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ラジアーの年功型賃金モデルから見る長澤運輸事件の最高裁判決

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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日本企業の賃金制度についてはラジアーがモデル化してその制度的特徴について言及している年功型賃金モデル1>によって説明できる。つまり、年功型賃金モデルを図表1を用いて説明すると、個人は雇用期間における勤続年金が短い時には、自分の企業に対する貢献度(限界生産性)より低い賃金(図表1のACEの部分)を受け取るが、ある年齢(図表1のE)が過ぎて勤続年数が長くなると自分の貢献度よりも高い賃金を受け取る(図表1のBDEの部分)ことになっている。そして、貢献度より少ない賃金を受け取った勤続期間の賃金総額と貢献度より高い賃金を受け取った勤続期間の賃金総額がちょうど同じ金額になったとき、定年(図表1のR)を迎えることになる。年功型賃金の下で労働者は定年以前に解雇されたり、会社を辞めてしまうと若い時に企業に預けておいたお金がもらえなくなるので、結果的には損をすることになる。だから、労働者は転職をせず、一つの企業で一生懸命に働いたのである。
筆者は、今回の最高裁の判決はラジアーの年功型賃金モデルを反映しているのではないかと思う。つまり、労働者側が要求した差別がない賃金は図表1のBであり、企業が実際に支払った賃金は図表1のDであり、今回最高裁はDの賃金を支払うことが不合理ではないと認めた。これは、定年後の再雇用による賃金は年功型賃金に該当するものではなく、その時の会社への貢献度(限界生産性)を基準にすべきだということを強調した判決であるだろう。
定年退職後に再雇用された高年齢者の立場から考えると、今回の最高裁の判決は彼らの働く意欲を低下させる要因になったかも知れない。従って、今後、政府は高年齢者の働く意欲を引き出す措置を行う必要がある。段階的な定年延長や定年廃止を推進することもその一策として考えられるだろう。
同時に、企業は今回の判決を人件費対策だけに利用せず、高齢者がより安心して働けるように公正に処遇水準などを定めるべきである。今後の政府や企業の対応に注目したい。
1 Edward P. Lazear(1979) Why Is There Mandatory Retirement? Journal of Political Economy Vol. 87, No. 6, Dec., 1979. pp. 1261-1284
(2018年07月09日「基礎研レター」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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