2017年01月11日

貸家着工にバブルの懸念-住宅投資関数で説明できない好調さ

基礎研REPORT(冊子版) 2017年1月号

  岡 圭佑

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1――住宅着工を牽引する貸家

今年に入ってから貸家の増加が顕著である。貸家の着工戸数(季節調整済み・年率換算値)は2015年7-9月期に40.3万戸と消費増税前のピーク(2013年10-12月期:38.4万戸)を上回った後、10-12月期に一時的に落ち込んだものの年初からは増加を続け持家、分譲住宅との差も一段と広がりを見せている。本稿では貸家の着工が急増する要因について考察するとともに、今後の住宅着工の動向を展望する。
住宅着工戸数(利用関係別)の推移

2――住宅投資関数の推計

まず、最近の貸家着工戸数の変動要因を定量的に測るため、貸家着工戸数を被説明変数とし、金利、住宅ストック数、消費者マインド等の変数を用いて住宅投資関数の推計を試みた。

推計結果をみると、2012年までは実績値と推計値がほぼ一致した動きをしていることが分かる。その後2013年後半からは実績値が推計値を上回る状況が足元まで続いている[図表2]。特に、2013年10-12月期から2014年1-3月期、2016年4-6月期から7-9月期までの期間は推計値を大幅に上回っている。
住宅投資関数による賃貸着工の推計結果

3――実績値と推計値の乖離要因

1|消費増税を見込んだ駆け込み需要
まず実績値と推計値の乖離の原因として考えられるのは、2014年4月の消費増税に関わる駆け込み需要とその反動の影響である。駆け込み需要が発生したと考えられる2013年4-6月期から2014年1-3月期にかけて実績値は推計値を上回る状況が続いており、消費増税前の駆け込み需要の影響があった可能性を指摘できる。しかし、消費増税後も実績値が推計値を上回る水準で推移しており反動減を確認することができない。

消費増税後の反動減が緩和された要因として想定されるのが2017年4月に予定されていた消費増税前の駆け込み需要である。貸家着工戸数は2015年7-9月期の時点で推計値との乖離は見られなかったものの、10-12月期以降実績値が推計値を上回るペースで増加を続け、推計値との乖離は2016年1-3月期( 年率+2万戸程度)、4-6月期(同+6万戸程度)と拡大傾向にある。このように、年明け以降みられる住宅着工の回復の動きは消費再増税を見込んだ駆け込み需要によって一定程度説明できると考えられる。ただし、景気ウォッチャー調査における住宅販売会社の「駆け込み」に関するコメント数を前回と比較すると明らかに少ない。消費再増税の時期は2016年6月に2019年10月への先送りが決定されているが、国内景気の回復の遅れを理由に早い時期から先送り観測が高まっていたこと、前回の消費増税時に需要の先食いが発生したことなどから、消費再増税を見込んだ駆け込み需要の規模はそれ程大きくなかったものと考えられる。


2|相続税改正に伴う節税需要の喚起
消費増税後も実績値が推計値を大きく上回る状況が続いている要因として、2013年度税制改正による相続税増税(2015年1月実施)が指摘できる。基礎控除の引き下げ、税率構造の見直しにより税負担が従来に比べて重くなったため、節税需要が高まったものと考えられる[図表3]。

相続税は相続する財産が金融資産か不動産かによって評価方法が異なり、相続税額に差が生じる。例として、2億円の金融資産をもつ被相続人が法定相続人1人に相続する際、相続財産がそれぞれ金融資産、不動産である場合の相続税額を概算した。

まず金融資産で相続する場合、課税対象となる相続財産の評価額は2億円となる。次に1億円の土地を購入し、その土地に1億円の貸家を建設して相続する場合を想定する[図表4]。土地の課税評価額は路線価(実勢価格の80%程度)で評価されるため、ここでは8,000万円と仮定する。この土地に貸家を建設すると、借地権割合(80%)と借家権割合(30%)を乗じた価額が控除され、6,080万円となる。一方、貸家は一般的に建築費の6割とされる固定資産評価額から借家権割合(30%)と賃貸割合(100%)を乗じた分が減じられるため4,200万円となる。土地と合わせた課税評価額はおよそ1億円と金融資産を相続する場合に比べ半分程度減額される。更に土地面積が200㎡以下の場合、小規模宅地等の特例が適応されることにより土地の評価額が50%減額されるため、課税評価額は7,240万円に低下する。

以上から、貸家建設による節税効果を試算すると、改正前で▲3,764万円(金融資産:3,900万円→土地・貸家(特例適用):136万円)であるが、改正後は▲4,332万円(金融資産:4,860万円→土地・貸家(特例適用):528万円)と大きくなる。 

上記の例では相続財産を2億円としたが、相続財産が2億円以下から2億円超、3億円以下から3億円超、6億円以下から6億円超に変わる場合は、基礎控除の引き下げに加えて新たな税率が適用される。これらに該当する場合は、節税のインセンティブがより強まるものと推測される。
2013年度税制改正(相続税の改正)/貸家による相続税負担軽減効果

4――先行きは供給過剰の懸念が浮上

このように、住宅着工戸数は貸家を中心に堅調に推移している。

しかしながら、懸念材料もみられる。一つが空室率の状況である。空室率インデックス[図表5]の推移をみると、東京都を除く地域では今年に入り上昇基調が明確となっている。こうした実需を伴わない着工の急増は、相続税増税に伴う節税需要の高まりによって押し上げられている面が大きく、いずれ調整局面を迎えることは避けられない。

また、中期的には人口動態が住宅着工に与える影響も懸念される。年齢別に世帯の持家・借家比率をみると、民営借家に住む比率は年齢層が高くなるにつれ低下する傾向にある。すなわち、貸家(民営借家)の需要は39歳以下の世帯数規模の影響を受けやすいことを意味する。

人口問題研究所の人口予測によると、2016~20年の25~39歳以下の人口は3,009万人(5年平均)と、2011~15年の3,327万人(5年平均)に比べ▲320万人減少すると予想されている[図表6]。とりわけ30~39歳については団塊ジュニア世代が40歳代へ移行するため、大幅に減少している。これにより持家の需要が高まる反面、賃貸住宅の需要が減少することが見込まれる。

以上から、先行きの住宅着工戸数を見通すと、引き続き節税需要の高まりが支えとなることが予想される。ただし、実需を伴わない貸家の着工は高水準を維持することが困難であり、いずれ調整を余儀なくされるだろう。また中長期的には人口動態の変化が住宅需要の変化をもたらす可能性もある。住宅着工の先行きを展望する上で、こうした構造的な変化をリスク要因として認識しておくべきろう。
空室率インデックスの推移/賃貸住宅需要年齢層の人口予測
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岡 圭佑

研究・専門分野

(2017年01月11日「基礎研マンスリー」)

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