2018年02月15日

2018・2019年度経済見通し(18年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

(需要項目別の見通し)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2017年度が前年比1.1%、2018年度が同0.8%、2019年度が同0.6%と予想する。
実質雇用者報酬の予測 雇用所得環境の先行きを展望すると、春闘賃上げ率が3年ぶりに前年を上回ることを反映し、所定内給与の伸びが高まること、企業収益との連動性が高い特別給与(ボーナス)も明確に増加することから、2018年度の名目雇用者報酬は前年比2.4%となり、2017年度の同2.0%から伸びを高めるだろう。

しかし、同時に物価上昇率も高まるため、実質雇用者報酬は前年比1.6%と2017年度の同1.4%とそれほど変わらない。消費税率引き上げによって物価上昇率がさらに高まる2019年度の実質雇用者報酬は前年比1.0%と伸びが低下するだろう。
社会給付抑制、社会負担増が家計の所得を下押し また、個人消費の動向を大きく左右するのは、利子、配当などの財産所得、年金などの社会給付の受け取り、社会保障負担などの支払いを加味した可処分所得の動きである。近年は、マクロ経済スライドや特例水準の解消によって年金給付額が抑制されてきたこと、年金保険料率の段階的引き上げによる社会負担増が家計の可処分所得を下押ししている。内閣府の「国民経済計算」によれば、家計の社会給付(ネット)2は2009年度の8.5兆円をピークに減少を続け、2016年度には▲0.3兆円の支払超過に転じた。
物価、賃金、年金給付額の推移 2010年度を起点とした年金給付額、物価(消費者物価指数)、賃金(一人当たり現金給与総額)の推移を確認すると、物価は消費税率引き上げの影響もあって、2017年度(2017年4~12月の平均)は2010年度を4%以上上回っている。一方、賃金は2014年度から4年連続で上昇しているが、それまでの落ち込みが大きかったため、2017年度にようやく2010年度の水準を回復するにとどまっている。さらに、年金給付額については、2013年度から2015年度にかけて特例水準の解消が図られたこと、2015年度にマクロ経済スライドが発動されたこともあり、物価との乖離幅が大きくなっている。

2017年の消費者物価上昇率の実績値(前年比0.5%)が公表されたことを受け、2018年度の年金額は前年度から据え置きとなることが決定した3。2018年度は2017年度に続き物価上昇が確実となっているため、年金生活者にとっての実質的な手取り額はさらに減少することになる。
雇用者報酬を下回る可処分所得の伸び 2005年度に開始された年金保険料率の段階的な引き上げは2017年度で打ち止めとなるが、マクロ経済スライドによる年金給付額の抑制は引き続き実施されるため、可処分所得の伸びが雇用者報酬の伸びを下回る状況はその後も継続する。実質可処分所得の伸びは2017年度が前年比0.3%、2018年度が同0.6%、2019年度が同0.4%となり、実質雇用者報酬の伸びをそれぞれ▲1%ポイント前後下回る。民間消費は2017年度には消費性向の上昇によって可処分所得の伸びを上回るが、2018年度、2019年度は可処分所得と同程度の伸びとなり、実質GDPの伸びを下回り続けるだろう。
 
 
2 現物社会移転以外の社会給付(受取)-純社会負担(支払)
3 2018年度の年金額は年金額改定に用いる名目手取り賃金変動率がマイナス、物価上昇率がプラスとなることから、マクロ経済スライドによる調整は行われず、未調整分は繰り越される。

設備投資は企業収益の改善を背景に増加傾向が続いている。日銀短観2017年12月調査では、2017年度の設備投資計画(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比9.0%(全規模・全産業)となり、前年同時期の前年度比3.4%(2016年12月調査の2017年度計画)を上回り、12月調査としては過去10年で最も高い伸びとなっている。設備投資/キャッシュフロー比率は低水準にとどまっており、企業の投資スタンスは積極化しているわけではないが、企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に、設備投資は底堅い動きが続く可能性が高い。
設備投資計画(全規模・全産業)/設備投資・GDP比率
ただし、個人消費を中心とした国内需要は当面力強さに欠ける状況が続く可能性が高く、期待成長率の上昇によって企業の投資意欲が高まるまでには時間を要するだろう。また、好調が続く企業収益だが、2018年度には人件費上昇に伴うコスト増などから増益率が鈍化することが見込まれる。設備投資の名目GDP比は2013年半ば以降、現行のGDP統計(簡易遡及を除く)で遡ることができる1994年以降の平均(15.2%)を上回って推移しており、2017年10-12月期には15.9%となった。このまま設備投資の回復が続けば、2019年度には1994年以降のピーク(1997年10-12月期の16.5%)に近づくことになり、循環的な減速圧力が高まるだろう。設備投資は2016年度の前年比1.2%から、2017年度には同3.5%へと高まるが、企業収益の伸び率鈍化に伴い2018年度が同3.0%、2019年度が同1.6%と徐々に減速すると予想する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2018・2019年度経済見通し(18年2月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2018・2019年度経済見通し(18年2月)のレポート Topへ