2016年12月12日

企業物価指数(2016年11月)~円安・資源価格上昇で物価下落圧力は弱まる

岡 圭佑

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.国内企業物価は前年比▲2.2%と下落幅を縮小

12月12日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、2016年11月の国内企業物価は前年比▲2.2%(10月:同▲2.7%)と下落率は前月から0.5ポイント縮小し、事前の市場予想(QUICK集計:同▲2.3%)を上回った。前月比では0.4%(10月:同▲0.1%)となり、夏季電力料金調整後(10月:前年比0.1%→11月:同0.4%)では2ヵ月連続でプラスとなった。

国内企業物価注1の前年比寄与度をみると、鉄鋼・建材関連(10月:前年比▲0.2%→11月:同▲0.1%)、為替・海外市況連動型(10月:前年比▲0.7%→11月:同▲0.4%)、素材(その他)(10月:前年比▲0.7%→11月:同▲0.6%)のマイナス寄与が前月から縮小したため、国内企業物価は前年比で下げ幅を縮小した。

中国景気の回復期待が徐々に高まるなか、トランプ次期米政権のインフラ投資などにより資源需要が高まるとの期待から国際商品相場が堅調に推移していることに加え、円安の進行もあり物価下落圧力は弱まりつつある。対前年比の伸び率をみると、鉄鋼・建材関連(10月:前年比▲1.3%→11月:同▲0.5%)は、中国の需要増加への期待を背景にスクラップの価格が堅調に推移したことから、前月から下げ幅を縮小した。特に為替・海外市況連動型(10月:前年比▲8.8%→11月:同▲5.6%)については、原油価格、非鉄金属の上昇を主因に下落圧力を弱めている。
国内企業物価指数の要因分解/国内企業物価指数の上昇・下落品目数
国内企業物価指数の調査対象品目814品目のうち、前年に比べ上昇したのは226品目(10月:211品目)、下落は504品目(10月:523品目)となった。下落品目と上昇品目の差は278品目で10月の312品目から縮小しており、品目数でみた価格の下落傾向に歯止めがかかりつつある。
 
 
注1  1.機械類:はん用機器、生産用機器、業務用機器、電子部品・デバイス、電気機器、情報通信機器、輸送用機器
   2.鉄鋼・建材関連:鉄鋼、金属製品、窯業・土石製品、製材・木製品、スクラップ類
   3.素材(その他):化学製品、プラスチック製品、繊維製品、パルプ・紙・同製品
   4.為替・海外市況連動型:石油・石炭製品、非鉄金属 
   5.その他:食料品・飲料・たばこ・飼料、その他工業製品、農林水産物、鉱産物

2.輸入物価は円安・国際商品市況の改善で下落幅縮小

11月の輸入物価は、契約通貨ベース(10月:前年比▲4.6%→11月:同▲1.7%)、円ベース(10月:前年比▲14.3%→11月:同▲10.2%)ともに前月から下落幅を縮小した。

輸入物価(円ベース)注2の前年比寄与度をみると、石油・石炭・天然ガス(10月:前年比▲5.4%→11月:同▲3.0%)、金属・同製品(10月:前年比▲1.1%→11月:同▲0.6%)、化学製品(10月:前年比▲0.9%→11月:同▲0.8%)、食料品・飼料(10月:前年比▲1.2%→11月:同▲0.9%)、機械器具(10月:前年比▲3.6%→11月:同▲3.1%)、その他(10月:前年比▲2.0%→11月:同▲1.7%)のいずれもマイナス寄与が縮小したことが、輸入物価(円ベース)の下げ幅を縮小させた。

対前年比の伸び率をみてみると、石炭やLNGが堅調に推移したことや円安の進行を背景に、石油・石炭・液化天然ガス(円ベース)は前年比▲11.4%と前月(同▲20.2%)からマイナス幅を大きく縮小した。

金属・同製品(円ベース)も、鉄鉱石などの金属素材、非鉄金属鉱の下げ止まりから前年比▲6.1%(11月:同▲11.7%)と下げ幅を縮小した。石油・石炭・液化天然ガス、金属・同製品に対してそれぞれ1ヵ月程度の先行性を有する原油価格(ドバイ)、日本銀行国際商品指数が上昇基調を維持していることから、今後も物価下落圧力は弱まることが予想される。
輸入物価指数変化率の要因分解(円ベース)/輸入物価(金属・同製品)の要因分解(円ベース)
輸入物価(円ベース)の変化率を為替要因と契約通貨ベース要因に分解してみると、契約通貨ベース要因による物価下落圧力は弱まるなかで、為替要因による物価下落圧力は16年8月をピークに後退している。
輸入物価指数の変動要因 米国の大統領選挙でトランプ氏が勝利したことを受け、11月の為替レート(月中平均)は1ドル=108.3円(前年比11.6%の円高)と前月の103.8円(前年比13.5%の円高)から円安が進行している。その後も円安の勢いは止まらず、12月の為替レート(月中平均)は1ドル=114.7円程度(前年比6%程度の円高)の水準にある。

原油価格を含めた国際商品市況の持ち直しによって輸入物価の下落圧力は緩和されていることに加え、円安による下押し圧力が弱まることから、引き続き前年比でみたマイナス幅を縮小させていくことが予想される。
 
 
注2 1.機械器具:はん用・生産用・業務用機器、電気・電子機器、輸送用機器
  2.その他:繊維品、木材・同製品、その他産品・製品

3.最終財への下押し圧力は和らぎつつある

需要段階別指数 11月の需要段階別指数(国内品+輸入品)をみると、素原材料が前年比▲13.3%(10月:同▲6.0%)、中間材が前年比▲4.6%(10月:同▲5.3%)、最終財が前年比▲2.8%(10月:同▲3.2%)となった。  

国際商品市況の持ち直しや円安の進行を受けて素原材料は下落幅を縮小しており、最終財への下押し圧力は和らぎつつある。もっとも、既往の円高による物価押し下げ圧力が遅れて反映されることから、最終財の下落幅縮小は緩やかなものとなるだろう。このため、消費者物価(生鮮食品を除く総合)と関連性の高い最終消費財は年末にかけてマイナスが続いた後、年度末までにプラスに転じると予想される。

4.先行きも国内企業物価の持ち直しは緩慢

足もとの金融市場はトランプ氏の勝利を好感し、国際商品市況の改善・円安が進行していることから、前月比でみた国内企業物価(夏季電力料金調整後)は2ヵ月連続でプラスとなった。また、OPECの減産決定を受け原油価格(ドバイ)は1バレル=50ドル台で推移しており、物価下落圧力は緩和される方向にある。もっとも、既往の原油安・円高による物価下落圧力は残存しているため、国内企業物価の持ち直しは緩慢なものにとどまることが予想される。国内企業物価は、円高・原油安の影響が一巡する2016年度末頃までマイナスが続き、2017年度入り後にプラスに転じるとみている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

岡 圭佑

研究・専門分野

(2016年12月12日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【企業物価指数(2016年11月)~円安・資源価格上昇で物価下落圧力は弱まる】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

企業物価指数(2016年11月)~円安・資源価格上昇で物価下落圧力は弱まるのレポート Topへ