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- 商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~
2017年08月31日
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以上の結果から、少子高齢化とEC市場拡大の影響は限定的と見ることもできよう。年率-0.69%であれば、運営力などで対応する余地もありそうだ。しかし、ここで重要なのは商業施設売上高への緩やかな下押し圧力が、今後20年にわたって続くということである。少子高齢化とEC市場拡大は長期的かつ不可逆的な変化であり、商業施設にとって「緩やかに進む危機」なのである。
9 EC市場拡大のシナリオについては4-3 EC市場拡大のシナリオの設定を参照。
9 EC市場拡大のシナリオについては4-3 EC市場拡大のシナリオの設定を参照。
10 小売業の販売額が物販の商業施設売上高(メインシナリオ)と同様の推移を辿ると仮定。
5|可処分所得が上昇した場合の見通し
本稿の分析では、可処分所得が将来にわたって一定と仮定している。これは2035年まで日本の経済が成長しないと仮定しているのと大きく変わらない。雇用・所得環境の改善が続き、可処分所得が上昇した場合には、商業施設の売上環境は試算結果ほど悪化しないことが想定される11。
可処分所得が増加した場合の試算をすると、可処分所得上昇の影響は大きく、EC化率がメインシナリオを辿るとした場合でも年率0.5%~1.0%の所得上昇が実現すれば、2015年の商業施設売上高を維持できる(図表21)。しかし、少子高齢化が進む中、経済が停滞し可処分所得が低下する可能性もある点には留意が必要である。
本稿の分析では、可処分所得が将来にわたって一定と仮定している。これは2035年まで日本の経済が成長しないと仮定しているのと大きく変わらない。雇用・所得環境の改善が続き、可処分所得が上昇した場合には、商業施設の売上環境は試算結果ほど悪化しないことが想定される11。
可処分所得が増加した場合の試算をすると、可処分所得上昇の影響は大きく、EC化率がメインシナリオを辿るとした場合でも年率0.5%~1.0%の所得上昇が実現すれば、2015年の商業施設売上高を維持できる(図表21)。しかし、少子高齢化が進む中、経済が停滞し可処分所得が低下する可能性もある点には留意が必要である。
11 訪日外国人旅行客の消費増加も商業施設売上高を押し上げる可能性がある。訪日外国人旅行客の消費額のうち商業施設売上高に繋がる費目を集計すると2016年は2.3兆円である(買物代、飲食費、娯楽サービス費の合計)。そのため、2020年に目標であるインバウンド4000万人を達成し、今後も同額の消費を行うと仮定すれば、3.8兆円の売上が見込める。
6――おわりに
1990年代後半以降、商業施設の売上環境は低迷を続けている。足元では改善の兆しも見られるが、今後は少子高齢化とEC市場拡大の影響が本格化することで、下押し圧力が強まっていく。2035年の商業施設売上高は2015年と比較して12.9%減少すると予測される。これは小売業の販売額が直近の139.9兆円から2035年には117.4兆円と1980年代後半の水準にまで落ち込むことを意味する。今後、売上全体のパイが縮小すれば、商業施設間の競争も激しくなる。
少子高齢化とEC市場拡大の影響は、緩やかに長く続くことが特徴的だ。さらに、その影響は品目や業態によって一様ではないため、商業施設の運営力が一層問われることになる。また商業施設売上高への下押し圧力は年々大きくなるため、商業施設の投資家も、安定した投資収益を確保するためには、経済・投資環境の緻密な分析に加え、大胆かつ戦略的なアロケーション変更を行うなど、投資対象の選別が一段と求められる。
少子高齢化とEC市場拡大の影響は、緩やかに長く続くことが特徴的だ。さらに、その影響は品目や業態によって一様ではないため、商業施設の運営力が一層問われることになる。また商業施設売上高への下押し圧力は年々大きくなるため、商業施設の投資家も、安定した投資収益を確保するためには、経済・投資環境の緻密な分析に加え、大胆かつ戦略的なアロケーション変更を行うなど、投資対象の選別が一段と求められる。
(2017年08月31日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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