2017年06月27日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPA がORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に関する監督評価を公表-

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(3) 全ての重要なリスクのリスク評価
EIOPAは、適切なリスク評価を実行するための会社の事業計画分析の重要性、継続的なベースでの全体的なソルベンシーニーズと資本要件の評価が、リスク評価で特定された重要なリスクに基づいていること、 全体的なソルベンシーニーズの評価において、特定化された重要なリスクが資本およびその他の手段によってカバーされているという事実を強調している。

ORSAのリスク評価は、会社自身のリスク評価である。したがって、EIOPAは、会社が、特定の会社の特徴、ビジネスモデル、リスクプロファイルに基づいて、ソルベンシーII指令の標準的な分類だけに基づくのではなく、彼ら独自のリスク分類またはタイプを使用することを奨励している。

保険グループが実施するORSAのリスク評価では、例えば、グループ内取引や会社の相互接続に関連するリスク等、グループ固有のリスクに関してさらなる改善が必要である。 EIOPAは、リスク評価がグループの構造に起因する潜在的なリスクを反映しているかどうかをより適切に評価するように、保険グループに奨励する。

また、グループ構造における単体企業は、例えば、事業モデル、会社が事業展開する保険市場の特徴、会社の個別のリスクプロファイルに関して、単体企業の全ての関連特性を適切に反映するために、彼ら自身のORSAプロセスを採用すべきである。

こうした点を踏まえて、エグゼクティブサマリーでは、以下の通り、まとめられている。
 

リスク評価の範囲がさらに拡大されるべき:
ORSAの要件によれば、会社は、定量化できないものを含め、現在または潜在的な全ての重要なリスクを評価する必要がある。調査結果は、リスク評価が必ずしも全ての潜在的なリスクを含んでいるとは限らず、多くの場合、事業モデルおよび事業の戦略的管理行動に関連していないことを示している。従って、EIOPAは、会社がリスク評価の範囲を広げ、リスク分析を深めることを推奨している。

(4) 標準式とORSA
個々の(再)保険会社が、その特定のリスクプロファイルが標準式に対してなされている仮定からどのように逸脱しているかを理解することは重要である。リスクプロファイルが標準式に基づくソルベンシー資本要件の基礎となる仮定から逸脱する重要性についての会社の評価の質は、さらに改善が必要である。 欧州全域の国家監督当局は、提出されたいくつかのORSA報告書にこのORSA評価が不足していると指摘した。

標準式は、仮説的で平均的な会社に基づくモデルであるため、EIOPAは、全ての会社が、標準式に対して行われた仮定から軽度および/または重大なレベルで逸脱すると予想している。そのような偏差が重要であるかどうかを理解することになるORSAにおける会社自身の評価が要求される。この評価は、会社が全体的なソルベンシーのニーズを計算する上で適切な見解を定義するのに役立つ。EIOPAは、全体的なソルベンシーのニーズを計算する際に、会社による標準式への過度の依存を示すケースを観察した。EIOPAは、標準式への自動的な依存は、ORSAの目的に適していないと考えている。

会社は、SCR(ソルベンシー資本要件)計算の基礎となる仮定からのリスクプロファイルの偏差の少なくとも定性的評価を行うことが期待されている。この偏差が重要な場合、EIOPAは、会社が、ORSA報告書において、この偏差の推定および資本ニーズへの影響を報告することを期待している。

EIOPAは、全体的なソルベンシーニーズ計算において、全ての会社が自身の方法を使用する必要性を強調し、比例原則を考慮して、あまり複雑でないリスクプロファイルを有するより小規模の会社が、限られた範囲でそれらを適用することを支持する。これらの会社は、例えば、最も重要なリスク・モジュールまたは見積りに基づいてのみ自身の方法を基礎とすることができる。

この項目については、以下のようにまとめられている。
 

会社による標準式への過度の依存:
会社のリスクプロファイルが標準式の下でのソルベンシー資本要件の基礎となる仮定から逸脱する重要性の評価は、さらに改善されるべきである。EIOPAは、全ての会社が、全体的なソルベンシーニーズを計算する際に、比例原則を考慮して、特定のリスクプロファイルの評価を行うことを期待している。

なお、保険会社が標準式からの偏差を考慮するように求められている例の1つは、規則によれば資本チャージを必要としないがそれにもかかわらずリスクを負うソブリン債に対する評価であると考えられている。
(5) ストレステストの品質
ストレステストは、会社の全体的な資本ニーズを決定するために適用されるべきである。ストレステストのシナリオを選択する際には、特に以下の基準を考慮することが重要である。

・適用されるストレステストは、リスク選好度を考慮して、会社のリスクプロファイルを反映している。

・同時に起こっているいくつかの主要事象の実現が適切に考慮されている。

・将来的に可能な経営行動が現実的に検討されている。適用される仮定の重大性およびシナリオの多様性および信頼性は、会社のリスクプロファイルに対して適切である。

ORSAで使用されるストレステストやシナリオ分析では、主要な脆弱性や重要なリスク要因やその他の重要な変数(例えば、将来の業績予想など)を特定することによって、会社のソルベンシーポジションに挑戦する必要がある。

比例原則を考慮すると、ORSAで実施されるストレステストとシナリオ分析の複雑さは、会社によって異なる場合がある。より複雑ではないリスクプロファイルを持つ会社は、ストレステストの重要なリスクのみを選択したり、簡略化された方法を適用することができる。

EIOPAの意見によると、リバースストレステストの使用は、ORSAにおける良好な実践である。

長期保証(LTG)措置および経過措置を適用する場合、規制資本要件および技術的準備金の継続的な遵守の評価は、その措置を適用した場合と適用しなかった場合で計算されるORSA結果を報告する必要がある。より複雑ではないリスクプロファイルを持つ小規模会社は、会社のSCRに重大な影響を及ぼす措置を除けば、使用されたLTG措置および経過措置毎に個別に継続的な遵守を強調する必要はない。

この項目については、以下のようにまとめられている。
 

リバースストレステストおよびORSA評価で使用されるシナリオを含むストレステストの品質は、さらに改善される必要がある:
使用されるストレスは、会社や会社の事業がさらされる可能性のある潜在的なリスクとそのようなリスクを管理するために必要なソルベンシーを、会社が、先見的な考え方で適切に評価することを可能にすべきである。EIOPAは、会社がストレステストの質をさらに向上させることを奨励する。

2|第3章「業界に対するNSAsのフィードバック」について
ORSAの質に関する国家監督当局(NSAs)からのフィードバックは、欧州各地で異なっている。 一般的に、国家監督当局は会社にフィードバックを与え、彼らのORSAに関して会社とのさらなる協議を要請する。

会社にフィードバックを提供する場合、国家監督当局は、国家保険市場およびその他の国家問題の特殊性を精緻化し、考慮に入れる。EIOPAは、より親密でより関与している監督の対象となる会社が、彼らのORSAの質に関して、比例的により細分化されて、すなわちより個々のフィードバックを受け取ることを期待している。

(1)個々のフィードバック
31の国家監督当局のうちの23は、2016年末までに個々のフィードバックを会社に提供していた。個々のフィードバックの仕様は様々であり、口頭でのフィードバック(例えば、AMSBとの会議中、現場検査中、ORSAに対する責任を有する主要機能保有者との電話を通じて)またはそれぞれの会社への書面で与えられる。

(2)パブリック・フィードバック
31の国家監督当局のうちの20は、2016年末までに受け取ったORSA報告書の質について、保険部門に対してパブリック・フィードバックを提供していた。

パブリック・フィードバックは、監督された全ての会社に対する監督レターによって与えられるか、またはそれぞれの国家監督当局のウェブサイトまたは公的な議論の形で公表される。これらの議論は、フォーラム、パネル、セミナーまたはワークショップで行われる。 業界団体とのディスカッションもここに含まれている。

31の国家監督当局のうちの18は、2016年末までに個々とパブリックのフィードバックを組み合せることを選択した。
 

4―まとめ

4―まとめ

今回のEIOPAによるORSAに対する監督評価は、あくまでも今後のORSAの充実に向けての第1歩であると考えられている。2|で述べたように、EIOPAはガイドラインを公表しているが、その内容はプリンシプル・ベースである。保険会社はこのガイドライン等に従って、ORSAを実施し、その内容を監督当局に報告しているが、その内容については、まさに各社のORSAに対する考え方を反映して、多様なものとなっているようである。さらには、各国の保険市場や資産運用市場の特性等も反映して、各国の監督当局の焦点の置き方も異なっているものと思われる。

EIOPAは、ソルベンシーIIにおけるPillarⅠの定量的要件においては、できる限り統一的な形での共通の基準作成を目指していると思われるが、今回の監督評価を見る限り、PillarIIの定性的要件の一つであるORSAに関しては、その趣旨から明らかなように、より各社の実態に応じた適切な自己評価を強く推奨している。EUは1つの経済圏を目指しているが、こと保険市場に関しては、様々な多様性を有する状況にあることを反映して、ORSAに関しては、より各国や各社の特性にマッチした、会社による経営管理や監督当局による管理が行われていくことになるものと思われる。

いずれにしても、監督当局からのフィードバック等を受けて、今後各保険会社がどのような対応を行っていくのかは注目されるところとなる。

EIOPAの評価やそれを受けた保険会社の対応については、日本におけるORSAを考えていく上でも参考になるものであることから、今後の動向については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年06月27日「保険・年金フォーカス」)

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