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余命判定の時代-不確実性のない時代の生命保険-
松岡 博司
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平成29年(2017年)の年が明けた。21世紀も17年め。私は今年まさかの59歳になる。ちょっと前なら、おとなしく引退していなさいの年だ。
しかし、ベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) -100年時代の人生戦略』の中で、筆者たちは、「人が健康に100年も生きる社会」が到来する中、これまで鉄板だった、教育を受けるステージ、仕事に励むステージ、引退して余生を過ごすステージ、という人生3分割モデルは崩壊し、何度でも、いくつからでもチャレンジできる(すべき)時代が来ると指摘している。日本で2007年に生まれた子供は107歳まで生きる確率が50%あるとの言及まである。
さて、そう言われた私はどうしようか。納得する気持ちはある。しかし今さら、いくつからでも、ステージにこだわらないでチャレンジを、と言われても戸惑う気持ちが強い。
実は平均寿命100歳という言葉には免疫がある。高度成長期の元気な日本で子どもだった頃、藤子・F・不二雄さんの『21エモン』だったか、手塚治虫さんのSFものだったかで、21世紀には医学が進歩して人は死ななくなっており、飽きるまで生きて、もういいと思った人は安楽死センターで死んでいくのだと書いたものを読んだことがある。本題には何の関係もなく、時代背景の説明にすぎなかった、その部分が、とても印象深くて、それ以降の私は、ノストラダムスの大予言も2000年問題も何のその、21世紀まで生き延びさえすれば長生きが約束されるという楽観的な気持ちを心の奥底にしまい込んで生きてきたような気がする。
厚生労働省の簡易生命表では現在の58歳男性の余命は25年。これによれば私は83歳まで生きられるらしい。21エモンの世界が到来するまでにはまだ間があるようだが、『ライフシフト』がベストセラーになるように、時代は着実にそちらに向かって進んでいる。21世紀はまだ80年以上残っている。
さて、そうした社会情勢を認識しながら、実際に60歳を目前にして思うのは、それでも「自分は」いつまで生きるのか、ほんとにわからないなあということだ。社会は長生きの方向に変化しているけれど、さて「自分」はどうなのか。短命なのか長命なのか。元来疑り深い性質なもので、よけいに先が読めない。100歳でも83歳でもそれは統計上の平均値。早く亡くなる人もいれば長く生きる人もいる。やはり短命の線も捨てられない。歳が近い有名人が亡くなると気になる。リオのオリンピック・パラリンピックが終わった時、次の東京は見られるだろうか、その後はどうだろうかと考えた。この4進法、多くの人がやっているのではないだろうか。
一方では、世の流れに流されるのは得意な性質ゆえ、長生きリスクをもろに被弾するのではないかとの心配もある。たいした備えもなく定年後の23有余年を暮らしていけるのか。下流老人、老後破綻、実にキャッチー。認知症も怖い。
方向感のない拡散。21世紀も16年も経って、短命、長寿、それすら判断つかないとは。
でもだいじょうぶ。人工知能、ゲノム医療などなど、近年のテクノロジーと医学の進歩はすさまじい。今まさに人生の不透明感を吹き飛ばしてくれそうな勢いだ。死なない時代、平均寿命100歳の時代がすぐそばに来ているとして、それより前に実現しそうなのが個々人の余命判定だろう。
「あなたの寿命は、あと何年です。」
こう言われたら、人は何を思い何をするのだろう。生きる気力をなくす人もいるだろう。気丈な人はターゲットに向かう人生設計図を作るだろう。
これまで、人生の不透明性が生命保険の普及をもたらしてきた。明日にも命が尽きてしまうのではないかという不安が人を死亡保険に向かわせ、長生きして手持ち資金や公的年金では足りなくなるのではないかとの心配が年金に向かわせる。
人生に曖昧さがない時代は生命保険の存立基盤が失われる時代だ。人の余命が計算される世の中で生保産業が生き残ろうとするならば、個々人の人生設計に寄り添って、必要なときに必要なサービス・給付を先回りしてでも提供する産業になるしかない。その1つの側面は間違いなく高度なノウハウを持つアセットマネージャーに他ならないだろう。
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(2017年01月10日「研究員の眼」)
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