸エステートの調査によると、2018年の東京都心部Aクラスビル2 の新規供給は約23万坪と、「2012年問題」とも言われた約18万坪を上回る見込みである。当時はAクラスビルの空室率が2011年3Qの5.0%から2012年4Qの9.2%に上昇しており、今回も同様に調整局面を迎えるとの見立てであった(図表-1)。

しかし、蓋を開けてみると、2018年に竣工するオフィスビルはすでに満室に近い状態となり、2019年に供給されるオフィスビルもリーシングが順調に進んでいる。新規供給ビルへの移転に伴い発生する二次空室も、企業の館内増床・拡張移転ニーズが高いため、現時点では顕在化していない。

オフィス需給が一向に緩む気配を見せていないため、オフィス市況が悪化するとの懸念も後退している。日経不動産マーケット情報の調査3 によると、空室率が上昇に転じる時期として2019年6月が市場コンセンサスとなっており、半年前の前回調査と比較して半年後ろ倒しとなった。市場関係者の注目は、2019年10月に予定される消費税増税や2020年の大量供給に移り始めている。
図表-1 東京都心部 A クラスビル新規供給見通しと空室率
 
1 佐久間誠「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年)-2018年~2024年のオフィス賃料・空室率」(2018.2.8)
2 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2018」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
3 山田雅子「アナリスト予測-新規供給ビルのリーシング好調、稼働率のピークアウトが再び遠のく」、『日経不動産マーケット情報』、2018年月7号、日経 BP 社
 

2. 想定以上のオフィス需要を背景に空室率の改善が続く

2. 想定以上のオフィス需要を背景に空室率の改善が続く

2018年のオフィスビルの大量供給にも係らず、東京オフィス市況が堅調に推移している理由は、オフィス需要が想定以上に強いためである。東京都心5区のオフィスビルの貸室面積の増減率と名目GDP成長率を比較すると、2013年以降は貸室面積が名目GDPに1年遅れて増減する傾向が見られる。つまり、経済成長が加速すると、その1年後にオフィス需要が顕在化する関係にあった。しかし、2017年後半から両者は徐々に乖離し、2018年は経済成長を上回るオフィス需要が生じていることがわかる(図表-2)。
図表-2 東京都心5区のオフィスビルの貸室面積と名目GDP
東京都心部のAクラスビルの空室率を見ると、2018年2Qは1.2%と、旺盛なオフィス需要を受けてファンドバブル期のボトムに迫る水準まで低下した。新規供給が限られるBクラスビル、Cクラスビルの需給逼迫感はさらに強く、Bクラスビルの空室率は0.9%、Cクラスビルは1.1%と過去最低まで低下した。築浅の大規模ビルでまとまった空室を確保しづらくなっており、品薄感が強まっている。(図表-3)。
図表-3 東京都心部の空室率
このようにオフィス需要が強い理由として、以下の3点が挙げられる。

1点目は、IT業を中心に企業のオフィス拡張意欲が強いことだ。象徴する事例の1つとして、米グーグル日本法人の移転が挙げられる。同法人は、2019年に六本木から渋谷ストリーム(2018年竣工)に移転する。貸室面積1.4万坪のオフィスフロアを一括賃借するが、人員増を見越して、現在の2倍以上の社員を収容できるスペースを借りるとのことだ。渋谷では、2018年から2019年にかけて6万坪強のオフィスビルの供給が予定されているが、大手IT企業がフロアを続々と押さえ、多くがすでに満室または満室に近い状況となっている。IT業にとって、オフィスは付加価値を生み出す工場である。そのため、製造業などと比較して、事業拡大に対するオフィス需要の感応度が高いと推測される。

2点目は、人材確保や働き方改革のために築古・中小ビルから好立地の築浅・大規模ビルへの移転ニーズが旺盛なことだ。2018年6月の有効求人倍率は1.62と、1974年以来の高水準となるなど、労働市場の逼迫感が強い。都心部のランドマークとなるオフィスビルに移転することで企業ステイタスを向上させるとともに、働きやすいオフィス作りを進めるなど、社員の定着率向上や採用強化を図る動きが広がっている。

3点目は、コワーキングスペースの新規参入が相次ぎ、オフィス需要の新たな担い手として台頭し始めている。米WeWor4が2018年2月に日本における事業展開を本格化し、現在、東京で6拠点を運営し、今年後半には横浜、大阪、福岡にも開業する予定だ。また大手デベロッパーでも三井不動産がコワーキングスペース事業「WORK STYLING」を2017年4月に開始し、すでに30を超える拠点を構えるなど、その注目度は高い。JLLの調査5によれば、東京では2017年に1.7万m2、2018年に3.3万m2のコワーキングスペースが開業し、賃借面積は合計6.3万m2となる。東京のオフィスストックと比較するとその規模は限られるが、2018年からの東京の賃貸市場のリーシングに占める割合は34%と大きい(2017年は3%)。コワーキングスペースの利用が拡大することで、コワーキングスペースを利用する代わりに、本社の賃借面積を縮小する動きも想定され、中長期的にはオフィス需要を下押しする可能性がある。一方、現在は、コワーキングスペースを追加スペースとして契約する企業が多いため、短期的には空室率を押下げる役割を果たしている。

これらの傾向は今後も続く可能性が高い。東京都による就業者数の予測によれば、東京都心5区における情報通信業の就業者数は、2015年の49.6万人から2020年には51.2万人、2025年には52.4万人と増加が続き、オフィス需要を下支えすることが期待される。また、底堅い景気回復が続くなか、若年人口の減少を背景に人手不足が解消する見込みは少ない。今後、日本の産業構造のデジタル化がさらに進み、本格的な少子高齢化社会を迎えるため、オフィス市場の構造が徐々に変化していく可能性がある。
 
4 WeWorkのビジネスモデルや不動産市場の影響については、佐久間誠「WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察」(2018.7.11)を参照されたい。
5 JLL「東京オフィス市場で拡大するコワーキングスペース」(2018.7.5)
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