2018年06月01日

株価急変による関係先企業株価への影響-企業間ネットワーク構造を用いた分析

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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3波及効果はイベントの内容により異なる可能性がある
マイナスのイベントの場合、収益を上げる事が可能かもしれないが、累積超過収益率の平均値は、関係先企業でも-1.05%、間接企業に至っては-0.33%しかない。売買コストを考慮すると、やはり収益獲得機会はないようにも思える。しかし、今回の分析は、超過収益率の大きさのみを用いて機械的に判断している。しかし、波及効果がイベントの内容を人的に判断することで、売買コストを支払っても、十分な収益獲得機会がある可能性がある。そこで、関係先企業及び間接企業の累積超過収益率を事例別に平均を取り、その分布を確認する(図表5)。なお、これまでの分析とは異なり、イベント発生日の2営業日後から翌15営業日間の超過収益率を用いた。これは、売買に値するイベントか否か吟味する時間を、1日分確保するためだ。

 
図表5:マイナスのイベント発生後約3週間の累積超過収益率の分布
まず、累積超過収益率が-1.00%を下回るイベントの割合は、関係先企業が49%、間接企業が36%であり、関係先企業の場合、累積超過収益率が-5.00%を下回るイベントも少なくない(図表5)。また、累積超過収益率がプラスとなった事例のいくつかは、上場廃止の決定や整理銘柄指定期間中に行われるマネーゲームに起因する。一企業特定のイベントが関係先企業や間接企業の株価にまで波及する理由は、実際のビジネス上の関係があるからに他ならない。これに対して、マネーゲームは、実際のビジネスとは関係なく実施されるのだから、マネーゲームに起因するイベントの影響が、関係先企業や間接企業の株価にまで波及しないことは明らかだ。加えて、通常、上場廃止に至る前に、巨額な特別損失の計上や、業績見通しの大幅な下方修正といった上場廃止の引き金となるイベントがあることから、上場廃止の決定も、マネーゲームに起因するイベント同様、関係先企業や間接企業の株価に影響しない。通常、上場廃止の引き金となるイベントが発生した段階で、その情報が関係先企業や間接企業の株価に織り込まれると考えられるからだ。

先ほどプラスのイベントの波及効果は小さく、また長く続かないと記したが、これは全体的な話であって、プラスのイベントであっても、個別の内容次第で波及効果が大きく継続する可能性は否定できない。
 

4――最後に

4――最後に

今回は、多数の事例を用いて分析する事を重視し、機械的に抽出した事例を用いて、一企業特有のイベントによる影響が、関係先企業の株価、更には間接的に関係する企業の株価に波及する様子を確認した。その結果、株価がマイナスに変化したイベントでは、昨年の分析同様、イベントが発生した企業の関係先企業の株価だけでなく、間接的に関係する企業の株価にも影響が波及することと、株価が変化するタイミングに時間的な差が生じることを確認した。しかし、株価がプラスに変化したイベントでは、同様の傾向は確認できなかった。加えて、イベントの内容によって、波及効果が異なる可能性を確認した。
 
昨年の分析同様、特別損失の計上や増資等のイベントカテゴリー別に、波及効果を評価・分析する意味もある。しかし、例えば、業績見通しの下方修正といった同じカテゴリーの情報であっても、その前後のイベントや、業績見通しに対する楽観的か保守的かといった各企業の態度などによって、波及効果が異なると考えられる。仮に、企業間のネットワークに着目し、イベント発生企業との関係性が強い企業の株式を売買することで、収益を上げることを目指すならば、イベントカテゴリー別の波及効果の評価分析結果を待つよりも、大量なデータから機械的な抽出作業と、その抽出結果を利用した専門家による人的判断を組み合わせることが、現実的ではないだろうか。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2018年06月01日「基礎研レポート」)

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