2018年02月26日

負のタームスプレッドで取引される中期国債

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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3――マイナス金利政策の影響

中期国債の利回りは、日本銀行による日本国債の買入だけではなく、マイナス金利政策の影響を受けているものと予想される。特に、長短金利操作付き量的・質的金融緩和導入後は、イールドカーブの5年未満ゾーンの形状を考察する上で、日銀当座預金の一部にマイナス金利(-0.1%)が適用されたことで、どのようなメカニズムでこのゾーンのイールドカーブの形状が決定されているのかを分析することの重要性は増していると思われる。

マイナス金利政策では、民間金融機関が日本銀行に保有する日銀当座預金残高は3つの階層に分解され、マイナス金利(-0.1%)はそのうちの「政策金利残高」のみに適用され、その他の2つの階層である「基礎残高」には0.1%、「マクロ加算残高」には0%が適用される。

マイナス金利政策導入当初、マクロ加算残高はゼロに設定され、日本銀行が年間80兆円を目処に日本国債の買入を行うことで政策金利残高が増加していくことが想定されるため、民間金融機関のコスト負担の増加を避けることを目的として、徐々にその上限を引き上げていく仕組みとなっている(図表6)。2018年1月時点で、このマクロ加算残高の上限は約134兆円となっている。マイナス金利政策の下、上記の仕組みでマクロ加算残高の上限が徐々に引き上げられていることから、民間金融機関の中にはマクロ加算残高の枠に余裕のあるところが出てくることになる。

マイナス金利政策では、短期金融市場において、マクロ加算残高の上限までに余裕がありマイナス金利で資金調達することでリターンを求める民間金融機関と、マクロ加算残高に余裕がないことで政策金利残高でのマイナス金利のコストの支払いを避けたい民間金融機関の2者が存在することが前提となっている。これらの双方のニーズが合致することで、図表2で示したように、短期金融市場においてマイナス金利の状況が維持されている。日本銀行によるマクロ加算残高のコントロールは政策目的に沿った形でうまく機能していると言えるだろう。
図表6:マイナス金利政策の仕組み
そもそも日銀当座預金を保有する民間金融機関は担保目的などで、日本国債を一定程度保有する必要がある。マクロ加算残高に余裕がなくマイナス金利のコストを避けたいと考える民間金融機関は、日本国債利回りが-0.1%よりも高ければ、日本国債を保有するインセンティブが生じる。また、そのインセンティブの程度は、将来の金融緩和政策解除の時期に対する民間金融機関の予想にも依存するため、その時間軸に応じてイールドカーブの形状が決定することになる。

さらに、無担保コールレートやレポレートよりも日本国債利回りが高くなれば、民間金融機関が日本国債を購入するインセンティブはより高まる。マクロ加算残高に余裕のある民間金融機関も日本国債利回りが0%よりも高ければ、日本国債で運用することでマクロ加算残高に余裕を作り、さらにマイナス金利での資金調達を行うことでリターンを得ることが出来るかもしれない。

以上のメカニズムにより、マイナス金利政策が導入されている環境下では、政策金利残高に適用される金利(-0.1%)よりも日本国債利回りが高くなると、民間金融機関による日本国債購入のインセンティブが高まることで、日本国債利回りに対して低下圧力が働くことになる。

政策金利残高はおおよそ20兆円前後で安定的に推移しており、マクロ加算残高はこの先も政策金利残高が一定程度維持されることを目的してコントロールされる。そのため、マイナス金利政策下では、マクロ加算残高に余裕のない民間金融機関は常に存在することになる。よって、今後もマイナス金利政策の継続が予想されている中で、中期国債の利回りは政策金利残高に適用される金利をおおよその上限として推移していくものと考えられる。
 
 

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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴
  • 【職歴】
     2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
     2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
     ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

    【著書】
     成城大学経済研究所 研究報告No.88
     『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
      著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
      出版社:成城大学経済研究所
      発行年月:2020年02月

(2018年02月26日「基礎研レポート」)

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