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- 2022年問題の不動産市場への影響~生産緑地の宅地化で、地価は暴落しない~
2018年03月20日
4|宅地化農地を保有する理由から生産緑地が増える可能性もある
では、宅地化農地を保有するのは、宅地需要が低く転用したくても買い手が付かないといった理由からだけなのだろうか?
これについて、全国農業会議の調査によると、宅地化農地を生産緑地にしない理由として、「一部を自由にしたいから」が約63%、「30年の行為制限が厳しい」が約43%、「500㎡未満である」が約36%と、これらをあげる割合が高くなっている。(図表14)
「一部を自由にしたいから」というのは、生産緑地の行為制限に対し自由に土地利用したいという意味と、一部必要に応じていつでも自由に売却できるようにしておきたいという意味であろう。
転用できる農地を残しておくのは、何らかの資金需要に備えるものと考えられる。保有農地すべてを営農することが厳しくなった場合に、一部を転用して賃貸住宅経営などで収入源を得ることを考慮している場合もあるのではないか。
生産緑地に相続税納税猶予制度を適用している場合は、終身営農が義務付けられるため、営農が厳しい状況になったとしても辞めるわけにいかない。辞めれば猶予税額を支払わなければならないからだ。農業後継者が定まるまで何とか継続するためにも、保有農地の一部は転用が容易な宅地化農地にしておくといった事情もあるのだと思われる。
「30年の行為制限が厳しい」もあわせて、生産緑地制度が営農以外の行為を厳しく制限していることで、かえって宅地化農地の保有につながっている状況が読み取れる。相続税納税猶予制度の終身営農義務も含めて、生産緑地で営農することからくる不安が、宅地化農地をあえて市場に開放しないで保有しておく状況を生み出している。
「500㎡未満である」は、生産緑地の指定面積要件未満ということだが、この中にはいわゆる道連れ解除21のものも含まれていると思われる。しかし、これまで市区町村が買取るケースは限られてきたことを考えると、最初から生産緑地に指定できなかったものの、宅地化もせずに農地を継続してきたものが多いと考えられる。
こうした状況に対し、昨年の生産緑地法の一部改正により、行為制限や面積要件が緩和され、今後、都市農業の貸借円滑化法案が成立すれば、貸借した場合も相続税納税猶予制度が適用できるようになる。生産緑地で営農することの不安は大きく解消されるはずだ。
これによって宅地化農地の多くが転用されることになるだろうか?そうとも言えない。東京都の調査では、宅地化農地保有農家に対し、宅地化農地の今後の利用意向を聞いているが、全体の約45%が、「農地として維持したい」で、「宅地などへ転用したい」の約29%を大きく上回っている。さらに、市民農園にしたい、他の農業者へ貸したいという回答もあり、農地として維持していく意向が強く結果に表れている。(図表15)
制度改正によって、これが一気に逆転するとは思えない。むしろ強い農地維持意向を反映してこれを機に、生産緑地に追加指定するケースが増えるのではないだろうか。
では、宅地化農地を保有するのは、宅地需要が低く転用したくても買い手が付かないといった理由からだけなのだろうか?
これについて、全国農業会議の調査によると、宅地化農地を生産緑地にしない理由として、「一部を自由にしたいから」が約63%、「30年の行為制限が厳しい」が約43%、「500㎡未満である」が約36%と、これらをあげる割合が高くなっている。(図表14)
「一部を自由にしたいから」というのは、生産緑地の行為制限に対し自由に土地利用したいという意味と、一部必要に応じていつでも自由に売却できるようにしておきたいという意味であろう。
転用できる農地を残しておくのは、何らかの資金需要に備えるものと考えられる。保有農地すべてを営農することが厳しくなった場合に、一部を転用して賃貸住宅経営などで収入源を得ることを考慮している場合もあるのではないか。
生産緑地に相続税納税猶予制度を適用している場合は、終身営農が義務付けられるため、営農が厳しい状況になったとしても辞めるわけにいかない。辞めれば猶予税額を支払わなければならないからだ。農業後継者が定まるまで何とか継続するためにも、保有農地の一部は転用が容易な宅地化農地にしておくといった事情もあるのだと思われる。
「30年の行為制限が厳しい」もあわせて、生産緑地制度が営農以外の行為を厳しく制限していることで、かえって宅地化農地の保有につながっている状況が読み取れる。相続税納税猶予制度の終身営農義務も含めて、生産緑地で営農することからくる不安が、宅地化農地をあえて市場に開放しないで保有しておく状況を生み出している。
「500㎡未満である」は、生産緑地の指定面積要件未満ということだが、この中にはいわゆる道連れ解除21のものも含まれていると思われる。しかし、これまで市区町村が買取るケースは限られてきたことを考えると、最初から生産緑地に指定できなかったものの、宅地化もせずに農地を継続してきたものが多いと考えられる。
こうした状況に対し、昨年の生産緑地法の一部改正により、行為制限や面積要件が緩和され、今後、都市農業の貸借円滑化法案が成立すれば、貸借した場合も相続税納税猶予制度が適用できるようになる。生産緑地で営農することの不安は大きく解消されるはずだ。
これによって宅地化農地の多くが転用されることになるだろうか?そうとも言えない。東京都の調査では、宅地化農地保有農家に対し、宅地化農地の今後の利用意向を聞いているが、全体の約45%が、「農地として維持したい」で、「宅地などへ転用したい」の約29%を大きく上回っている。さらに、市民農園にしたい、他の農業者へ貸したいという回答もあり、農地として維持していく意向が強く結果に表れている。(図表15)
制度改正によって、これが一気に逆転するとは思えない。むしろ強い農地維持意向を反映してこれを機に、生産緑地に追加指定するケースが増えるのではないだろうか。
5――おわりに
1|制度周知が進む今後はさらに買取り申し出の選択が減る
以上から、2022年買取り申し出の不動産市場への影響は、エリアの宅地需要に応じて限定的な影響にとどまると予想する。今後制度周知が進めば、さらに影響は低下するだろう。
生産緑地比率の高い東京都では、他の地域に比べ生産緑地が宅地転用された場合、相応の価格で取引されると予想を述べたが、これについて、もう一つ興味深いアンケート結果を紹介したい。
昨年国土交通省が、東京都練馬区と世田谷区の農家を対象に実施したアンケート調査である。指定から30年を迎えたときの生産緑地の取り扱いについての結果を見ると、すぐに買取り申し出すると回答したのは、わずかに2.2%であった。(図表16)
以上から、2022年買取り申し出の不動産市場への影響は、エリアの宅地需要に応じて限定的な影響にとどまると予想する。今後制度周知が進めば、さらに影響は低下するだろう。
生産緑地比率の高い東京都では、他の地域に比べ生産緑地が宅地転用された場合、相応の価格で取引されると予想を述べたが、これについて、もう一つ興味深いアンケート結果を紹介したい。
昨年国土交通省が、東京都練馬区と世田谷区の農家を対象に実施したアンケート調査である。指定から30年を迎えたときの生産緑地の取り扱いについての結果を見ると、すぐに買取り申し出すると回答したのは、わずかに2.2%であった。(図表16)
練馬区と世田谷区の生産緑地面積は、都区部全体の6割以上を占める。したがって、両区の30年買取り申し出の動向が最も不動産市場に影響すると見てよい。しかしこれだけ、すぐに買取り申出すると決めている農家が限られているのであれば、都区部においても影響は極めて限定的と言えよう。
2|2022年問題は都市から農地が失われる問題
昨年、練馬区内で生産緑地を保有する農家の方に伺った話が印象に残っている。「私が聞いている範囲で買取り申し出するのはわずか」として、その理由を次のように話された。
「今残っている農家は、地価が過去最高に高騰し、宅地化の圧力をまざまざと感じていた時期に、営農する覚悟を決めて(生産緑地に)指定した。そのような環境の中でこれまで経営が成り立つ努力をしてきた。今更辞める選択はしない。住民もあのころとは正反対で理解がある。そういう農家は後継者が決まるのも早い」
地価上昇率が高く、宅地化圧力が高かった地域ほど、営農に対する農家の覚悟が強いのだろう。営農環境を良くする努力が実り、都市住民との関係も深まった。もはや地価の動向に振り回されて、農業を辞めるか、継続するかを考慮する状況ではないのだ。
30年買取り申出の不動産市場への影響が限定的であるならば、2022年問題はむしろ、都市から農地が失われる問題と捉えた方が適切である。そして、都市農業振興基本法の成立により、都市に農地があることの効能を前提に、まちづくりのあり方を考えていく時代を迎えた。そこからみれば、不動産市場への影響が限定的とは言え、やむを得ず農地を宅地化する農家が一定数いる以上、それをよりよいまちづくりへと導くことが何より重要になるのである。
昨年、練馬区内で生産緑地を保有する農家の方に伺った話が印象に残っている。「私が聞いている範囲で買取り申し出するのはわずか」として、その理由を次のように話された。
「今残っている農家は、地価が過去最高に高騰し、宅地化の圧力をまざまざと感じていた時期に、営農する覚悟を決めて(生産緑地に)指定した。そのような環境の中でこれまで経営が成り立つ努力をしてきた。今更辞める選択はしない。住民もあのころとは正反対で理解がある。そういう農家は後継者が決まるのも早い」
地価上昇率が高く、宅地化圧力が高かった地域ほど、営農に対する農家の覚悟が強いのだろう。営農環境を良くする努力が実り、都市住民との関係も深まった。もはや地価の動向に振り回されて、農業を辞めるか、継続するかを考慮する状況ではないのだ。
30年買取り申出の不動産市場への影響が限定的であるならば、2022年問題はむしろ、都市から農地が失われる問題と捉えた方が適切である。そして、都市農業振興基本法の成立により、都市に農地があることの効能を前提に、まちづくりのあり方を考えていく時代を迎えた。そこからみれば、不動産市場への影響が限定的とは言え、やむを得ず農地を宅地化する農家が一定数いる以上、それをよりよいまちづくりへと導くことが何より重要になるのである。
(2018年03月20日「基礎研レポート」)
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03-3512-1814
経歴
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
塩澤 誠一郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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