2017年09月28日

「人づくり革命」の財源を消費税使途変更で捻出

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任   矢嶋 康次

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1――はじめに:一体改革の消費税の使途を変更

安倍晋三首相は9月28日臨時国会冒頭に衆院を解散した。首相は総選挙公約の目玉として2兆円規模となる「人づくり革命」を打ち出した。幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減、高齢者中心の社会保障を低所得者・若年者に向ける「全世代型社会保障」の実現を掲げ、財源として消費増税の引き上げ分を充当する方針を打ち出した。

2012年成立した「社会保障と税の一体改革」では、2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた増収分(5.8兆円と見込まれている)を全額社会保障に充てることとされている。

具体的には5.8兆円のうち1兆円程度を所得の低い高齢者への給付金の支給など「社会保障の充実」策に使い、また0.4兆円程度を増税に伴う経費増に充当、約4兆円程度を社会保障費を賄うために赤字国債を発行するのを抑制し、国債残高を減らすために使うことが決められている(図表1)。

一体改革は消費増税の使途を年金、医療、介護、子育ての4経費に限定し、他の経費への流用を防いでいる。今回の使途見直しは、大学などの負担軽減も「子育て」の範囲内と拡大解釈することで財源を捻出し「全世代型社会保障」を実現させるという案だ。

この消費税の使途変更と他の制度改革を組み合わせることで2兆円程度を捻出し、所得の低い家庭の子どもを対象にした高等教育の無償化をはじめ幼児教育の無償化など教育の充実策に充てることにするつもりだ。

人づくり革命の財源を消費税使途変更で捻出したことは、民進党との争点消しなど政治的には理解できる面もあるが、経済・財政的には大きな問題を残した。

例えば幼児教育無償化の議論では、これまで1.2兆円の財源を誰が負担するのかが検討され、負担の意識から何に使うのか、どういう幼児教育が必要かなどの議論も高まっていた。しかし、財源があることで無駄な使われ方やまた逆分配になってしまうようなことも現実的には起こってしまう懸念がある。また財政再建については、PB黒字化を先送りすることが避けられない。財政再建目標を先送りしたことで、今後、歳出拡大圧力がいっそう高まるだろう。財政再建の旗を降ろさない政府の姿勢をどう示すのか、今まで以上に厳しい課題に直面することになる。
(図表1)消費税引き上げ分の変更イメージ

2――幼児教育無償化:消えた負担論

2――幼児教育無償化:消えた負担論

9月11日に首相や閣僚、有識者でつくる「人生100年時代構想会議」の初会合が開かれた。

この会議で今後幼児教育無償化や、義務教育の小中学校に加え、幼稚園や保育園、高校、大学の授業料などを実質的に無料にすることなどが議論されるはずだった。

文部科学省によると、無償化に必要な追加財源は3~5歳児の幼稚園・保育園が約7000億円、高校で約3000億円、大学は約3.1兆円と試算されている。これまでの議論では、幼児教育無償化の財源として「こども保険」創設や増税、企業拠出金の活用が自民党を中心に検討されてきた。また大学進学の負担軽減では、返済不要の給付型奨学金や授業料の減免措置などの拡充が浮上していた。
(幼児教育無償化の財源問題~小泉進次郎氏の「こども保険」が注目されていた)
幼児教育無償化では1.2兆円あまりの財源が必要といわれてきた。中学卒業までの子どもに支給する「児童手当」で、所得制限を超える世帯にも支給されている「特例給付」の廃止などが検討されていたが、この廃止でも700億円程度にとどまり何らかの国民負担が避けられないとの論調だった。

負担案の中で一番脚光を浴びていたのが、3月末に小泉氏ら自民党の若手議員が提言した「こども保険」だ(図表2)。厚生年金の保険料などに新たな保険料を上乗せして児童手当を増額する仕組みで、負担は現役世代で共有し、教育国債のような将来世代へのこれ以上のツケ回しを避けるとの内容だった。

しかしこのこども保険だと、原則20歳から60歳の全国民が社会保険料を上乗せする形で負担する一方、恩恵は0~5歳の子どもを持つ世帯に限られる。子どもが大きくなっている家庭や子どものいない家庭では、保険料の負担が増えるだけで不公平だとの批判はかなり強まっていた。

ある意味で「こども保険」を通じてまじめに負担の議論がなされていたように感じる。

しかし、今回の首相の消費増税の使途変更により、これまでの、誰が幼児教育無償化の財源を負担するのかとの議論が一気に消え去った。負担という痛みの伴う決断を避け、将来世代に負担を先送りしたとの批判はあって然りだろう。

また負担の議論が消えたことで、(無償化の対象など詳細な制度設計は今後の議論だが)お金の使い方議論は雑になる可能性は高い。例えば、現在低所得者への保育料軽減などの措置が存在している。4-5歳児の9割以上が幼児教育を受けている中で、すべての世帯を無償化すれば、高所得者の方が、余裕ができたお金を他の習いごとに回すことができ、無償化の恩恵は大きくなるという逆分配政策につながってしまうリスクもはらむ。
(図表2)幼児教育無償化で議論されてきた財源
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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