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- 良好な環境が続くも、地政学リスクを注視~価格のピークは東京五輪前、インフラ施設に注目~第14回不動産市況アンケート結果
2018年01月30日
(2)前回調査との比較[(ⅰ)懸念が高まったリスク要因と(ⅱ)懸念が後退したリスク要因)]
(ⅰ)懸念が高まったリスク要因
前回調査から回答割合が5%以上増加したリスク要因は、「地政学リスク」(前回20.5%→今回62.8%)、「金利」(前回52.8%→今回58.4%)、「自然災害」(前回4.7%→今回20.4%)であった(図表-7)。
「地政学リスク」との回答は、前回調査から大幅に増加し、最も懸念されるリスクとなった。日本の不動産投資の魅力の1つとして、政治・社会経済(地政学リスクを含む)の安定性が挙げられる。しかし、北朝鮮によるミサイル発射や核実験等に伴い、日本においても地政学リスクが高まっており、日本の不動産への資金流入圧力が弱まることを懸念している実務家・専門家が増加していると推察される。
「金利」との回答も、前回調査から増加し6割弱を占めた。欧米では金利上昇に伴いイールドギャップが縮小する中で、日本は低金利でイールドギャップを維持しており、日本の不動産への資金流入圧力は比較的強い状況にある。日本銀行は、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針の維持を決定し、当面の金利上昇懸念は後退しているが、金利動向を引き続き注視している実務家・専門家は多い。
また、「自然災害」との回答は、前回調査から大きく増加した。国連大学「世界リスク報告書2016年版」によれば、日本は「地震などの自然災害に見舞われる可能性」(国別ランキング)で世界4位と高位である。他の先進国と比較して高い自然災害リスクに対し、リスクヘッジ策(地震保険、等)を講じる必要性が再認識されていると思われる。
(ⅱ)懸念が後退したリスク要因
前回調査から回答割合が5%以上減少したリスク要因は、「国内景気」(前回43.3%→今回31.0%)、「欧米経済」(前回44.1%→今回20.4%)、「為替」(前回18.9%→今回11.5%)であった(図表-7)。
「国内景気」との回答は約3割を占めたものの、前回調査から大きく減少した。内閣府「景気動向指数」(2017年11月速報値)では、14ヶ月連続で「改善を示している」との基調判断が示された。景気改善の継続に伴い、国内景気に対する懸念が後退したと推察される。
また、「欧米経済」と「為替」との回答も前回調査から減少した。前回調査時点(2017年1月)において、米国のトランプ政権発足やユーロ圏における政治的な不確実性などの影響が懸念されていたが、結果として米国経済、ユーロ圏経済ともに堅調に推移し、ドル/円相場は動意がない展開が続いた。このような昨年の動向を反映し、今回調査では欧米経済および為替相場への懸念が後退したと思われる。
(ⅰ)懸念が高まったリスク要因
前回調査から回答割合が5%以上増加したリスク要因は、「地政学リスク」(前回20.5%→今回62.8%)、「金利」(前回52.8%→今回58.4%)、「自然災害」(前回4.7%→今回20.4%)であった(図表-7)。
「地政学リスク」との回答は、前回調査から大幅に増加し、最も懸念されるリスクとなった。日本の不動産投資の魅力の1つとして、政治・社会経済(地政学リスクを含む)の安定性が挙げられる。しかし、北朝鮮によるミサイル発射や核実験等に伴い、日本においても地政学リスクが高まっており、日本の不動産への資金流入圧力が弱まることを懸念している実務家・専門家が増加していると推察される。
「金利」との回答も、前回調査から増加し6割弱を占めた。欧米では金利上昇に伴いイールドギャップが縮小する中で、日本は低金利でイールドギャップを維持しており、日本の不動産への資金流入圧力は比較的強い状況にある。日本銀行は、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針の維持を決定し、当面の金利上昇懸念は後退しているが、金利動向を引き続き注視している実務家・専門家は多い。
また、「自然災害」との回答は、前回調査から大きく増加した。国連大学「世界リスク報告書2016年版」によれば、日本は「地震などの自然災害に見舞われる可能性」(国別ランキング)で世界4位と高位である。他の先進国と比較して高い自然災害リスクに対し、リスクヘッジ策(地震保険、等)を講じる必要性が再認識されていると思われる。
(ⅱ)懸念が後退したリスク要因
前回調査から回答割合が5%以上減少したリスク要因は、「国内景気」(前回43.3%→今回31.0%)、「欧米経済」(前回44.1%→今回20.4%)、「為替」(前回18.9%→今回11.5%)であった(図表-7)。
「国内景気」との回答は約3割を占めたものの、前回調査から大きく減少した。内閣府「景気動向指数」(2017年11月速報値)では、14ヶ月連続で「改善を示している」との基調判断が示された。景気改善の継続に伴い、国内景気に対する懸念が後退したと推察される。
また、「欧米経済」と「為替」との回答も前回調査から減少した。前回調査時点(2017年1月)において、米国のトランプ政権発足やユーロ圏における政治的な不確実性などの影響が懸念されていたが、結果として米国経済、ユーロ圏経済ともに堅調に推移し、ドル/円相場は動意がない展開が続いた。このような昨年の動向を反映し、今回調査では欧米経済および為替相場への懸念が後退したと思われる。
4.J-REIT市場の見通し
「2018年の東証REIT指数の年間騰落率の予想」について、「0%以上10%未満」との回答が最も多く、約半数を占めた (図表-8)。東証REIT指数の年間騰落率(2018年)をプラスと予想した回答は、7割弱を占めた。
低金利環境のもとで不動産価格は上昇し、オフィス市況も着実に改善するなど不動産ファンダメンタルズは良好な一方で、東証REIT指数は、昨年約10%下落した。好調な企業業績を背景に高値を更新する株式市場と比較して、J-REIT市場の低迷は好対照となっている。
ただし、不動産投資景況見通しDIはプラスに転じている。また、J-REIT保有物件の約4割を占めるオフィスビルへの期待も高まっている。今後、不動産市況が大きく悪化するとの懸念は後退していることから、多くの実務家・専門家は、東証REIT指数の年間騰落率(2018年)をプラスと予想したと思われる。
「2018年の東証REIT指数の年間騰落率の予想」について、「0%以上10%未満」との回答が最も多く、約半数を占めた (図表-8)。東証REIT指数の年間騰落率(2018年)をプラスと予想した回答は、7割弱を占めた。
低金利環境のもとで不動産価格は上昇し、オフィス市況も着実に改善するなど不動産ファンダメンタルズは良好な一方で、東証REIT指数は、昨年約10%下落した。好調な企業業績を背景に高値を更新する株式市場と比較して、J-REIT市場の低迷は好対照となっている。
ただし、不動産投資景況見通しDIはプラスに転じている。また、J-REIT保有物件の約4割を占めるオフィスビルへの期待も高まっている。今後、不動産市況が大きく悪化するとの懸念は後退していることから、多くの実務家・専門家は、東証REIT指数の年間騰落率(2018年)をプラスと予想したと思われる。
5.不動産価格のピーク時期
「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2019年」(31.9%)との回答が最も多く、次いで「2017年または現時点」(23.0%)、「2018年」(22.1%)との回答が多かった(図表-9)。東京五輪開催前(2019年)までに不動産価格のピークを迎えるとの見方が7割以上を占めた。
CBRE「四半期投資家調査」(2017年11月調査)によれば、東京における各投資セクターのNOI利回りは、過去最低水準まで低下している。著しく低い利回りによる取引も散見されており、多くの実務家・専門家は、既に東京の不動産価格はピークに達しつつあると判断した模様である。
今年は、4月に日本銀行の黒田総裁の任期満了、9月には自民党総裁選挙が予定されており、その結果次第では金融政策の方向性が変更される可能性がある。また、2019年は、3月に英国EU離脱、10月に消費税率の10%への引き上げが予定されており、国内景気や欧米経済に影響が及ぶ懸念がある。
以上の政治・経済イベントの影響を鑑みて、実務家・専門家の多くが東京五輪開催前(2019年)までに不動産価格のピークを迎えると判断したと思われる。
「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2019年」(31.9%)との回答が最も多く、次いで「2017年または現時点」(23.0%)、「2018年」(22.1%)との回答が多かった(図表-9)。東京五輪開催前(2019年)までに不動産価格のピークを迎えるとの見方が7割以上を占めた。
CBRE「四半期投資家調査」(2017年11月調査)によれば、東京における各投資セクターのNOI利回りは、過去最低水準まで低下している。著しく低い利回りによる取引も散見されており、多くの実務家・専門家は、既に東京の不動産価格はピークに達しつつあると判断した模様である。
今年は、4月に日本銀行の黒田総裁の任期満了、9月には自民党総裁選挙が予定されており、その結果次第では金融政策の方向性が変更される可能性がある。また、2019年は、3月に英国EU離脱、10月に消費税率の10%への引き上げが予定されており、国内景気や欧米経済に影響が及ぶ懸念がある。
以上の政治・経済イベントの影響を鑑みて、実務家・専門家の多くが東京五輪開催前(2019年)までに不動産価格のピークを迎えると判断したと思われる。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2018年01月30日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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