2018年03月14日

介護ロボットの「導入・利用で考えられる課題・問題」の一部再考-「平成28年度 介護労働実態調査」に見る導入状況と課題-

青山 正治

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3――介護ロボットの「導入・活用における課題・問題」について(複数回答)

1|集計結果について「課題」解決の観点からの考察
前節に続き注目する2つ目の点は、「介護ロボットなどの導入や利用についてどのような課題・問題があるとお考えですか。」に対する回答の集計結果である(図表-2)。

その集計結果の上位3項目は、「1-導入する予算がない」が60.4%で最も多く、次いで「2-誤動作の不安がある」32.4%「3-清掃や消耗品管理などの維持管理が大変である」30.6%となっている。

なお、この集計結果を見る上でも留意が必要な点がある。それは回答事業所の多くが介護ロボットを未導入(「図表-1」注記内「いずれも導入していない(78.8%)」)という点である。

次に、回答された「課題・問題(以降では「課題」と表記)」の1~9の背景を検討すると、複数の「課題」の背景に共通する原因の存在が推測される。それらは開発側(供給サイド)とユーザー側(需要サイド)の間で、産業の特徴が大きく異なることから「情報の非対称性」が存在し、情報の提供や共有化が不足した状態にあること。さらに両サイド間で介護ロボット開発・普及に対する「合意形成」の不足する状況が根底にあり、それらが様々な「課題」の派生に繋がっていると筆者は考えている。

また、課題のランキングについても、回答の上位3項目は「予算がない」や「誤動作の不安」「維持・管理の負担」という、比較的シンプルな「課題」が選ばれた可能性もある。この3項目に続き、降順で下に進むに連れて介護ロボット導入時の具体的な「課題」から、徐々に抽象度の高い内容や否定的意見の「課題」へと並んでいるように推測される。

さて、再考を進めていくうえで、これらの「課題」を3つに分類してみた。つまり、「A.情報提供等(共有を含む)の不足」と「B.導入に付随する課題」、個別により深い調査や検討が必要な「C.基本的な課題・問題」の3つである。
図表-2 全事業所の介護ロボットの導入・利用における課題・問題(複数回答)
2|「課題・問題」の「A.情報提供等の不足」について課題解決の観点からの考察
以上の便宜的な分類結果を整理すると以下のとおりとなる(図表-3)。
図表-3 「課題」を便宜的に3分類にした結果の整理 (各「課題」内容は省略して表記)
(1)「誤動作の不安」については2つの視点からの対応を
2-誤動作の不安(=誤動作の不安がある)」は、全体の2番目に位置しており、「課題・問題」への意識が他の項目に比較して若干高くなっている。その背景には、介護現場で活用する機器の「誤動作」は、対象者(被介護者)の転倒や落下などの事故に繋がる可能性があり、介護職自身も被介護者を守ろうとして事故に巻き込まれるかも知れない等の先入観から来る不安もあるのではないだろうか。

しかし、よくよく考えれば「重点分野」の機器群は、経済産業省などの開発支援を受けて公的試験施設で開発段階から様々な実証試験も行なわれ、年度ごとに実施された厳しい審査を受けた機器群である。このため、機器が需要サイドに提供される時点で誤動作等に対する主要な対応は終了している。

とすれば、介護系のユーザーが「2-誤動作の不安」で供給サイドに求める対応は、2つの視点が推測される。1つ目は[1]開発機器に備わった安全性確保の機能やシステムについての基本的知識(例えば、防水機能など)について、2つ目が[2]自身の操作中に「誤動作」が生じた際の具体的対処方法(例えば、緊急停止をさせた際の機器の挙動、機器適用の被介護者の安全確保の対応、その後の対処方法(機器のリセットや再起動方法など))についてであろうと筆者は推測する。

これらのことを通じて、「機器全般への漠然とした不安感、心理的恐怖感」や「機器の安全性についての情報不足」、「操作方法の習熟に対する不安」など、ユーザーが肌で感じている不安感を払拭することが導入に先立つ最優先の「課題」であるかも知れない。
(2)「技術活用面での心配」は全職員に十分な講習と演習等の確実な実施を
2つ目の「5-技術活用面での心配(=技術的に使いこなせるか心配である)」は主に介護職が感じている不安である。

この背景には上述した内容に近い事柄も含まれようが、基本的には介護ロボット等の事前の試用導入や本格的導入時点で、十分な講習や演習(機器を実際に使った講習)等を関係者全員に確実に実施することが重要であろう。また、供給サイド(開発企業や販売代理店等)には、講習の開催方法の工夫や講習内容についても単に“とおり一遍”の機器の操作方法だけでなく、多忙な介護現場での機器の利活用の一連の流れと取り扱いの注意点など、ユーザー側に立った効果的情報の提供を期待したい。

繰り返しになるが、供給サイドには機器を安全かつ効果的に“利活用できる情報・知識・経験(ノウハウ)”を提供することが必要である。つまり、供給サイドが需要サイドに提供するのは、介護ロボットという機器だけでなく、その適切な運用も含めた「介護サービス」そのものだからである。
(3)Webの情報も充実してきているが、導入候補は直に試用することが重要
3つ目の「課題・問題」である「7-介護ロボットの情報不足(=どのような介護ロボットがあるかわからない)」という点については、すでにWebなどにより様々な情報発信の取組みも行われている。例えば「介護ロボットポータルサイト」(経済産業省等)では代表的な「重点分野」のロボット等の介護現場における導入事例動画なども閲覧可能である。さらに、国際福祉機器展や様々の展示会で、導入を検討する機器メーカーや代理店の担当者と十分な質疑応答を行い、事前に十分な下調べを行うこともできる。また、それら展示会場は、機器のデモを見学するだけでなく、実機を試用することも可能であり、介護関係者が感じる疑問や不安の大半が改善・解決されると筆者は考えている。
 

おわりに

おわりに

今回、本稿で筆者が推測し補足・考察した「介護労働実態調査(事業所調査)」の介護ロボットに関する調査・集計結果からは、開発・導入初期段階の各種タイプ別の介護ロボットの導入状況や介護サービス事業所の「課題・問題」意識が把握された。しかし、それら「課題・問題」は全く独立した別個のものでなく前節で検討、考察したように情報の効果的な提供や介護側の真の情報ニーズ把握があれば、解消可能な「課題・問題」も少なくないと考えている

現在、様々な介護ロボット等の機器が多数登場しているが、少子高齢化を考えるとき、介護ロボットのことだけでなく、サービス産業の人手不足、介護職の加齢の進行、外国人技能研修生の受入等々の様々な要因をも十分に考えなければならない。それら介護分野の様々な課題・問題を検討する上で「介護労働実態調査」は極めて有益なデータを提供してくれるものであり、今後の継続調査の実現とその集計結果の公表に大いに注目したい。
<参考資料>

1. 政府及び行政などの公表資料
・公益財団法人介護労働安定センター「平成28年度 介護労働実態調査」(平成29年8月)
・厚生労働省「介護ロボット導入活用 事例集 2017」(平成30年1月)

2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-」(2016年12月27日)
・「ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向 -東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-」(2016年11月22日)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)

3.ニッセイ基礎研究所 「基礎研レター(Web版)」
・「超高齢社会の人の“移動”を支援する機器開発の動き –モーターショーに見るパーソナルモビリティやコンセプトモデル-」(2017年12月4日)
・「ロボット介護機器の『重点分野』が改訂され6分野13項目に –コミュニケーションロボットや排泄予測機器など1分野5項目を追加-」(2017年11月1日)
・「高まる介護ロボット導入による『効果的な活用』への注目度 –多くの関係者が詰め掛けた『介護ロボットフォーラム2016』 -」(2017年3月30日)
・「技術革新が進む『障害者自立支援機器』の開発 –シーズ・ニーズのマッチングを促進する重要な取組-」(2017年2月13日)

4.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
(※上記、2~4のレポート類及び2012~2015年の過去のレポート類は「執筆一覧」よりダウンロード可能)
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青山 正治

研究・専門分野

(2018年03月14日「基礎研レポート」)

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