2017年02月21日

企業内容等の開示は機能しているか?-より具体的な保有目的開示に期待する

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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3――特定投資株式に占める持ち合い株式の割合

次に、特定投資株式として開示される株式のうち、持ち合い株式と判断できる株式の割合を確認する。持ち合い株式の判断基準は、原則、2社間で相互に保有していることが確認できることである。ただし、持株会社形態の会社において、持株会社傘下を通して相互に保有していることが確認できる場合も、持ち合い株式と判断することとした。更に、前章で確認したように、特定投資株式の全てが開示されるわけではなく、持ち合い状況を完全に把握することは不可能である。そこで、精度を高めるため、特定投資株式の開示データに加え、大株主データ(データの出所は東洋経済新報社によるアンケート調査)も利用した。
図表5:特定投資株式のうち、持ち合い株式の割合(保有企業の業種別) その結果を見ると、開示されている特定投資株式のうち、持ち合い株式と判断できる株式は全体の46%に過ぎないことが判明した。なお、金融機関が発行する特定投資株式の場合、相互に保有し合う関係が確認しにくい。一般事業会社とは適用ルールが異なる上に、一般事業会社に比べて特定投資株式を多く保有すると考えられるからだ。そこで、相互に保有し合う関係は確認できないが、金融機関が発行する特定投資株式を合算した割合を算出したが、全体の57%に過ぎない。そして、これらの傾向は保有企業の業種とは関係がなさそうだ(図表5)。








 
しかし、発行企業の業種別に確認すると様相は大きく異なる(図表6)。発行企業の業種が水産の場合、持ち合い株式の割合は76%であるのに対し、発行企業の業種が小売業の場合は16%と、5倍近い差が有る。持ち合い株式の割合の低さは、一方的に保有されている割合の高さとも言い換えられる。概して消費者に近い業種ほど、一方的に保有されている割合が高そうだ。

業種別の確認に加え、保有企業が東証一部上場企業かそれ以外か、並びに、保有企業が報告する特定投資株式の数別に、特定投資株式のうち持ち合い株式の割合を確認したが、これらによる差はほとんどない(図表7、図表8)。
 

4――より具体的な保有目的に期待する

図表6:特定投資株式のうち、持ち合い株式の割合(発行企業の業種別)/図表7:特定投資株式のうち、持ち合い株式の割合(保有企業の上場先別/図表8:特定投資株式のうち、持ち合い株式の割合(保有企業の特定投資株式数別)

4――より具体的な保有目的に期待する

冒頭でも記したが、特定投資株式に関する開示内容の充実は、持ち合い状況の開示に対する問題提起に起因する。

しかし、株式持ち合いの複雑さと提出会社の判断の容易性を勘案し、特定投資株式が開示対象となった。結果として、投資家が持ち合い状況を把握することの容易さは、さほど高まっていない。

そこで、業種、企業の成熟度(上場先)などにより、特定投資株式のうち持ち合い株式が占める割合に差があるならば、多少なりとも、投資家の参考になるのではないかと考え分析に取り組んだ。残念ながら、発行企業の業種以外に、特段の傾向は見られなかった。
 
株式持ち合いの複雑さに起因し、提出会社ですら、株式持ち合いか否かを判断するのが容易でないのだから、外部の投資家が持ち合い状況を把握することは土台無理な話だと諦めるしかないのだろうか。
 
冒頭で記した、コメントに対する金融庁の考え方の続きには、『投資者の投資判断に有益な情報を提供する観点から、純投資目的か否かという保有目的を個別銘柄開示が必要となりうる銘柄であるか否かの基準とした上で、一定の上位銘柄に該当する純投資目的以外の目的で保有する株式については保有目的を具体的に記載することとしました』と記されている。

確かに、個別銘柄開示が必要となりうる銘柄であるか否かの基準と、一定の上位銘柄の指定(貸借対照表計上額が資本金額に占める割合に関わらず、開示が必要な銘柄の範囲拡大)は、有益な情報提供に寄与している。問題は、保有目的の記載内容だろう。特定投資株式毎に保有目的を具体的に記載している企業も一部ある。しかし、大多数の企業は「取引先との関係維持・強化のため」3など同じ保有目的を並べており、お世辞にも具体的とは言えない。
 
コーポレート・ガバナンスに関する開示内容を充実した本来の目的に鑑み、より具体的な保有目的が開示されることに期待したい。
 
3 大多数には、特定投資株式の発行体が金融機関とそれ以外で多少記述が異なる場合も含む。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2017年02月21日「基礎研レポート」)

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