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生活保護と医療-医療の格差は生じていないか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
4――生活保護受給者に対する医療の課題
1|生活保護受給者の精神疾患対策や、健康管理の推進が重要
生活保護受給者は、かかりやすい病気に、特徴がある。まず、入院について、医療扶助は、後期高齢者医療や一般保険医療に比べて、精神・行動障害の割合が高い。これは、精神疾患を患った結果、収入が得られず、生活保護を受けるケースが多いものとみられる10。この結果、医療扶助の受給金額は、入院が入院外の2.1倍と、一般医療などに比べて高くなっている。精神療法、作業療法、生活技能訓練など、患者に応じたリハビリテーションを進めて、精神疾患の改善を図ることが重要と考えられる。
一方、入院外では、後期高齢者医療と同様に、循環器系疾患の割合が高い。内分泌・栄養・代謝や、筋骨格系・結合組織の疾患の割合も高い。これは、高血圧、糖尿病や、高齢期フレイルの患者が多いことを示唆している。これらは、生活習慣病予防や介護予防等により、ある程度、予防や重症化の防止ができるものと見られる。日常生活での健康管理を、更に充実させることが重要と考えられる。
10 一般に、精神科では、患者の入院が長期化しやすい。長期の入院をする患者がいる世帯では、「世帯分離」が行われることがある。世帯分離は、入院患者だけが保護を受け、他の家族は、保護を受けずに自立した生活を送るために、家族間で世帯を分けることを指す。精神科では、世帯分離をした上で、入院患者が生活保護を受給するケースが見られる。
医療扶助は、原則として、自己負担がなく、かかった医療費をすべて負担する。このことは、医療の過剰診療を招いている可能性がある。具体的には、診療と医薬品処方の両面で、その恐れがある11。
(診療) 医科、歯科の診察費や、保険診療内の治療費、手術費は医療扶助の対象となる。これには、リハビリテーションも含まれる。患者としては、医療を受けても、金銭面の負担がない。このため、高頻度入院や、外来での頻回受診が発生しやすい。
(医薬品) 保険薬局等で処方される医薬品にも、患者負担がない。このため、患者に、医薬品を減らすインセンティブは働かない。その結果、例えば、ジェネリック医薬品の使用が進まなくなる。また、精神疾患で、向精神薬等の重複処方が生じやすい。
11 生活保護制度では、不正請求の問題が取り沙汰されている。2014年の生活保護法改正では、不正・不適正受給対策の強化が、改正内容の主要項目とされた。これにより、福祉事務所の調査権限の拡大や、罰則の引上げ・不正受給に係る返還金の上乗せ、本人の事前申出を前提とした保護費との相殺などの規定が整備された。
5――おわりに (私見)
そして、こうした取り組みを通じて、生活困窮者への医療の提供が進むことで、磐石のセーフティネットが構築されるものと考えられる。引き続き、生活保護受給者に向けた医療の動向に、注意が必要と思われる。
(2017年02月07日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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