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EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-
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EIOPAは毎年UFRを計算し、その時に適用されるUFRからの方法論によって十分に異なると判断される場合は、翌年の初めに更新する。更新されるUFRは、毎年3月末までに発表される予定である。更新されたUFRが発表されてから9ヵ月後、EIOPAは、翌年の1月1日のリスクフリー金利期間構造を計算するためにそれらを使用する。
UFRを算出する方法論は2018年から実施することになるので、方法論に従って計算された最初のUFRは、2017年4月初めに発表されることになる。これらのUFRは、2018年1月1日のリスクフリー金利期間構造を計算するために初めて適用されることになる。



また、

主要通貨のUFR水準は、以下の通りとなる。
例えば、ユーロについては、上記の「2) 期待実質金利」が現行の2.2%から1.65%に引き下げられたため、UFRの水準は現行の4.2%から3.65%に引き下げられることになる。
2.65%:スイス・フラン
3.65%:豪ドル、加ドル、ユーロ、チェコ・コルナ、英国ポンド、クロアチア・クーナ、
香港ドルアイスランド・クローナ、日本円、マレーシア・リンギット、
ノルウェー・クローネ、ニュージーランド・ドル、ポーランド・ズロチ、
ルーマニア・レウ、スウェーデン・クローナ、シンガポール・ドル、
タイ・バーツ、台湾ドル、米ドル、韓国ウォン
4.65%:コロンビア・ペソ、チリ・ペソ、ハンガリー・フォリント、メキシコ・ペソ
中国元
5.65%:ブラジル・レアル、インド・ルピー、ロシア・ルーブル、トルコ・リラ
南アフリカ・ランド
前回の提案と同様に、日本のUFRが、現在はスイスと同じ最低水準の3.2%となっているものが、日本銀行のインフレ目標が2%であることが反映されて、スイスとは異なり、他の先進国と同様の3.65%のカテゴリーに分類されている。
(参考)現行のUFRの水準(2017年数値)
3.2%:スイス・フラン、日本円
4.2%:EEA(欧州経済領域)4各国の通貨、以下の国々以外
5.2%:ブラジル・レアル、インド・ルピー、メキシコ・ペソ、トルコ・リラ
南アフリカ・ランド
4 EU加盟28カ国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた国々
今回の方法論は、これまで述べてきた利害関係者からの多くの反対意見にも関わらず、基本的には2016年4月の提案の考え方を踏襲している。ただし、以下のようないくつかの変更が行われている5。
(1)実施時期
新しい方法論に基づくUFR水準の見直しの実施時期については、昨年の提案の「2017年1月」からではなく、1年先延ばしされて「2018年1月」からとなっている。2017年からの実施の延期については、欧州委員会等での動きを受けて、既に、昨年の9月の段階で決定されていたことである。
ただし、保険業界や欧州委員会等からの意見にも関わらず、2021年の長期保証パッケージのレビューを待つのではなくて、2018年1月からのUFR水準の引き下げを提案する内容となっている。
(2)UFR水準の決定方法-期待実質金利-
過去の実質金利の加重については、昨年の提案におけるような、より最近のデータに大きな重みを付けるのではなく、1961年からのデータが等しく扱われている。これは、より最近の低金利がUFR水準の決定において、これまでのように大きな影響力を持っていないことを意味している。
期待実質金利は、1960年からUFRの再計算前の年間実質金利の以下の算式に基づく加重幾何平均となる。
R:期待実質金利 n:1960年からの年数
ri:1960年以降のi 年目の年間実質金利
wi:1960年以降のi年目の加重で、wi=(0.99)n-i
ここに、1960年以降の毎年の年間実質金利は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国、米国の年間実質金利の単純算術平均として、以下の算式で算出される。
実質金利=(短期名目金利―インフレ率)/(1+インフレ率)
「6|具体的なUFR水準」で述べたように、中央銀行のインフレ目標は基本的には変わっていないので、結果として、殆どの国で、最終的なUFR水準が0.05%ポイント引き下げられる形になっている。
(3)毎年の変更幅
一方で、毎年の変更幅の上限については、UFR水準のより一層の安定性を確保する観点から、20bpsから15bpsに引き下げられている。
さらに、今回の提案では、毎年の変更幅の下限も15bpsということになり、15bps以上の変化が無い場合には変更されないことになる。
2016年4月の提案によれば、毎年の変更幅の上限は20bpsに制限されているが、20bps未満の幅の変更も行われる形になっていた。
2016年4月提案時のUFRは、以下の算式による。
ここに、は、年間変更制限後のt年におけるUFR
は、年間変更制限後の(t-1)年におけるUFR
は、年間変更制限前のt年におけるUFR
さらには、今後のUFR水準の変更も15bps未満の幅では行われなくなるため、その変更頻度も減少していく形になり、UFR水準がある意味で安定的に推移していくことになる。一方で、実際に変更が行われる時には15bpsの変更幅となるため、小幅な変更を繰り返す場合に比べて、その影響度は相対的に大きなものとならざるをえなくなる。
将来のUFR水準の予測可能性という観点からは、いずれがより望ましいとは一概には言えないようにも思われるが、繰り返しになるが、EIOPAのGabriel Bernardino会長のコメントによれば「この手法は、UFRが徐々にかつ予測可能な形で動いて、保険者が金利環境の変化に適応し、保険契約者の保護を確実にすることを可能にする。」という自己評価が与えられている。
5 なお、移行措置の適用に関連して、現在は「(移行措置が終了する)2032年におけるUFRを予測して、移行措置の終了後のソルベンシーIIへの遵守を確認する。」ことが求められているが、この要件が削除されることになる。
EIOPAは、ステークホルダーのコメントに対するEIOPAの回答を含むコンサルテーション・レポートを2017年5月初めに発行する予定としている。
4―まとめ(中間)
(2017年04月11日「保険・年金フォーカス」)
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