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- 2018・2019年度経済見通し(18年2月)
2018年02月15日
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(3%の賃上げは実現するのか)
安倍首相は経済界に対し3%の賃上げを要請し、2018年度税制改正では企業の賃上げを後押しするため、所得拡大促進税制の見直しを行った。これまで賃上げに慎重だった経団連も3%の賃上げ目標を提示するなど、ここにきて賃上げの機運は高まっている。
新たな所得拡大促進税制では、減税措置を受けるための要件が、大企業(資本金1億円超)で「給与平均額が前年比3%以上」1、中小企業(資本金1億円以下)で「給与平均額が前年比1.5%以上、あるいは2.5%以上」となっている。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、2017年の賃金改定率の平均は大企業が2.1%、中小企業が1.9%と両者に大きな差はないが、その分布をみると、大企業は2%台(2.0~2.4%、2.5~2.9%)に半数以上の企業が集中しているのに対し、中小企業は比較的バラツキが大きく、ボリュームゾーンは1%台(1.0~1.4%、1.5~1.9%)となっていることが分かる。したがって、今回の税制改正は減税措置の要件が、企業規模別の賃上げの実態に見合った設定になっているとの評価が可能だろう。
安倍首相は経済界に対し3%の賃上げを要請し、2018年度税制改正では企業の賃上げを後押しするため、所得拡大促進税制の見直しを行った。これまで賃上げに慎重だった経団連も3%の賃上げ目標を提示するなど、ここにきて賃上げの機運は高まっている。
新たな所得拡大促進税制では、減税措置を受けるための要件が、大企業(資本金1億円超)で「給与平均額が前年比3%以上」1、中小企業(資本金1億円以下)で「給与平均額が前年比1.5%以上、あるいは2.5%以上」となっている。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、2017年の賃金改定率の平均は大企業が2.1%、中小企業が1.9%と両者に大きな差はないが、その分布をみると、大企業は2%台(2.0~2.4%、2.5~2.9%)に半数以上の企業が集中しているのに対し、中小企業は比較的バラツキが大きく、ボリュームゾーンは1%台(1.0~1.4%、1.5~1.9%)となっていることが分かる。したがって、今回の税制改正は減税措置の要件が、企業規模別の賃上げの実態に見合った設定になっているとの評価が可能だろう。

3%の賃上げを考える上では、その数字が基本給にあたる月例賃金ベースなのか、賞与や手当てなどを含んだ年収ベースなのかを区別する必要がある。連合は月例賃金の引き上げを求めているのに対し、経団連は年収ベースも選択肢のひとつとしており、両者には隔たりがある。所得拡大促進税制の「給与平均額」は基本給以外に残業代、賞与、手当てなども含む年収ベースとなっている。企業業績の大幅改善を受けて2018年度の賞与は前年よりも明確な増加が見込まれるため、多くの大企業にとっては3%のハードルはそれほど高いとはいえないが、賞与は業績が悪化すれば大きく削減されるため、3%の賃上げは一時的なものに終わる恐れもある。

所得拡大促進税制における給与平均額の算出対象となる雇用者は「当期および前期の全期間の各月において給与などの支給がある継続雇用者」とされているため、給与平均額の伸びは定期昇給を含んだ概念に近いと考えられる。

今回の見通しでは、春闘賃上げ率の想定を2018年が2.40%、2019年が2.50%とした。賃上げ率が3%を超えるのはさらに先となりそうだが、2018年にはアベノミクス開始以降で最も高い伸びとなった2015年度の2.38%と同水準となり、景気の回復基調がその後も維持されれば、2019年度にはそれを明確に上回ることが見込まれる。
なお、2月上旬の米国長期金利の上昇をきっかけとして、株価が大幅に下落し、円高が進行している。賃上げを巡る環境(労働需給、企業収益)は良好だが、金融資本市場の動揺が長引いた場合には、春闘の妥結結果に悪影響が及ぶ可能性がある。
1 大企業は給与要件のほかに、「国内投資が当期の減価償却費の9割以上」も満たす必要がある
2. 実質成長率は2017年度1.7%、2018年度1.2%、2019年度0.9%を予想
(先行きも企業部門の成長が続くが、2018年度以降は成長率が低下)
2017年度入り後の日本経済を振り返ると、経済成長の中心は4-6月期が内需、7-9月期が外需、10-12月期が内需と変化しているが、均してみれば、景気回復の中心は輸出、設備投資の企業部門である。先行きについても、海外経済の回復に伴う輸出の増加、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復が続くことが見込まれる一方、実質所得の低迷が続く家計部門は消費、住宅投資ともに低調に推移する公算が大きい。当面は企業部門主導の成長が続くことが予想される。
2018年度は企業部門の改善が家計部門に一定程度波及し、名目賃金の伸びは2017年度よりも高まる可能性が高い。ただし、物価上昇率が高まることから実質所得の伸びは限定的なものにとどまり、消費が景気の牽引役となることは引き続き期待できない。また、人件費上昇に伴うコスト増などから企業収益の伸びが鈍化することに伴い設備投資が減速すること、住宅投資、公的固定資本形成が減少に転じることから、2018年度の成長率は2017年度から低下することが予想される。
2019年度は10月に消費税率引き上げ(8%→10%)が予定されているが、前回(2014年度:5%→8%)よりも税率の引き上げ幅が小さく、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞に軽減税率の導入が予定されていることから、成長率、物価への影響は前回よりも小さくなるだろう。また、税率引き上げは2019年度下期からとなるため、年度ベースの影響は2019年度、2020年度ともに1%分(軽減税率導入を考慮すると0.75%分)となる。さらに、消費増税前後には駆け込み需要とその反動減が発生するが、年度途中での引き上げとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。
2014年度の実質GDP成長率は消費税率引き上げによる悪影響を主因として▲0.3%のマイナス成長となった。2019年度は消費税率引き上げの影響が前回よりも小さいことに加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待されることから、経済成長率が大きく落ち込むことは避けられるだろう。
実質GDP成長率は2017年度が1.7%、2018年度が1.2%、2019年度が0.9%と予想する。
2017年度入り後の日本経済を振り返ると、経済成長の中心は4-6月期が内需、7-9月期が外需、10-12月期が内需と変化しているが、均してみれば、景気回復の中心は輸出、設備投資の企業部門である。先行きについても、海外経済の回復に伴う輸出の増加、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復が続くことが見込まれる一方、実質所得の低迷が続く家計部門は消費、住宅投資ともに低調に推移する公算が大きい。当面は企業部門主導の成長が続くことが予想される。
2018年度は企業部門の改善が家計部門に一定程度波及し、名目賃金の伸びは2017年度よりも高まる可能性が高い。ただし、物価上昇率が高まることから実質所得の伸びは限定的なものにとどまり、消費が景気の牽引役となることは引き続き期待できない。また、人件費上昇に伴うコスト増などから企業収益の伸びが鈍化することに伴い設備投資が減速すること、住宅投資、公的固定資本形成が減少に転じることから、2018年度の成長率は2017年度から低下することが予想される。
2019年度は10月に消費税率引き上げ(8%→10%)が予定されているが、前回(2014年度:5%→8%)よりも税率の引き上げ幅が小さく、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞に軽減税率の導入が予定されていることから、成長率、物価への影響は前回よりも小さくなるだろう。また、税率引き上げは2019年度下期からとなるため、年度ベースの影響は2019年度、2020年度ともに1%分(軽減税率導入を考慮すると0.75%分)となる。さらに、消費増税前後には駆け込み需要とその反動減が発生するが、年度途中での引き上げとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。
2014年度の実質GDP成長率は消費税率引き上げによる悪影響を主因として▲0.3%のマイナス成長となった。2019年度は消費税率引き上げの影響が前回よりも小さいことに加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待されることから、経済成長率が大きく落ち込むことは避けられるだろう。
実質GDP成長率は2017年度が1.7%、2018年度が1.2%、2019年度が0.9%と予想する。
(2018年02月15日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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